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ミコーヤ神国物語  作者: 椿 雅香
23/32

カイが主催する突発的な礼拝

 カイは、毎朝シーナの部屋へ出掛け、夕方になると、疲れきって帰るという。シーナから指示された様々な仕事をこなしているらしい。


 生半可な仕事じゃないのだろう。



 噂によると、カイは、ミコーヤ全域の地図を精査し、最新のものに作り変えたという。 地図担当の神官に作り直しを命じたのだ。以前の地図と今回の地図の相違点を明確にするよう指示もしたという。

 

 さらに、突発的な礼拝に備えて、神殿の倉庫に備蓄してある食料の種類や量の確認をし、収穫期にはどの程度民に還元するとか、新たに備蓄するのはどのぐらいにするかとかいったシーナの命が下りた。




 巫女やお付きに関する様々な噂が流れる中、超極秘事項である突発的な礼拝の日程について、カイとセフィーラが相談しているという話を聞いて、テーベは地団駄踏んで悔しがった。


 神官長セフィーラと対等に話をするのは、僕だったかもしれないのに。

 一体、どこで間違ったのだろう。



 


 雲ひとつない青い空。今日も暑くなりそうだ。

 

 テーベは、剣を握り直した。


 去年までは、こんな天気の良い日には海に行ったのに。

 いくら神学校には長期休暇がないと言っても、週に一度は休みがあった。友人たちとビーチへ繰り出して、泳いだり遊んだりと、充実した時間を過ごしたのだ。


 今年は、兵役でとんでもない夏を過ごしている。連日の訓練に疲れ切って、休日に海へ出掛ける体力も気力も残っていない。


 親衛隊の宿舎はイセールの大神殿に併設されている。だから、ちょっと前までは神学校の寮にいたのが、この春から親衛隊の寮に移っただけだ。

 と言うか、互いの建物が隣接しているのだ。


 住んでる場所はほとんど同じで、食堂も共通だから食べ物も同じだ。なのに、やることは全然違っていた。神学校の時は勉強が中心だったのに、親衛隊では軍事訓練が中心になる。


 しかも、下手すると職業訓練と称して、農作業や土木工事に駆り出されたりする。


「僕は、武官じゃなくて文官になるんだ!体育系じゃなくて文化系なんだ!言いたくないが、弓は得意だが剣は苦手なんだ。農作業や土木工事なんか、もっと向いてない!」


 そう叫んでも、親衛隊長は剣や体術の訓練を免除してくれない。もちろん、職業訓練も。


 親衛隊員である以上、万一の場合、つまり、どっかの馬鹿な国もしくはそういう馬鹿な国の敗残兵が攻めて来たとき、シーナさまを守らなければならない。

 巫女の盾となることが親衛隊員に求められた職務なのだ。


 と言うわけで、連日、弓、剣、体術といった訓練に明け暮れている。おかげで、手はマメだらけだ。


 テーベの相手をしているスーホは、もっとひどかった。彼は、神学校在校中も剣が不得手で、そのせいで単位を落としそうになったことがあるほどだ。

 

 勢い、二人の練習は稚拙で初心者マーク付きのものになる。どうかすると、剣に振り回されてしまうのだ。

 簡単に言うと、今年兵役で親衛隊に入ったメンバーの中でテーベとスーホが最悪に下手なのだ。


 

 親衛隊長のキラ将軍(以前お付きだった男で、お付き時代の記憶を留めている数少ない先達の一人だ)が、この日何度目かのため息をつき、側で同じ訓練を受けている女子にまで笑われてしまった。


 女子の中でも、ニケは運動神経が良い。マヤと剣を交えると、ものすごい迫力で、テーベとスーホがやってることが馬鹿に見えた。

 男としてのプライドはズタズタだ。


 一体誰が、親衛隊の訓練を男女同じにしたのだろう。

 せめて、場所と時間を変えて欲しかった。

 そうすれば、無駄に笑われることもないのに。


 兵役終了後、引き続いて親衛隊員になった面々の立ち会いは素晴らしく、そのすぐ側で、モタモタと剣に振り回される自分たちがとてつもなく惨めに思えた。


「休憩」


 キラ将軍の号令で、苦役から解放された。いや、休憩時間が終われば再開されるから、正確には、中断と言うべきか。


 

 ため息をついて、太陽を見上げた。


 暑い。

 やってることが上手くできないし、気入らないから、ますます暑く感じた。


 親衛隊の面々は、てんでんに井戸へ向かった。並んで水を飲むために。

 そもそも、神学校でも親衛隊でも、順番に並んで待つことが多過ぎる。どうにかならないだろうか。


 お付きだったら、こんな訓練を受けなくても良かったのに。

 お付きだったら、水一つ飲むのに、順番なんか待たなくても良いのに。

 お付きだったら、誰かが順番を変わってくれるはずだ。

 それ以前に、誰かが水を汲んで来てくれるはずだった。

 去年、テーベはよくお付きのアムルに水を持って行ってあげたものだ。


 

 なかなか回ってこない順番にイライラしながら待っていると、神殿の鐘の音が聞こえた。

 

 例の突発的に行われる礼拝を知らせる鐘が鳴ったのだ。

 

 順番待ちの親衛隊員は、水を諦め、大急ぎで神殿に向かった。

 口々にタイミングの悪さを呪いながら。




 突発的な礼拝があると、神学生や親衛隊員等の兵士は、いち早く大神殿に駆けつけなければならない。

 民の手本になるようにと言うより、次々と大神殿にやって来る民を誘導し、その世話をするためだ。


 剣の稽古中だった親衛隊員たちは、息せき切って大神殿に入った。この礼拝は、カイがお付きになって初めての『突発的な礼拝』だ。


 今回の礼拝は、ミコーヤ全土で一斉に行われる大規模なもので、国中の人々が仕事を放り出して神殿に集まった。

 イセールの大神殿から馬で一時間以内の距離に全部で十六の神殿がある。今回の礼拝には、それらの神殿に集まった人々もイセールに合流した。つまり、今回の礼拝は、タナアの民のように簡単にはイセールの大神殿に集まれない人々を除いて、馬や馬車を総動員してイセールに集合する試みがなされたのだ。


 いつもなら鐘が鳴って三十分で始まる礼拝が、今回は、一時間待って始まることになっていた。

 周辺の神殿からの遠征隊を待つためだ。


 国中の神殿の鐘が鳴ったのが、午前十一時。

 市場の買い物客は買い物籠を持ったまま、畑でトマトの収穫をしていた農民は作業を中断して、漁を終えて網をつくろっていた漁民は網を放ったらかしにして、夏休みを満喫していた子供たちは遊びや宿題を中断して、大神殿に集まった。


 イセールの大神殿で礼拝を行うことを常としている人々は、いつもなら他の神殿に集まる参拝者が加わったので目を丸くした。

 

 しかも、その数は半端じゃない。下手すると、いつもイセールに集まる人々より多かった。

 

 だが、参拝者が多いということは、ミコーヤの民の信仰心を誇示することでもある。

 

 人々は信者の多さに感動し、一体感に酔った。これだけ多くの人々が同じ場所に集まって、同じ神を崇めるのだ。

 大神殿は、空気の色さえミコーヤの色に染まって見えた。


 だが、いつもより大勢の人々が集まると、いつもよりトラブルも多い。

 真面目な信者も増えるが、親が信者だっただけで信者になっているいい加減な連中も混じるからだ。


 あちこちで小競り合いが起き、親衛隊員や神学生はその仲裁に駆り出された。

 テーベも親衛隊の一員として、小さな喧嘩を仲裁した。


 まあまあとなだめて、大神殿に入るように促す。人熱ひといきれする大神殿は立錐の余地もないほど混み合っている。礼拝者の数が多いので椅子が取り払われているが、どこに座れば良いのかと苦情を言う年寄りがいれば、やけくそになってその辺に座る若い男もいる。


 ふと見ると、この春から大神殿の庭で飼っている家畜が廊下に入りこんでいた。


 大神殿は人であふれ返っている。例えそれが廊下だとしても、そこに牛や豚や羊やヤギや鶏といった家畜が入り込むと収拾がつかない。


「誰だ?こんなものを入れたヤツは。さっさと追い出すんだ!」

 

 テーベが叫ぶと、側にいた親衛隊長のキラが即座に否定した。


「シーナさまの命でここに入れたんだ。邪魔かもしれんが、気にするな」

「でも、神聖な神殿にこんなものを入れるなんて……」

 

 絶句すると、皮肉っぽい答えが帰って来た。


「中央神殿で飼ってる家畜だ。充分神聖だ」


 テーベは、キラのシニカルでいい加減な一面を知って愕然とした。

 憧れの先達の本性は、もっとストイックで潔癖症だと思っていたのに。


 ふと見ると、遠くに荷車が見えた。猛スピードで大神殿こっちに向かっている。


「一体、あれは……何だ?」

「礼拝者が増えるから食料が不足するだろ?だから、シーナさまが取り寄せたんだ。

 お前たち、手が空いているなら、あの荷車の食料を倉庫に運ぶのを手伝え」


 呆然とするテーベに、キラは当然だと言わんばかりの説明をし、ついでに、そこにいた親衛隊員たちに命令した。


 驚いたのは、親衛隊員たちだ。

 手伝えって。僕たちは親衛隊員であって、人夫じゃない。


 そう言いたいが、上官命令は絶対だ。

 ましてや、キラは親衛隊長だ。逆らえるわけもない。

 文句を言いたいのを我慢して運び込まれた麻袋を背負うと、無茶苦茶重く、ヤワな親衛隊員の手に追える代物じゃなかった。

 だが、仕方がない。千里の道も一歩からだ。


 諦めてモタモタ運んでいると、横からヒョイと取り上げられた。

 一体何が起きたのだろう。

 事態がわからずに目を白黒させていると、日に焼けた筋肉質の男たちが笑っていた。

 こういった仕事を生業なりわいとする男たちだ。


「にいちゃん。手伝おう」


 助け合いを奨励するミコーヤ教の信者らしく、慣れない親衛隊員が苦労しているのを見かねたのだろう。それとも、テーベたちの様子を見かねた誰かが頼んでくれたのかもしれない。

 いずれにせよ、肉体労働から解放されるのはありがたい。


「あ、ありがとう。た、たすかった」



突発的な礼拝もカイが主催すると、無茶苦茶になるようです。

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