29.魯坊丸、教祖様は止められない。
(天文22年(1553年)7月7日)
祓え給い、清め給え、 神ながら守り給い、幸え給え…………はらったまきよったま。
玉串を供え、厳かに神主の声が響き祭壇に神聖さが広がっている。
外に出るとまるで十日恵比寿のような賑わいだ。
七夕が公家や武家の祭事ならば、庶民まで広げてしまえばよい。
笹に短冊を掛けておしまい。
幸い、豪商などでも真似られていたので熱田で広がるのは早かった。
「この『吹き出し』を使えば、『魔除け』になるのじゃ」
「この『紙衣』を飾ると、裁縫が上手になります」
「この『そろばん』を模った紙細工を飾ると『商売繁盛』です」
お市、お栄、里と我が家の可愛いシスターズが売り子をしている。
直接の手渡しはさせないぞ。
危ないからな。
売るのは巫女様達だ。
お市らは宣伝のみ。
当然だが笹も売っている。
『霊験あらたかな熱田神社の笹は効果効用も3倍増し』
皆さんが有難く買って行ってくれる。
俺はサービスで『大麻』(わさわさとした紙の付いた木の棒)を持って祭壇に上がり、「かしこみ~、かしこみ~…………」とお参りに来た方に向けて簡単な祝詞を読んで、バサッバサッと紙の付いた木の棒を振る。
皆はそれを拝んで有難がる。
「ご苦労様です。次の面談が控えております」
「では、行こう」
次の宮司に大麻を引き継いで迎賓館に移動する。
満員御礼。
皆、来てくれてありがとう。
笹や短冊を売るついでにお札も売っている。
むしろ、こちらがメインだ。
天照大神や熱田明神の御札が売れても俺の懐には余り手当は入って来ない。
裏書で『織田魯坊丸』と書かれたお札ならば2割の手数料が貰える。
これが俺の副収入の1つだ。
熱田で七夕祭りはやっていなかったので、俺が場所を借りて去年から始めた。
笹から短冊や飾りを売り、七夕のお札も売る。
飾りは全て5文から10文で売り、手間賃しか貰っていない。
村の女達や工房の小遣いにしている。
こちらは全部が売れても大した利益にならない。
だが、七夕の御札の儲けは大きい。
小さなお札が10文、大きなお札が100文、木のお札が200文だ。
去年は各種1000個ずつ用意したが見事に完売した。
今年は津島神社や日吉神社やお寺などから依頼を受けて、各1万個ずつ用意した。
2割を手数料に取られるとしても入れ食いだ。
「完売するとお思いですか?」
「しなくともいいのさ。手間賃は1割も掛かっていない。10個に1個以上売れれば、俺は儲かる」
「皆の小遣いになりますからお止めは致しませんが」
「皆が幸せになるのだ。文句もあるまい」
作った者の手間賃として売れた2割を再分配する。
半分くらい売れるとかなりの額になり、皆も喜ぶと思う。
「それで売れ行きはどうだ?」
「お市様の頑張りで熱田は完売する勢いです」
「お市らもお小遣いが入るな」
お市達の札も作った。
それが売れれば、2割の手数料を渡す事になっている。
いいお小遣いになるな。
そうめん、たこ焼き、イカ焼き、かた屋、水飴屋等の出店も出しているので、お札が完売すれば、俺に二千貫文の小遣いが入る。
「わらわの札も買ってたもれ、わらわのお札は完全無敵と衣服に苦労しないのじゃ。お栄の札は家内安全じゃ、里のお札は商売繁盛じゃ。お札を買って、皆、幸せになるのじゃ」
お市は神猪の牡丹の上から紙吹雪を撒きながら宣伝をする。
牡丹の上に乗るお市に手を合わせる人も多い。
摩利支天の噂も中々だ。
お栄と里も巫女装束で台座に上がり、巫女達が上がって宣伝してくれている。
因みに、無敵のお市は『摩利支天』、輝く愛らしさのお栄は救済の『観音菩薩』、温厚な里は商売繁盛の『薬師如来』のお札を作らせた。
「勝手に仏にして、罰が当たりますよ」
「まったくの嘘ではないぞ。俺が直々にお市達に守護童子の名を与えたのだ」
「また、そのような詭弁を」
「ははは、気にするな」
お市を基準に童子を振ってみた。
弁才天の眷属である十五童子がおり、衣裳童子は摩利支天、愛慶童子は観世音菩薩、金財童子は薬師如来となっている。
皆、頑張ってくれる。
ありがたい。
しかし、昨日からお市のはしゃぎ様は異常だ。
「土田御前も中根南城にお越しになられました」
「そのようだな」
「三十郎様、喜六郎様、お市様との時間を多く取りたいと御希望でしたので、離れ屋敷にお市様らのお部屋を用意いたしました」
準備に時間が掛かり、やっと今月に入って土田御前が引っ越して来られた。
離れの屋敷を貸し出した。
屋敷の中で親子水入らずで生活ができるように手配したらしい。
三十郎、喜六郎も元服すれば巣立ってゆき、お市はいつ輿入れがあってもおかしくない。
残り少ない時間を大切にしたいそうだ。
「お市様は昼まで習い事。昼から里様を呼んで側室方と京の遊びや畑仕事を楽しんでおられます」
「楽しんでおるのか?」
「はい、母君の前では大人しい姫を演じております」
あぁ~納得。
末森では子供部屋は離れになっていたので土田御前の目も届き難く、城から抜け出すのも簡単だった。しかし、土田御前と部屋が隣になった為に部屋を抜け出すこともできずに窮屈な生活になっている。
熱田神社のお手伝いは部屋を抜け出す、元い、織田家の為に働く機会になった。
解放されたお市がハイテンションになっているのはその為か。
「自由じゃ、自由じゃ、わらわは自由なのじゃ」
熱田神社に来たお市は花を背中に背負って喜んでいた。
今も有り余る元気を駄々漏れに流している。
さくら達も頑張って護衛してくれているので問題ない。
問題ないよね?
「さぁ、皆衆。わらわ達のお札を買ってたもれ。無病息災、家内安全、商売繁盛を満喫するのじゃ」
さて、俺は各国の者と面談する。
兄上(信長)や信勝兄ぃと会った後、俺との顔を繋ぐ為にやって来た連中だ。
俺は忙しいので、長々と熱田に逗留を余儀なくされる。
そこで銭を落としてくれると、更に嬉しい。
色々と提案してくれる。
良い話もあれば、悪い話もある。
「…………魯坊丸様に於かれては悪い話ではないと思われます」
男は目をにんまりさせて、俺が乗り気になると信じている。
結婚、策謀…………興味ないし、退屈で悪い話だ。
商談は受け付けるが、交渉は兄上(信長)とやってくれ。俺は知らん。
でも、会うぞ。
俺から見れば、皆、福の神だ。
袖の下の金額で会うまでの待ち時間が変わり、その土産額の大きさで個人面談か、団体面談かが変わってくる。
俺の機嫌を取る為に沢山のお土産をありがとう。
賄賂政治、万歳!
(副収入、福収入だ)
相手が格式の高い者ならそんな無茶は言わない。
むしろ、下手にでます。
所謂、『最優先事項よ』と言う奴だ。
更に帝や近衛様の使者は特別扱いになる。
公方様はノォ~カウント。
お市の護衛と称して土田御前から部屋を賜っているので、言伝程度ならそちら経由で言ってくる。
しかも織田家の内情はダダ漏れだ。
だから、俺はこちらから公開してゆく。
野分の被害で忙しく、三河の救済で多額の借財を背負った事も伝えた。
銭が無い。
とてもじゃないが、残して来た兵の食費以上に割ける余裕は無いと伝えて貰っている。
昨日と今日で稼いだ銭の事は伝えない。
「次は何であった?」
「祝詞の時間でございます」
「もうそんな時間か」
宮司が祈祷するのは当然だが、俺にもして欲しいと言う要望が多い。
基本的に断っている。
七夕は俺が起こしたイベントなので、その目玉に祈祷をして欲しいと大宮司に頭を下げられて頼まれた。
6日と7日のみ、1日1回、それも10人限定。
一人50貫文。
目が飛び出るほど高い額を設定して見た。
流石に馬鹿らしく誰も受けまい。
そう思っていたら、20人が揃いました。
「誰だよ。そんな大金を捨てる馬鹿は?」
半分が身内でしたか。
50貫文くらいは端金ですか、そうですか。
一文もまけないぞ、銭は頂きますよ。
もう自棄だ。
『はらったまきよったま』
祈祷のお土産はお札一式と短冊などを下げて『福笹』みたいに仕上げた七夕の笹だ。
明日の朝に川に流すのが勿体無い?
一年飾って、来年に流すのでもいいのじゃない。
好きにして下さい。
しかし、20回の祈祷で1,000貫文(6,000万円)。
ははは、儲かるな。
教祖様は止められない訳だ。
「魯坊丸様、明日、清洲に来て欲しいと使いがやって来ました」
嘘だろう!?
労働の後の休息こそ必要なのだ。
明日の休日が…………その為に俺は頑張ったのに、しくしく。
裁判だ。労組に訴えてやる。
(労組なんて無いけど)
金策すると仕事が舞い込む。
う~~~ん、魯坊丸は唸っています。




