テーベの任務
少し短いですが、キリが良いのでアップします。
「一体、何をしろとおっしゃるのでしょう?」
セフィーラが怖いことは知っていた。だが、この日の彼は鬼気迫るものがあった。
その迫力にたじろぐ。
「神官として、中央山脈の麓、タナアの少し南に住んで欲しい」
「タナアの少し南と言いますと」
「フーギンだ。もっとも、今はまだ、何もない山の中だ」
「そこって、セフィーラさまの出身地じゃ……」
「そうだ。私の出身地だ。我が家には、極秘の家訓があった。
それは、将来、ミコーヤが滅亡する前、巫女が出現すると言うのだ」
「それって…」
あわあわと言葉を探すと、セフィーラが続けた。
「巫女が出現して五十年ほどで世界が終わる。
巫女は、ミコーヤの民を救おうと様々な手立てを講じる。
私たち一族は、全力で巫女を支えなければならない。
巫女がしようとすることには理由を一切詮索せず、無条件でその命に従わなければならない。
それが、ミコーヤの民の生命を救うことに繋がる。と言うのだ」
セフィーラの父、ゼーナがシーナと会った時、この家訓を思い出したという。
「テーベ、フーギンで神官として地域の人々を導いてほしい。
そうすれば、お前の子孫が巫女に会うことになるだろう」
「それって、僕がセフィーラさまの先祖になるってことですか」
セフィーラは黙って頷いた。セフィーラが知る限り、フーギンに住み着いて神官となった初代の名はテーベと言う。
カイは、シーナの指示で、あの地に、あの時代に残った。
彼らの子孫が、将来、ミコーヤを助けに行くために、壮大な使命を受け入れたのだ。
テーベは、この地で、この時代でセフィーラの命に従うべきだろう。
ここまで聞いてしまったのだ。逃げ道はない。
テーベは、セフィーラの命を承諾した。
この時代に飛んだ神官の中で、フーギンに住んで巫女を支援する一族を育てるには、テーベが最も適任だった。
テーベの真面目さ、頑固さ、特に、信じることに対するに頑ななまでの実直さは、彼の子孫に受け継がれるだろう。
そして、将来、巫女が現れたら、全力で巫女を支援するだろう。
セフィーラの長い時間をかけた仕事が、ようやく終わろうとしていた。
後は、この地に導いた民とともに、新生ミコーヤを育てる仕事に専念すれば良いのだ。
肩の荷を下したセフィーラは、自分の先祖になる男に礼をとった。
小さいながらも大国エドバルトやナーニワにさえ影響力を持った、あの美しいミコーヤは消えてしまった。
戦いにあけくれたエドバルトもナーニワもなくなった。
強欲なエドバルト王も狡猾なナーニワ盟主もその周辺の人々も、みな死んだのだ。
いずれなくなることが分かっていたなら、あの二つの大国は、一体何のために戦ったのだろう。
長い戦争で死んだ兵士たちが浮かばれない。
一体、あの戦いは何だったのだろう。
全ては、無に帰した。
お付きの仕事は、神託の取次ではなく、マートヤ大陸の水没からミコーヤの民を救うために働く巫女を手伝うことだった。
ことは、想像を絶する壮大な計画だったのだ。
そして、テーベ自身、その計画に翻弄されようとしていた。
大地が沈んだあの時、ミコーヤの民の人生が変わった。
生きていればスーホやマルコたちの人生も変わったし、カイの人生も変わった。
そして、テーベの人生も変わったのだ。
テーベが後にフーギンと呼ばれる地へ旅立つ日。
セフィーラに挨拶に出向いた。
セフィーラは忙しい合間を縫って歓待してくれた。
彼は、新生ミコーヤの執政官の長としてミコーヤの再生に忙しい。
帰りがけ、セフィーラが思いだしたように告げた。
「そうだ。お前の任務を手伝いたいという殊勝な神官がいる。一緒に連れて行きなさい」
山の中のフーギンで一人ぼっちで神に仕えるより、友人が一緒の方がありがたい。
一体誰だろう。
そう思った時、執務室のドアが開いた。
そこには、ニケが笑いながら立っていた。
テーベの長年の思いが叶いました。これから先の苦労を思えば、このぐらいのご褒美があっても良いでしょう。




