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台風の名残り雨がぱらぱらと逸郎の傘で音を奏でた。抱きしめた逸郎の体が腕の中で身動ぐ。器用に英介の手をかいくぐった逸郎の手が持ち上がり、英介の髪を撫でた。
背は追い越しても変わらぬ子供扱いに、英介はもう抗わなかった。泣き出したかった小学生の頃を思い出す。
泣きたかった。
「ごめん」
「なんで」
「心配かけて。よくここが分かったね」
「なかなか帰ってこなかったから」
「酒がないって怒ってるかな」
「みんな心配してる、いっくんのお母さんも」
「そうか」
ゆっくりと逸郎の体が離れる。傘を閉じて手を引く彼に誘われ、濡れた茂みをかいくぐりながら洞窟の中へ入る。子供の頃に感じた暗さも、広さも、記憶より大したことはなかった。入り口に近いからか整った逸郎の目鼻立ちもくっきりと見えた。
「なんかさ、じいちゃん死んだのに僕だけが悲しいのかなって」
彼の母親とよく似た大きな目が伏せられて、濡れた瞳が瞼に覆われる。顔を上げさせて英介は思わず逸郎の唇を自らの唇で塞いだ。小学生の頃に逸郎の祖父が切った西瓜の味も、口の端についた種を舐め取る逸郎の舌の感触も、土砂降りの中ここで逸郎の黄色い傘を待っていたことも、記憶は何もかも鮮明に脳裏を駆け巡った。
逸郎の手が英介の頭を掻きいだき、口付けは更に深くなった。きっと初恋だった。それに逸郎は気付いていて、英介は気付いていなかっただけで、二人にとって等しく初恋だったのだと英介は思った。
小学校の頃とはすっかり変わってしまった互いの身体を確かめ合うようにまさぐり、逸郎に導かれるまま互いの熱を擦り合わせて放つ。誰とも付き合ったことがないと言った彼は、けれど童貞ではない英介よりもはるかに同性同士のこの行為に馴れているように感じられた。
「ずっと好きだった。ごめんね」
洞窟の入り口に覆い茂る草木から滴る雨水で手と下肢を洗うと、逸郎が謝る意味などどうでもよくて二人で声を立てて笑い合った。
長く続いた雨がようやく上がった。




