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 通夜の参列者には逸郎の両親のほかにも多くの親戚がいた。殆ど見知らぬ顔に、これだけの人が逸郎の祖父を島に置き去りにして暮らしているのかと思った。

 逸郎の祖父が亡くなった後、連絡を受けた彼の両親がいち早く島へやってきて通夜や葬式の段取りをした。彼らは面倒を看ていた逸郎を責めることなく、ただ感謝の言葉をかけていた。その違和感に英介が気付いたのは通夜ぶるまいも終わりに差し掛かった頃だった。

 自分の親が亡くなっても泣かないのがとても不思議だった。こういう場合、いくら面倒を看ていたとは言え、取り乱して逸郎を詰ったりしないものなのだろうか。

「父さんはね、じいちゃんと仲が悪かったらしい」

 酔い潰れた男たちが転がる祭壇の前で、短くなった線香のそばに新しい線香を立てて逸郎が言った。

「元々はここで父さんも母さんも暮らしてたんだ。でも、僕が産まれる前、父さんがいなくなるとじいちゃんは母さんを追い出して僕だけを手元に置いた。そのことで母さんはとても苦労したらしい。母さんは元々この島の人間じゃないし、実家ももうなくなっていたしね」

 外では台風の雨風がごうごうと音を立てて男たちの鼾を掻き消していた。もう一日でも遅ければ、参列者は誰一人この島へ来ることはできなかっただろう。船が欠航になったのは通夜の終わった夕方のことだった。

 西瓜を運ぶ老いた姿に、逸郎の母親を追い出すような真似が想像できなくて、英介は思わず遺影を見上げた。考えていることなどお見通しなのだろう、逸郎が少し笑う。

「じいちゃんはじいちゃんで、きっと母さんのことが不憫だったんだと思う。戦争に行ったきり帰ってこない人に縛られて、ずっとこの島で暮らしてくことを思えば、僕や父さんのことなんか忘れて新しくいい人を見つけて欲しかったんじゃないかな」

「ああ……なんだ」

「でも、そういうのってちゃんと言わないと伝わらないから」

「うん」

 誰も悪くはないのだ、と逸郎は言った。

「母さんはこの家を追い出されて、女一人で食べていかなきゃならなかったし、戦争が終わって何年も経ってから復員した父さんだってろくに仕事につけなくて大変だったらしい。二人がやっと落ち着いた暮らしができるようになって僕を呼び寄せた。それが小学校六年の夏」

 英介も、そして逸郎も戦争自体は生まれる前の話だ。だが、大人たちから話を伝え聞くだけの英介とは異なり、逸郎には直接その影響がある。それが、三歳という年の差だった。

 島へ戻ってきた逸郎に、彼の祖父は衰弱した老体に鞭打って土下座をした。逸郎の母に要らぬ苦労をさせたこと、親子三人で暮らせるはずだった逸郎の幼少期を奪ってしまったこと、畳に額を擦り付けんばかりに伏して謝罪する祖父の姿に、逸郎は全てを悟ったような気がしたと言った。

「誰も悪くないんだ」

 逸郎はもう一度そう言った。

 まるで自分に言い聞かせるようでもあった。

「……誰も、悪くない。いっくんも、悪くない」

 あの夏、洞窟に行けなかったのは逸郎の所為ではない。

 英介はそういう意味を込めて逸郎を赦す。胸のあたりのつかえが取れたような気がした。

 ありがとう、と逸郎が言った。

 とても穏やかな彼の表情は、英介のよく知る幼い日の逸郎の顔そのものだった。


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