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突然降り出した夕立のせいでただでさえ暗くなっていたのに、裏山の鬱蒼とした木々の中へ足を踏み入れると辺りは更に暗くなった。小降りであれば雨がしのげたかもしれない木々の葉もバケツをひっくり返したような雨の前には雨宿りの足しにもならず、まるで服のまま泳ぎに行ったような有様になった。
もうとっくに泣いていたのに、英介は泣きそうになるのをぐっと堪えて山林の奥へと地面を踏みしめる。むき出しの岩は濡れいて、うっかり足を乗せるとつるりと滑る。道らしい道はないが、上級生が踏み荒らした跡を頼りに山を登る。
上級生たちが洞窟探検と称して遊び場にしている穴は、思ったよりも近くでぽっかりと口を開けていた。慎重に近付き、英介は中を覗く。
涙はいつのまにか引っ込んでいた。
洞窟の中は闇だ。
きっと晴れていてもこの中は変わらないだろうと想像する。
ビシャリと雷鳴が轟き、英介の背中がびくりと跳ねる。
激しい雨足に後押される形で英介は恐る恐る穴の中へ入った。
「あ、あ。あー」
自分の出した声が反響する。反響するのにすぐにシンと静まり返る。その静寂が恐ろしくて英介は間断なく声を発した。
壁伝いに手を触れて広さを確かめる。さほど奥へと続いている様子はないが、長い一周の末に再び入口へと辿り着くことができた。だんだんと暗闇に慣れた目には、薄暗い山林の外すら眩しく感じられた。
幼い子たちが憧れる「洞窟探検」は、そう言うと一様に上級生たちが曖昧に笑った理由がようやく分かった。洞窟は奥へと進むような類いのものではなく、中が大きな広間になっているに過ぎなかった。ただし、大人が何十人も入れるような広さだった。
正体の分からないものも、知ってしまえばあっけなかった。もう英介は声を発するのをやめ、降り続く雨を眺めているだけだった。びしょ濡れであることに変わりはないのに、この雨の中、引き返すのが躊躇われる。
もしも逸郎と一緒に来ていたなら。逸郎と一緒に、雨具の用意もして、懐中電灯の一つでも下げてここへ来ていたなら、洞窟探検はきっと楽しかったことだろう。例えその洞窟の全容がつまらない大広間だったとしても、それを一緒に笑うことができた。
そう思うとまた泣きたい気持ちになってきた。
「いっくん」
知らずに呟いた先、暗い暗い山林の中に、一際色鮮やかな黄色い点が見えた。点は次第に大きくなり、やがて傘の形になった。
「いっくん!」
土砂降りの雨の音に掻き消されないよう大きな声で呼ぶと、小さな黄色いコウモリ傘がひょこりと後ろへ下がり、中から顔が現れる。
傘が上下に揺れながら、だんだんと近付く速度が上がる。
逸郎は洞窟の入り口まで駆け寄ると、乱れた呼吸を落ち着かせる間もなく口を開いた。
「ばか英介。えーくんのばか」
傘の柄を握りしめた手とは逆の手で、逸郎は英介の濡れた体を抱きしめた。




