始まり
連載物です。
楽しんで読んでいただけると幸いです。
ヨーロッパではテロが相次ぎ、アフリカでは疫病がはやり、隣国では核ミサイル問題が物議を醸している良くも悪くも慌ただしく、欲望にまみれたこの世の中に、春が訪れることはあるのだろうか。
かつて井○陽水は自殺者の増加よりも、我が国の将来よりも、雨が降っている中、傘がないことを最大の問題に位置付けた。つまりは周りがどうかということではなく、主観的な問題なのであろう。
したがって、本人がそう思うのであれば、こんな世の中にも春はちゃんとやってくるのである。そして、それはあまりに唐突で、何か大切なものを忘れさせてしまうのだ。
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オレの名前は白石 晃で、17歳の男子高校生である。都内の高校に通っており、昨年から両親とは離れて、一人で、小さなアパートで暮らしをしている。親とは仲が悪いわけではなく、単純に都会の利便性を踏まえた選択である。
オレの高校は今や絶滅危惧種となってしまった男子校で、一応進学校とは言われているものの、男子校であるが故にオレは(よく言えば)、周りの目を気にすることなく自由な日常を過ごすことができている。
言い方を変えよう。
女子がいないので、だらしない生活を送っているのだ。
そして、世の中の高校生が皆きゃっきゃうふふな青春をしてる中、(←男子校の生徒は共学の奴らは皆リア充だと思っている節がある。)オレは男しかいないむさ苦しい学校で勉学に励んでいるのだ。
オレもきゃっきゃうふふしたい。オレ、いやオレたち男子校生徒は常日頃からそんなことを切実に願っているのである。
ある日そんなオレの元に一人の女の子が訪れた。
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日曜日の夕方のことだった。インターホンが鳴り、オレは玄関に行った。
「こんにちは。風見 雫と申します。」
ドアを開けると、紙袋を持った清楚な感じの女の子が立っていた。
「今日から隣の部屋に住むことになりました。つまらないものですが、これ、お受け取りください。」
そう言って彼女は紙袋をオレに渡した。小さい身体とは裏腹にかなりはっきりとした物言いである。それにしても、今時田舎でもないのに引っ越しの挨拶をする人なんて珍しい。きっとよくできた子なのだろう。
「あー、ありがとうございます。オレは、」
「白石さんですね。郵便受けを見ました。」
セリフを取られた。彼女は続けて喋った。
「一身上の都合で今日からここで住まわせていただきます。よろしくお願いしますね。」
「お、おう。こちらこそ、よろしく。」
突然の出来事にオレは緊張していた。いや、どちらかというと緊張していたのは別の理由だ。実のところ、女子と話したのが久しぶりすぎて、ドギマギしていたのだ。
風見雫はその後、急ぐようにドアを閉めて自分の部屋に戻っていった。オレは関わることはなさそうだなと思い、紙袋の中を見た。
中には、そうめんが入っていた。引っ越しと言えば普通は蕎麦じゃないのか、とは思ったけどオレは蕎麦アレルギーなので、そうめんをありがたく受け取った。