2-2話
智琉と徹のもとに注文したメニューが運ばれてきた。
「お待たせしました。味噌かつ定食です」
二人は割り箸を手に取り、それぞれ食べ始めた。食事を済ませ、湯呑みに入ったお茶を飲みながら徹は話し出した。
徹「まず言っておきたいのは、アンノウンに関しては全ての事が分かってる訳じゃない。現時点でもかなりの謎がある。それを踏まえて聞いてくれると助かる」
智「分かった」
徹「アンノウンってのは簡単に言うと、俺達人間が思い通りに操れる特殊な存在だ。と言っても、誰でも使える訳じゃない。特定の人間にしか扱えない」
智「特定の人間の条件は?」
徹「それは分からない。解明されてない謎の一つだ」
徹は爪楊枝をとり、歯の間のおかずを取った。
徹「アンノウンは通常時はカードの中にいる状態だ。アンノウンを使う者がカードを手に取り呼び出す事でカードの外に姿を現わす。アンノウンはあらゆる種類が存在し、それぞれに特殊な能力を持っている。お前さんのにもあるんじゃないか、何かしらの能力」
智「ああ、あるよ」
徹「アンノウンを宿しているカードを"UC"という。カードはいろんな場所にあるとされている。何者かに保管されていたり誰も知らない場所に存在したりと。ただ、特定のUCは特定の人間と波長が合う事がある。そしてその両者が触れ合うとそのアンノウンは波長の合う人間の正式な所有物となる。この現象を"同調"と呼ばれている。同調が起こるとカードはその人間の体に宿り姿を消す。そしてそれ以降はその人間の意思でカードを具現化させる事が出来る様になる。誰かのものになったアンノウンはその同調した者にしか扱えない」
徹は湯呑みの中のお茶の残りを一気に飲み干した。
徹「ここまで説明ついて来れてるか?」
智「うん、一応」
徹「本当かあ?まあいい、ややこしい説明はここまでだ。こっからはもう少し単純な事を言う」
徹は更に話を続けた。
徹「さっきも言った様にアンノウンにはあらゆる能力があるが、その性質はピンキリだ。便利な能力もあればイマイチ使い方の分からない能力と、そりゃあもう多岐に渡る。勿論、危険極まりない能力だって存在する。能力の危険性が高い程そのアンノウンを使う人間の管理能力も必要だ。それが無い場合はもう手に負えない」
智「無い場合って……」
徹「お前さんも知ってはいるだろ、五年前の大災害」
智「ああ、存在は知ってるが詳しくはよく知らない」
五年前、中部地方から関東地方にかけて甚大な被害をもたらした災害。至る所で地面は裂け、山は崩れ去り、大量の木々や建物がなぎ倒された。富士山の中腹にもひびが入り、そこから流れ出した溶岩は周辺の地域を焼き滅ぼしていった。この災害の原因は何一つ分かっていない事から、この災害は"未知の厄災"と呼ばれた。
徹「この災害の原因は一切分かってないってのが表向きだ」
智「表向き……てことは」
徹「俺達の世界じゃ既に結論づいている。未知の厄災の原因はアンノウンだって事が」
智琉は言い様のない衝撃に襲われた。
徹「アンノウンを使う者が自身のアンノウンでやらかしたって結論に達した。分かるな?ピンからキリまで差はあれどアンノウンの力は強大だ。そしてその力をうまくコントロール出来なかった末にどんな結末が待っているか。それは深く頭に刻み込んでいてほしい」
智琉は顔を強張らせながら首を縦に振った。その様子を見て徹の表情は逆に緩んだ。
徹「そう怯えるな。今言ったのは例えの中でも最悪のケースだ。そこまでの事はそうそう起こるもんでもない。でもまあ、用心するに越した事も無いけどな」
二人は勘定を済ませ、店を出て町を歩いていた。
徹「自慢って訳じゃねえが、俺はこの町一帯をしきっている。この町のアンノウンに関する事情は俺が管理している事になるな。だが言っとくが、俺は保安局に属してる訳じゃないからな」
智「保安局?」
徹「保安局ってのは国から正式に認められた機関で、アンノウンを抑制、管理を行なっている。特に、アンノウンの存在は一般人には秘匿にされているからな、その辺りの徹底なんかも重要な仕事だ。アンノウンに関してはそこを頼れば大体問題無いが、俺は別に保安局の人間じゃない。まあ、自警団みたいなもんと思ってくれ」
徹は立ち止まり周りを大きく見渡しながら言った。
徹「どうだこの町は?いい町だろ」
智「ああ、少し騒がしい気はするけど、なんて言うか平和そうな町だ」
徹「そりゃあ俺が取り仕切ってる町だからな、当然だ」
その後少し、徹の目は遠くを見る様な目に変わった。
徹「未知の厄災の影響はこの町にもあってな、まあ甚大な被害が出たとこに比べたらここは最小限の被害で済んだが、それでも死人は出たんだよ」
智琉は徹の表情に僅かな悲しみと怒りを感じ取った。
徹「例え誰がどんな理由を持っていたとしても、この町を壊すようなマネは絶対に許すつもりは無い。俺はあの時そう誓った」
智「俺もだ、俺もそうだ。俺のせいで誰かに迷惑がかかるのは嫌だ。それで一生後悔する事の無い、そんな決断が出来る様に俺はなりたい」
智琉の言葉に徹は何か腹をくくった様な顔をした。
徹「よし、じゃあ一つテストをする」
智「テスト?」
呆気にとられてる智琉を徹は路地裏へと連れて行った。幅はそこそこ広く車二台が通れるスペースはあるが、薄暗くとても人目にはつきにくい場所だ。
智「ここに何があるんだ?」
徹「言っただろ、アンノウンは一般人には秘匿されてると。あんな人目につく通りでいきなりアンノウンを出すわけにはいかないだろ」
智「どういう意味だ?」
徹「まだ分からないか?お前のアンノウンがどこまで出来るかを俺がテストしてやるんだ。俺のアンノウンで」
徹のその言葉で智琉は理解した。
徹「難しい事はない。ただ俺との戦いに勝つ、それだけだ。だがもし負ければ、それ相応の結果も待っている。どうする?今ならまだ棄権出来る。お前さんの自由だ」
徹は智琉に逃げるチャンスを与えた。が、智琉の頭の中の選択肢にそれは無かった。
智「逃げるなんてとんでもない、やるよ。絶対に勝つさ」
徹「そうか。お前さん、いい目してるよ」
二人は互いに自分の手にUCを具現化させた。
続く
《人物紹介》
廟木 徹
身長176cm 33歳
嫌いなもの:金太郎飴
《アンノウン知識紹介》
同調:特定の人間とUCの間で波長が合うと同調が起き、そのカードはその人間だけの物となる。同調した人間は同調したアンノウンの能力を引き出す事が出来る。同調されていないUCはアンノウンを出す事は出来ても特殊能力を使う事は出来ない。
《世界観紹介》
未知の厄災:五年前に起きた原因不明の大災害。死傷者の数は甚大なものに及ぶ。アンノウンを使う者の間ではこの厄災の原因はアンノウンだと結論付いている。
保安局:アンノウンの管理、取り締まりを国から認可された特別な機関。アンノウンという奇異な存在を取り扱う為、公には知られていない。