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ミコーヤ神国物語  作者: 椿 雅香
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様々な対立

第十章  様々な対立


 突発的な礼拝は、年に二回行われる。

 

 カイがお付きになった最初の礼拝でミコーヤのほとんどの民――一時間程度でイセールへ集まれる信者を全員――を召集したことから、デルフォイを中心とする幹部神官たちには、内心穏やかならぬものがあった。

 しかも、そういう大規模な礼拝は、お付きの在任期間に一度あるかないかのレアなケースだ。それなのに、カイは、その次の礼拝も、その次の礼拝も、そのまた次の礼拝も、初回同様大規模なものにしたのだ。



 これほど頻繁に大規模な礼拝を行うのは前代未聞だった。

 ここに至って、お付き競争で敗れた連中ばかりじゃなく、デルフォイを筆頭とするセフィーラに対抗する勢力にお付きと神官長に対する疑いが芽生えた。

 

 いくらシーナがそうしろと言っている、と言っても、肝心のシーナの命を取り次ぐのが、お付き(カイ)なのだ。本当にシーナの命かどうか怪しいものだ、というのが、彼らの言い分だった。

 


 神殿関係者だけじゃなく、民の中にも不平分子がいて、カイがお付きになって二年目になると行動を起こした。遅刻して締め出されたことで学習した牡鹿亭の亭主は、どうせ締め出されるのだから、と、確信犯として欠席サボタージュしだしたのだ。

 他の常連の遅刻者も似たようなもので、最初からイセールを諦めてムーセツへ行く者や、神が見捨てると言うなら見捨てれば良い、と、開き直る者まで出るようになった。

 


 もともと突発的な礼拝は、信者の負担が大きい。理由ときっかけがあれば、欠席した方が楽なのだ。


 そういう不埒な連中を間近で見る神学生や親衛隊員は動揺した。


 自分たちが後生大事にしている礼拝の意味が見いだせなくなくなって混乱したのだ。


 彼らは、神は何のために礼拝を求めるのかとか、礼拝にはどういう意味があるのだろうとか、悩むようになった。

 教えられたことだけが真実だと信じ込んで来たこれまでの生き方に疑問を持ったのだ。

 しまいに、考えすぎて何がなんだか分からなくなって、牡鹿亭の亭主を真似ることさえ考える者まで出て来た。


 礼拝のすし詰め状態に辟易した新米ペーペーの神官たちだ。その代表格が、テーベの初等科時代からの友人のスーホだ。

 


 スーホには一人で欠席サボタージュする根性はない。そこで、こっそり内緒で仲間を募った。自分一人だけ欠席するより大人数で欠席した方がインパクトがあってお付きのカイに与える衝撃は大きい、と誘ったのだ。


 ムーセツのマルコたちがスーホと行動を伴にすると約束するに至って、生真面目で融通の利かないテーベの心は揺れた。


 正直言って、カイは嫌いだ。カイのために礼拝に出席するのは業腹だ。

 だが、礼拝に出席するのは、カイのためじゃない。礼拝は神を讃える場であり、神のために出席するのだ。

 テーベにとって、悩ましいところだった。


 いずれにしろ、次の礼拝までに答えを出さなければならない。


 

 テーベは、牡鹿亭の亭主の顔を見るとため息が出た。


 諸悪の根源は、この節操なしのオヤジなのだ。

 このオヤジのせいでスーホたちに魔が差したのだ。


 ミコーヤでは、巫女の指示は絶対で、お付きの指示には従わなければならないことになっている。

 それなのに、牡鹿亭のオヤジが従わなくても良いという選択肢があることを教えたのだ。


 おかげで、テーベは悩まなくても良いことに悩まなければならなくなってしまった。


 


 神学校を卒業したばかりの新米ぺーペーの反乱だけじゃない。古株の神官であるデルフォイたちも同様の計画を立てた。毎度毎度無視されるので腹が立ったのだ。


 次の礼拝では欠席して、我々がいないとまともに礼拝もできないことを巫女、神官長それにお付きに分からせてやろう、と息巻いた。

 

 ミコーヤの建物は総じて装飾が少ない。どちらかと言うと、質素で清々しい雰囲気を漂わせている。

 そんな中で唯一、政務庁の執政官の会議室は豪華なしつらえになっている。

 これは、隣国のエドバルトやナーニワからの贈り物を趣味よく配置したからで、デルフォイの好みによるところ大きい。


 厚くたっぷりした生地でできた上等のカーテンと薄く繊細なレースのカーテンを重ね、エドバルト王の執務室のような重厚で落ち着いた雰囲気になっている。

 中央に十五人は座れる大きなテーブルがある。これはナーニワから贈られたもので、花梨の木でできた格調高い品で、足の部分に細かな彫刻が施されている。部屋中に敷き詰めた絨毯は、大陸からの渡来品で、こちらはエドバルトからの贈り物だ。


 政務庁の長官はデルフォイの子飼いで、この会議室は、事実上、デルフォイの派閥のたまり場となっている。


 この部屋で、デルフォイと七人の幹部神官が会議をしていたのだが、春祭りの段取りの相談をしているうちに、誰からともなく、昨今の突発的な礼拝に対する不満を漏らし始めた。


「そもそも、いくら突発的な礼拝が神官長の所管だと言っても、デルフォイさまを無視して勝手に行うというのは、如何なものか。

 しかも、大神殿に民をだけじゃなく、家畜まで押し込むなんて。あれじゃ、神聖な大神殿がけがれると言うものじゃ。

 シーナさまは、一体、何を考えていらっしゃるのだろう」

「そろそろお年だ。ボケが始まってらっしゃるんじゃないだろうか」

「これ、シーナさまをそのように申し上げるのは、不敬に当たる。滅多なことを口にするでない」

「しかし、デルフォイさま。お付きにカイを選んでからのシーナさまは、明らかに常軌を逸してらっしゃいます」

「それよ。わしは、あれがシーナさまの意向じゃとは、思えんのじゃ」

「どういう意味でしょう」

「シーナさまが、非常識になられたのは、あやつがお付きになってからのことじゃ。言うなら、全て、あやつの策略。いや、あやつごときにそんな甲斐性はない。セフィーラの意向かもしれん。と、言うことじゃ」

「確かに、託宣を伝えるのは、あいつの仕事です。それが、間違いなくシーナさまのおっしゃったことだと確認することはできませんな」

「それよ」

「では、どうしたら良いでしょう。我々には真実を知る手立てもありません」

「親衛隊の新入りの小童たちが面白いことを計画しておるそうじゃ。わしらもそれに倣えば良いんじゃ」

「デルフォイさま、それはいかなることでしょう」

「牡鹿亭の亭主の真似をするんじゃ」

「と言うと……」

「礼拝に欠席して、あやつらに、儂らのありがたみを分からせてやれば良いのじゃ」

「それは、名案。神官長もお付きも、きっと、頭を下げてデルフォイさまの協力を求めに来ることでしょう」

「思えば、我々はお付きの言に盲目的に従って、自分で考えることを放棄しておったようじゃ。無駄な時間を過ごしてしもうた。

 ここらで、何が正しいか、試してみれば良いのじゃ。さすれば、シーナさまの本当の意向が分かると言うものじゃ」

「ですが、事前にことが明らかなれば、神の命に背くとして非難されることは必定」

「そうですな。ことは、内密に行わなければなりません」

「お付きにも、神官長にも、あの忌々しい先達たちにも気取られてはなりません」

「神のみぞ知る。でございますね」

「そうじゃ、神がご存知ならばそれで良いのじゃ。我らは、神のために奉仕するものであって、お付きや神官長のために奉仕するものではない」

「さようでございますな。本当に、師のおっしゃるとおりでございます。それを、あやつらは、何をはき違えたのか、嘆かわしいことです」

 

 

 窓の外では雪が降っていた。

 もう少しの辛抱で春が来る。

 春祭りは、ミコーヤにとって、農作業を始める合図だ。祭りの相談をしている間に、話がとんでもないところへ飛躍してしまった。


 部屋の壁をくりぬいて作られた大きな暖炉の火が、幹部神官たちの顔を赤く染めていた。

 

 外の寒さも、暖かな会議室の中までは届かない。暖かい衣を着て、カイやセフィーラの悪口を言う人々は、神に奉仕する人々であった。



 

 スーホたち親衛隊員、つまり、新米の神官たちとデルフォイたちのグループは、互いに接触することなく、深く潜行して計画を練った。

 

 スーホたち新米たちは親衛隊の宿舎で、デルフォイたちは執政官の執務室で、それぞれ計画を練った。


 やってみると、自分たちで計画を立案するのは、やりがいがあった。

 ミコーヤの神官や親衛隊員たちは、それまで、巫女の方針に基づく仕事しかしたことがなかったのだ。


 礼拝の欠席サボタージュは、彼らが初めて自発的に行う行動だった。

 

 デルフォイたち幹部神官たちも、スーホたち新米神官たちも、何から何まで自分たちで決める計画にのめり込んだ。

 自分たちだけで決めて実施する計画の責任は、自分たちで取らなけれならないことに気付きもしないで。


 

 

 通常、突発的礼拝は、農繁期を避けて行われる。冬は集まるのが難しいことから、結局、農作物の収穫が終わった後に行われることが多い。カイも、最初の年とその翌年、麦の収穫が終わった後と、じゃがいもの収穫が終わった後に行った。




 

 だが、三年目のその年、スーホたちやデルフォイたちが反旗を翻そうとしていることを知られたのだろうか。麦の収穫が終わっても突発的な礼拝は行われなかった。


 サボタージュを計画していた面々は、焦った。


 まさか、「我々の計画を知っているのか」と、訊くわけにもいかない。素知らぬふりをして日を送った。薄氷を踏むような緊迫感に関係者一同、胃が痛くなった。




 そして、その日が来た。


カイやセフィーラに反感を持つ人々が現れ、テーベは悩みます。

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