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答案用紙に丸をつけるペンの音だけが響いていた。
正答率は六割といったところだろう。全て採点し終えて赤ペンを置く。
「ああ、悪くないと思う」
そう言うと彼は黙ったまま複雑な表情を浮かべた。
それもそうだろう。数学のレベルにすら達しない小学校の算数レベルの問題なのだから。
「そう気落ちするなよ、こうして一緒にいられるだけで嬉しいんだから」
「……なら良かった。でも、退屈じゃないか?」
「まさか。また逢えただけでも奇跡なんじゃないかって思う」
そして英介と逸郎は心地良い疲れから椅子の背もたれに上体を預ける。
大きな窓からは真夏の強い陽射しが室内を明るく照らしていたが、快適な温度に保つエアコンがそれを感じさせなかった。
とても穏やかな時間だ。
あの夏とは違い、時は緩やかに流れていく。
もう離れなくて済むのだと思うと、ぎゅっと胸が締め付けられて苦しいぐらいに幸せだった。どうしてあんなにも長い間、離れ離れで生きてこられたのだろうか。
もう、離れない。
離さない、二度と。