表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/96

1-1話




都会の喧騒とは無縁の風景が広がる田舎の中にぽつんと一軒だけ建つ民家。その隣の畑を耕す者が一人いた。

織杜(しきもり)智琉(さとる)、年齢15歳。今は祖父とこの片田舎で二人暮らしをしている。

智「ふう、結構進んだな」

勤「おーい、智」

智「ん、じいちゃん」

家の玄関から智琉を呼ぶ声が聞こえた。祖父の(つとむ)だった。

勤「夕飯が出来たぞ、今日はその辺にしておけ」

智「うん、分かった」

辺りは夕暮れも暗くなってきた。智琉は鍬を納屋にしまい勤の待つ家の中に入っていった。

囲炉裏の前に座り二人は勤の作った夕飯を食べていた。白米に魚の干物、具の少ない味噌汁と極めて質素な内容だが、智琉にとっては何も文句は無かった。

勤「なあ智琉」

突然、勤が口を開いた。

智「何、じいちゃん?」

勤「お前、学校行きたいとか思わないか?」

智「学校……なんで?」

勤「お前ぐらいの歳の子は学校で色々学ぶ事が大切だろうし、なんとかすればお前の学費ぐらいは……」

智「ありがとうじいちゃん、でもいいよ。俺あんまり勉強好きじゃないし、今はじいちゃんと暮らしてる方が楽しいから」

勤「そうか、お前がそう言うんなら……。お前の両親が生きていたら学校へも……、いやなんでもない」

勤は自分の言葉を遮り食事を続けた。

智琉の両親は既に亡くなっていた。三年前、智琉が十二歳の時、家族三人で行った遊園地の事故により智琉の両親はこの世を去った。小学校卒業以降は中学には入らず勤のもとで二人暮らしを続けている。

智「父さんと母さんが死んだ事は確かに悲しいよ。でも落ち込んでばかりじゃいられない。今は前を向いて生きていきたいし、多分父さんと母さんもそう望んでると思うから」

勤「そうか、強いなお前は」

夕飯を食べ終えた頃には日は完全に沈んでいた。




深夜。智琉は自分の布団でぐっすり眠っていた。だが智琉の隣の布団に勤はいなかった。家から数メートル離れた納屋に勤の姿はあった。勤は手に持った一枚のカードを眺めながら何かを呟いていた。

勤「……なんとしても…………絶対……」

?「気苦労ですねえ」

突然、勤の背後から聞きなれない声が聞こえた。

勤「誰だ!」

勤が振り返ると、そこには細身の男が立っていた。

定「自己紹介が必要でしたか?俺の名前は定慈(じょうじ)。あんたに伝える情報はそのくらいでいいでしょう」

勤「……なんの用だ?」

定「分かってるでしょう、あんたが今手に持っているそれ。そのUC(アンノウンカード)を渡してもらいたい」

定慈と名乗る男は勤の待つカードを指差して言った。

勤「そうか、お前もアンノウンを使う者か」

定「そうですその通り。なら心配はいらないでしょう、それを俺に渡して下さい」

勤「お前の様な胡散臭い男にこのカードは渡さん」

定「アンノウンを使う者は胡散臭いぐらいが丁度良いんですよ」

勤「……さっさと帰れ」

定慈は歩み寄って距離を詰めるが、勤は頑なに態度を変えなかった。

定「勤さん、意思が固いのは悪い事じゃありませんが行き過ぎもあまりよろしくないと思いますよ。そこまで頑固だと俺もやっちゃいますよ、実力行使ってやつ」

そういうと定慈は自分の右手を開けた。すると定慈の手のひらに一枚のカードが具現化された。そのカードを勤に見せつける様にして手に持って見せた。

勤「やろうというのか?」

定「あんたが黙って渡してくれりゃ何もしませんよ」

勤「……仕方がないな」

そう言うと勤は持っていたカードを強く握りしめた。その行動に定慈は少し驚いた表情を浮かべた。

定「まさかそれを使おうってんじゃ……」

定慈が言い終わらない内に勤の持っていたカードが強く光り出した。するとそのカードから勤の倍以上の大きさの赤いドラゴンが姿を現した。納屋よりも大きかった為、納屋はほぼ半壊状態になった。

勤「UC(アンノウンカード)"レッド・ドラゴン"」

勤の対応に定慈は少し呆れた顔をした。

定「アンノウンを出すのは良いが、何故自分のアンノウンで対処しようとしないのか。俺の事なめてます?」

勤「お前を追い払うのにはこれで十分だ」

定「そうかい。高くつくよ」

定慈のカードからも光が発せられた。そのカードから不気味に口を開けたぬいぐるみを右手に付けた人の様なものが姿を現した。

定「UC(アンノウンカード)"パペット・マスター"」

互いのアンノウンと呼ばれる存在の間に緊張した空気が張られた。

定「勤さん、これが最後の忠告です。そのカードをこちらに渡して下さい」

勤「断る」

定「そうですか。じゃあ仕方ない」

定慈がそう言うと、パペット・マスターのぬいぐるみが大きく口を開けた。その動きを見て勤はレッド・ドラゴンを突撃させた。定慈はパペット・マスターを操作してその攻撃を回避した。

定「危ないですねえ。ていうか乱暴な」

勤「何しろ自分のアンノウンじゃないからな、操作もあまり慣れてない」

定「老体に鞭打って慣れないアンノウン使ってると足下すくわれますよ」

パペット・マスターのぬいぐるみの口がまたも大きく開き始めた。その行動に再びレッド・ドラゴンを突撃させた。

定「その攻撃はさっき見た」

パペット・マスターは今度は高くジャンプしてレッド・ドラゴンの攻撃を避けた。勤の丁度真上にきたパペット・マスターのぬいぐるみの口から緑色の液体が勤目掛けて大量に降り注がれた。勤は咄嗟に倒れ込む様にして横へ回避した。勤が元いた場所の地面や近くにあった納屋の道具などはドロドロに溶けていた。

勤「こ、これは?」

定「怯えたか?それがパペット・マスターの能力。口から出た液体はどんな物でも溶かしてしまうんですよ」

跡形もなく溶けた残骸を見て勤の表情は一気に強張った。

定「忠告は最後と言ったが、降参するのならいつでも聞きますよ。どうか賢明な判断を」

勤「…………そうだな」

定「お!」

勤の口から出た以外な言葉に驚きつつも定慈の顔から笑みがこぼれた。

勤「確かに、お前の言う通りかもしれん」

定「理解して頂いた様で。ではそのカードを……」

勤「お前の言う通り、慣れないアンノウンを使っていてはお前に勝つのはちょいと難しいかもしれんな」

定「…………あ?」

そう言うと勤はレッド・ドラゴンをカードに戻した。そしてそのカードをポケットに入れると、手ぶらになった手のひらにカードを具現化させた。

定「……やれやれ、どこまでも強情な人だ」

勤のカードから黒い装束、黒いスカーフ、黒いマスクと全身黒い様相を呈した人型のアンノウンが現れた。

勤「UC(アンノウンカード)"シャドー・ダンサー"」




続く



《人物紹介》

織杜しきもり 智琉さとる

身長166cm 15歳

嫌いなもの:真夜中の猫の鳴き声


織杜 つとむ

身長165cm 79歳

嫌いなもの:牛乳

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ