風呂を出ると何かが来ました。
「さて、そろそろ出るかな、グレアも出るか?」
「はいです!」
「ブルブルは向こうでやってくれよ?
終わったらこっちへ来い拭いてやるから」
俺は脱いだ下着で体を拭き、ホールに入って新しい下着に着替えた。
できたら上に羽織るような服も欲しいんだが……。
人から見上げられたら、まず間違いなく隙間からチ〇コが見える。
「ご主人様、ブルブルは終わりました」
「おう、俺の下着で悪いが体を拭くぞ」
グレアの体をごしごしと拭いた。
「あぁ、ご主人様の匂いで包まれます……」
そこで目が細くなる理由って……。
「はい、終わり」
「えっ、もうおわり?」
「ああ、ほぼほぼ乾いたからな」
「残念です」
ついでに下着を軽く洗って、よく絞って木に引っかけておく。
「さっきまでは灰色に見えたんだが、お前奇麗な銀色なんだな」
フワフワになった毛が銀色に輝く。
「私は銀狼です。
進化するとフェンリルになれるんですよ?」
「フェンリルか、カッコいいな」
「魔法も使えるようになります。
お父さまはフェンリルだったんです。
水や雪の魔法を使ってかっこよかったんです。
狩られてしまいましたが……」
グレア悲しい事を思い出したのか目を伏せた。
「おう、悪い。
嫌なこと思い出したか」
「いいえ大丈夫です。
今はご主人様も居て一人じゃありませんから」
顔を上げるグレア。
「かわいいのう、褒美じゃ」
俺はグレアの体をワシワシと撫でた。
おっと、レーダーに反応。結構早いね。
赤だから敵対心有りか。
「グレア、何かがこっちに来てる」
俺はグレアに言った。
「ハイです!
どうすればいいですか?」
「向こうから来てくれるんだ、待ってればいい」
何かが来る方を見ると小さな黒い点が見えた。それがどんどん大きくなる。そして、
「温泉じゃあ!」
と言う声と共に風呂が爆発する。
俺とグレアは水しぶきで濡れ鼠になってしまった。
もうもうと上がる湯気の中、湯船の中に何かの影を確認する。
しばらくすると湯気は消えそこには俺の胸ぐらい、んーっと十五メートル程度の黒いドラゴンが居た。
おお、初ドラゴン。
ちょっと感動したが俺はそのドラゴンへ近づくと
「誰だ、俺の風呂にかけ湯もしないで入るな!」
声を上げて怒る。
「ご主人様、かけ湯はそんなに重要ですか?」
するとグレアが首を傾げて聞いてくる。
「重要だ! 次に入る人が困る」
「次の人って、私たち以外に居ないのに」
冷静に答えてくるグレアに俺の怒りが覚める。
「でもな、あのドラゴンが入った後、俺らが入る可能性があるぞ?
あれ見ろ、結構汚れてないか?」
ドラゴンに付いていた汚れみたいなのがうっすらと浮いていた。
「確かにあんな風になるなら、かけ湯は必要です」
「納得できたか?」
「はい」
ウンウンとグレアは頷いた。
「で、お前、俺の風呂に勝手に入って何やってる?」
俺は湯船の中に居る者に話しかけた。
「誰じゃ、ブラックドラゴンたる我に意見をするのは!」
俺とグレアはじっとドラゴンを見る。
「おっと、ドラゴンさんでしたか失礼しました。
ただ、俺の風呂にかけ湯もしないで突っ込んで来て、俺達をびしょびしょにするのは無礼だと思うのですが?」
わざとらしく大げさに言うと、
「わっ我が無礼?」
「無礼だろう?
ここはお前の家じゃない、俺のだ。
お前の家に何の断りもなく誰かが入ってきたらどうする?」
「ブレスで焼くか、魔法で焼くかじゃな」
どっちにしろ焼くのね……。
「だったら、俺はどうすればいい?
無断で人の家に入ってきたお前を焼けばいいのか?」
「そんなことを言われてものう、我はドラゴンじゃし」
胸の前で両手を動かしモジモジとしているドラゴン。
「ドラゴンだったら何をしてもいいのか?」
俺が追い打ちをかける。
「いや、そうじゃない」
「だったら、お前が我々を焼くのは良くて、俺がお前を焼くのはダメ?」
しばらくドラゴンは考えると納得したのか、
「すまぬ。我が間違っておった、悪い事をしたのう……」
と言って謝ってきた。
「わかればいいんだよ。
この風呂はかけ湯無しで入らんでくれるか?
洗面器が無いのでこれで頼む。
お前両手使えるから湯をかけられるだろ?」
俺はドラゴンに洗面器代わりの兜を差し出す。
「かけ湯はどうすればいいのじゃ?」
「こうすればいい。こうすれば汚れが落ちるので風呂の中が汚れなくて済む。
さっきお前が入ったあと汚れが浮いているだろ?」
「本当じゃ、我は汚れておったのじゃな」
俺は兜に湯を汲み、ドラゴンの頭からかける。背中とか届かなそうなところもついでに擦った。
「ああ、気持ちいいのじゃ。
そなた名は?」
「アリヨシだよ。
そのままアリヨシって呼んでくれ」
「我はノワル。
呼び捨てで良いぞ。
まあ、風呂の事はすまなんだ」
ペコリとドラゴンは謝った。
「偉いなちゃんと謝れるんだ」
「我は偉いか?」
「ああ、偉いぞ」
「我は偉いのか……」
独り言のように言う。
「さあ、綺麗になった。
存分に浸かってくれ」
俺がそう言うと、ノワルは湯船に浸かった。
「さて、俺らは拭きなおして乾かすか」
俺はランニングを脱ぎそれで体を拭いた。
「グレア、ちょっとおいで」
「はいです!」
体を拭いてもらえるのでテンションが高い。
「ご主人様の匂いです」
拭いている間はまた目を細めていた。
「はい終わり」
グレアの体を拭き終わるころ、のっそりとノワルが風呂から出てくる。
そして俺たちの方を羨ましそうに見た。
「いいのう……」
「ん?どうした?」
「わっ、我も拭いてもらえんかの?
ダメならいいんじゃが……」
拭いて貰いたくて堪らないようだ。
「おう、いいぞ?」
そう言ってノワルに近づくと
「じゃあ、拭くぞ」
そう言ってノワルを拭きだした。
「気持ちいいのじゃ、それにいい匂いもする」
「そうです、ご主人様はいい匂いがするのです」
匂いフェチ増殖中。
「そういや、俺ら会話できてるよな」
「俺とグレアは繋がっているからわかるが、俺とノワルは違うからな」
「私は獣の言葉を理解しているので、私とご主人様が繋がっているから理解できるのかもしれないです」
「我は獣の言葉も人語も理解しておるからかもしれんの。
これでも八百歳を超えておるのじゃ」
「結構歳いってるんだな」
「失礼な!ドラゴンは五千歳生きる。
じゃから我はピチピチなのじゃ」
こっちにもピチピチって言葉あるのね。
「人間で言うと十六歳?
若いねぇ……確かにピチピチだなぁ」
「じゃろう?」
「銀狼の寿命ってどのくらい?」
「わかりません、銀狼と進化したフェンリルでは寿命が全然違うと言われています。
フェンリルは千年以上生きると言われていますから」
「フェンリルになるにはどうすればいいんだ?」
俺が聞くと、
「取り込んだ魔力の量が関係するらしいのです」
とグレアは言った。
「狩って食う必要がある訳ね」
「強いものを狩って食べる。
あとは強い者から魔力を貰うといいみたいです」
「まあ、機会が有れば狩りもしないとな。
俺の寿命は知らないが、俺より先に死んでもらっては困る。
置いて行かれるよりは置いて行く方がいいかな。
まあ、それまでは一緒に居てくれ、グレア」
そういうと、グレアが俺の足にそっと寄り添った。
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