温泉が張れたので風呂に入りました。
朝になり目を覚ますと、知らないうちに俺の胸の上にグレアの顔があった。
「グレアって寝相悪い?」
俺が聞くと、
「ご主人様が上を向いて寝ていたので、お邪魔させてもらいました。
心臓の音が心地いいのです」
と言ってうっとりしていた。
赤ちゃんが心音を聞くと眠るって聞いたことがあるな。
「えっ一度起きて、俺の上に乗ったのか?」
「そうです。
寝心地良さそうだったので」
俺の事は考えてくれなかったのね……。
でもまあ、寝れたから良しとするか。
さて、温泉はどうなったかな?
俺はホールを出て外に出ると温泉が湯船一杯になっていた。
「おぉ、湯が張れている。
あとは湯温だよな」
湯船に近づき手を入れると丁度いい感じだった。
「源泉かけ流し温泉完成」
早速、大将状態のタンクトップとトランクスを脱ぎ風呂に入る。
洗面器が無いのがもどかしい。
仕方ないので兜を洗面器の代わりにしてかけ湯を行った。
何か作らないと兜が変色しそう。
「あーーーー気持ちいい」
ちょっと熱めの肌を刺すような感じ。
「染み渡るぅ」ってとこかな?
肩まで浸かりボーっとする。
「私も入りますぅ」
俺が風呂で気持ち良くしていたのを見たグレアが風呂に飛び込んできた。
「ダメダメ、一度出て!」
「なぜです?」
「かけ湯をしてからじゃないと汚れが入っちゃうだろ?
お風呂に入る時はそうしないといけないの。」
俺とグレアは一度湯船から出た。
「うわっ」
濡れた動物特有の例のブルブルを食らってしまった。
「あっすみません。
無意識に……」
「まあいい、そこに立って」
俺は兜で湯を汲みグレアにかける。
すると流れに落ちる湯の色が黒く変わる。
「お前、結構汚れているな?」
「わかりません。
お風呂に入ったことも無いから汚れなど気にしたことも無かったし、痒かったら木に体をこすりつけるぐらいでしたから……」
体を見ると灰色の毛皮の中に黒や白の汚れが見える。
虫も居るのか?
意外と体毛も長いのか気の葉っぱや枝も纏わりついていた。
「洗ってやろうか?」
「洗ってもらえるんですか?」
「いいぞ、ちょっとじっとしてて」
俺は湯をかけながら背中や脇を洗ってやる。
本当はシャンプーが良いんだけど、そんな便利なものは無いしなぁ。
「あっ、えっ、何これ」
グレアが声を出して震え、そのうち体の力が抜け伏せの状態になった。
「立ってないと洗えないだろ?」
「ご主人様の指が気持ちよすぎて、立ってられません」
そんなもん?
「まあ、頭と背中や足は終わったから、お腹出せ!
ついでに尻尾も洗ってやる」
服従のポーズになるグレア。
「えっ、ダメ、ご主人様の指が私のぉ……」
ただ洗ってるだけなんだがなぁ……。
グレアの体から力が抜けた。
グレアを洗い終わると抱き上げ湯船に入れる。
「どうだ? 気持ちいいだろ?」
「ふう、落ち着きますね。巨人ってお風呂に入るんですね」
「いや、巨人はしないと思うけど」
「ご主人様はなぜ?」
「んー、この体は昔エルフが作った体みたいなんだ。
その中に入った魂……まあ俺の事なんだけど……は別の世界の巨人じゃなくて人間だったんだ。
だから俺が生きていた前の世界の人間の知識を持っている。
前の世界では毎日風呂に入ってたからその癖だね」
あまり分かっていないようだ。
グレアは首をひねっていた。
「ご主人様は違うんですね」
おぉ、大分端折ったな。
「まあ、それでいいよ」
俺は上を向いて湯船の縁を枕代わりにする。
グレアは湯船に顎を置き目を瞑っている。
二人でボーっと静かな時間を過ごした。
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