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ミコーヤ神国物語  作者: 椿 雅香
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ミコーヤ神国

ミコーヤ神国について説明させていただきます。


国名は、ミコーヤ→都(つまり京都です)、エドバルド→(江戸、言わずと知れた東京です)、ナーニワ(当然、大阪です)から、付けました。三都物語かって?

いやあ、ファンタジーで国の名前を考えるのって大変でしたちなみに、地名については、おいおい、説明させていただきます。(2018.4.26追記)

第二章 ミコーヤ神国


 ミコーヤ神国は、マートヤ大陸にある大国、エドバルト王国とナーニワ公国に挟まれた小さな国だ。

 国土の八分の七が中央山脈と呼ばれる山岳地帯で、南に伸びるわずかな平野で畑作を行い、最南端のイセールの港で漁業や交易を行なっている。

 イセール港は、ナーニワが誇るいくつかの港ほど大きくはないものの、海の向こうの大国シェナとも交流があり、小さいながらも一応の発展を見ている。

 国土の大部分を占める山岳地帯は、固有の領土と言うより、耕作に適さない利用価値の乏しい土地をミコーヤが所有するのをエドバルトやナーニワが黙認していると言った方が早い。


 この国は、二つの大国がマートヤ大陸の覇権を争う中にあって緩衝地帯のように存在し、独自の軍隊と卓越した外交でどちらにも組みしない。

 独立独歩で中立を保つこの国を、両大国が正面から攻めることはない。両国とも、この国がもたらす恩恵、つまり巫女がもたらす神託の恩恵に浴しているからだ。


 本音を言えば、この国を支配下に置きたいし、内心はこっそり狙っているのだろうが、攻めるには大義名分がいる。いにしえから、争いごとには大義名分が必要で、大儀名分のないいくさには勝てないし、勝ったとしても賞賛されないからだ。

 ぶっちゃけ言えば、マートヤ大陸の覇権を握れば、何もしなくても、ミコーヤはおまけとして付いて来る。ここで無理して攻め込んでも、それこそエドバルトならナーニワに、ナーニワならエドバルトに戦いの名分を与えるだけだし、そもそも、おまけに付いてくるような小国を得るため相手方に名分を与えるのは、馬鹿のすることだ。


 両国にとって、ミコーヤは、戦いとは無関係にそこに『ある』存在だった。そして、そこにこの国が『ある』ということは、ミコーヤ教の恩恵――つまり、巫女を通じて下される神託の恩恵――に浴することができるという暗黙の了解だった。

 だが、戦に負けた敗残兵たちにとって、ミコーヤは食料や物資の調達の役に立つ便利な国だ。国中のあちこちに点在する神殿や社には食料や工具が備蓄されているからだ。

 もちろん、どちらの国でも、中立国ミコーヤから暴力で食料や物資を簒奪したことが上層部に知れると軍律違反で懲罰対象になる。その結果、ミコーヤから食料や物資を強奪するときは、証拠を消す必要が生じ、最悪、当該地域住民の抹殺にまで及ぶことになる。

 ミコーヤが両国へ抗議しても、両国のトップは、敗残兵の蛮行まで把握していないことから、相手にされることはなかった。

 一方的に蹂躙されるミコーヤにとってはとんでもないことで、ミコーヤ政府は、歯ぎしりしながら、破壊された集落を再生し、生き残った子供たちを育てる手立てを講じるのだ。


 ミコーヤ神国の最大の特徴は、国の統治を神の託宣に基いて行なっているということだ。

 『神国』という名が示す通り、ミコーヤは神の国であり、神の声を聞く巫女が国の中心に座する。そして、神官も商人も職人も農民も漁民もみな神に仕えている。

 その名のとおりミコーヤ神を信奉する国なのだ。


 もう一つの特徴は、町の幾何学的な美しさだ。

 普通、町というものはアメーバのように勝手に成長する。どこかの国の新しく造った都のように、貴族や特権階級の住む地域は計画的に造られることもある。だが、下町や庶民の住む町は生き物のように勝手に増殖する。

 と言うのは、家とか店とか工場といったような建物は、地形を生かして計画的に建てられるものじゃないし、町全体の調和を考えて建てられるものでもないからだ。施主の資力があれば、全体の調和を勘案することもできるが、そうでない場合は、それなりに建てるしかない。そして、実際には、圧倒的にそれなりに建てる場合が多いのだ。

 そうやって、建物が増えることで町は成長する。人や生物が生きているように、町はそれ自体、生きている。町は、何もない荒野に生まれ、成長し、そして、人が住まなくなると死ぬ。町にだって、生まれたばかりの時代から、成長する時代、円熟した時代を過ぎて住人が減って終焉へ向かう時代がある。

 極論すると、町というものは、新しく建てられる建物によって変化する。同じ規格の建物が並ぶわけもないし、道だって、必ずしも升目状ではなく、平行に走っていると思っていた道がどこかで交差したりするのだ。

 だが、ここミコーヤでは、碁盤の目のような通りに面して、同じような大きさの建物が並んでいる。

 しかも、町の中央部にあるミコーヤ教の神殿を中心に、住宅地や商店街、それに工場や職人の住む町、そして、中心部から少し離れて広がる田園地帯が、地形を考慮し、計画的に広がっている。

 エドバルトにもナーニワにもない、ミコーヤだけの特徴と言って良い。


 ここ、ミコーヤでは、庶民の住む下町でさえそこそこの規模の家が規則的に並んでおり、市場や工場街でも同様なのだ。

 郊外の畑や森も然りだ。川や丘と言った地形を生かしたパッチワークのような大きな畑が並んでいる。ところどころに森が残っていて、それがポイントになっている。

 ミコーヤでは、畑の規模は大きい。隣国のエドバルトやナーニワでは、領主や金持ちの畑を除いて、一般庶民クラスの農民の畑はちんまりとしたもので、自給自足に毛が生えた程度でしかない。それでも、自分の畑を有する農民は幸せな方で、自分の畑を持たない小作が圧倒的に多いのだ。

 だが、ミコーヤでは、規模の大きな畑を地域の農民が協力して耕す。しかも、いつ頃、何を植えるとかいったことは、巫女の託宣に基いて決めるのだ。

 収穫した作物は働いたみんなのものだ。農民は、働いて収穫を得、それが国中の人々を潤す。それが、神の託宣に基づいたミコーヤの民の生き方だ。

 職人や商人も同じだ。職人も商人も、仕事を通じてミコーヤの神と民に奉仕するのだ。勤勉というミコーヤの気風は、国力を富ませ、人々を幸せにするのだ。


 ミコーヤは南北に長い。北は中央山脈から、南は大神殿を有するイセールの町まで続いている。

 この国の気候は温暖で、風景も民の性質も穏やかで美しい。エドバルトやナーニワのような派手さはないものの、穏やかでやさしい国だ。

 

 階級制度はなく、すべての国民は平等だとされている。だが、実際、この国の支配者は、唯一無二とされるミコーヤ神とその神の言葉を伝える巫女に奉仕する神官たちだ。

 国を治める執政官は神官の中から選ばれ、巫女の指示に基づいて国を統治する。

 畑で農作物を作る者、魚を捕る者、家畜を飼う者、獣を捕る者は、巫女や神官たちの食料を提供し、商人は神や神官たちの必要な物を流通させる。木工や鍛冶や機織りの職人は、祭具や日用品を作っている。

 

 つまり、神の国であるミコーヤでは、国民のほとんどが何らかの形でミコーヤの神殿に関わっているのだ。

 

 国の中心であるイセールの町には、ミコーヤ教の総本山である中央神殿がある。

 その最奥に神の声を聞く巫女が鎮座し、国政の重要事項は託宣に基づいて決定される。ミコーヤでは、まつりごとは巫女の託宣によって行われるのだ。

 神の声を聞くと言われる巫女は人々に崇拝され、滅多に姿を現さない。お付きと呼ばれる世話係だけが巫女と接見し、神の託宣を伝えるのだ。


 お付きは、十五歳から十七歳までの少年の中から選ばれ、三年間この任に当たる。三年経つと、新しいお付きと交代して任を終える。

 五十数年前、巫女が現れて以来連綿と続く慣習だ。


 

 かって、大国エドバルトとナーニワは、仲のいい兄弟だった。共に学び、共ともに働き、互いを敬い、互いに愛した。彼らは神よりも互いを重んじた。それを妬んだ神が、二人の仲を裂くために両国の境界にこの国を作ったと言われている。

 両国の境界上に神殿を建て、神殿の周りのわずかばかりの平野とイセールの海、それに中央山脈につながる高原地帯を美しい巫女に治めさせ、戦いに勝った方がこの国を支配下に置くことができよう、と言ったという。

 誰も神の言葉を聞いたわけではないが、そう言われている。多分、巫女が受けた最初の託宣だったのだろう。

 戦いに勝った方、つまり、戦争に勝った方が美しい巫女と神国を手に入れることができる。

 この、毒のような悪意に満ちた託宣に、エドバルトとナーニワの関係が一変した。両国は戦いに明け暮れ、しまいに、戦いの原因が何だったのかさえ分からなくなり、ただ復讐のための戦いが繰り返されるようになった。

 ミコーヤは両者の間で中立を保ちつつも、翻弄され、敗残兵による食料や物資の強奪を受けるようになった。

 犬猿の仲の両大国の間で、中立的独立国であり続けるのは難しい。巫女の託宣がなかったら、早々にどちらかの支配下に置かれていただろう。ミコーヤは、両国と対等であろうと全力を挙げて交渉した。その最たるものが、三国協定と呼ばれる条約だ。

 戦いに疲弊した末端の小隊や敗残兵による度重なる略奪に、ミコーヤは激怒した。怒り心頭の巫女は、マートヤ大陸の覇権をめぐって戦う両大国に敢然と宣言したのだ。


「あなた方がマートヤの覇権を争うのは、あなた方の勝手です。

 ミコーヤは、勝者の保護下に入ることにいたしました。そして、勝敗が決するまでは、どちらにもつかず、中立であることにいたします。どちらの国とも対等にお付き合いしますし、どちらの国にも同じように託宣をお伝えいたします。このことをお認めいただきたく存じます。

 ですが、両国の戦いに我が国を巻き込まないでいただきたいのです。

 率直に言わせていただけば、迷惑です。

 さらに言わせていただけば、どさくさにまぎれて、我が国を蹂躙されないよう望みます」


 両大国の勝敗が決するまでは、独立国家として認めて欲しいという巫女の要望は、両国に認められるところとなり、今日に至っている。

 勝敗が決した後はどうなるのか、先のことは考えない。その時が来れば、神は民のために託宣を下すだろう。

とにかく、勝敗が決するまでは、ミコーヤは独立国としてそこに『ある』のだ。


 ミコーヤにとって、ぎりぎりの選択だった。


 ミコーヤでは、子供は六歳から十五歳まで学校教育を受け、十五歳になると三年間兵役に就く。それが終わると、適性に応じて様々な職業に就くのだ。

 この国民全員が教育を受けるという仕組みは、エドバルトやナーニワにはない。

 ここミコーヤでは、全ての民が読み書きができ、基本的な計算をこなす。まあ、微分積分、三角関数、対数等の難解な計算はこの限りではないが。ミコーヤの民は三国の中で最も優秀だと言われている。両大国にだって、優秀な人材はいる。だが、総体的に見て、全ての民の平均的な能力を比べると雲泥の差があるのだ。

 学校では、読み書きや計算といった座学のほかに剣や弓や体術の授業があり、優秀な子供には、出自や性別を問わず出世の道が開かれている。ミコーヤには、エドバルトやナーニワのような身分制がなく、適性に応じて自由に職業を選択できるからだ。だから、神官の子が商人になったり、農民の子が神官になったりする。

 巫女のお付きが男子に限られることを除いて、徹底した男女平等を旨とするミコーヤでは、男女どちらでも神官になれる。


 宗教国家であるミコーヤでは、神官の地位は高く、政治も軍事も神官が執り行う。教師も神官の仕事だ。在家の人々は、商業や農業、それに工業を営むが、政治や軍事そして教育に関わることはない。

 

 ミコーヤでは兵役義務は絶対だ。表向きには三国協定があるが、この期限付きかつ紳士的な協定に依存しすぎると足下をすくわれる。エドバルトやナーニワの敗残兵の襲撃に備えるためにも、軍隊という名の自警団が必要になるのだ。

 ミコーヤは両国に比べて圧倒的に人口が少ない。そのため、正攻法で戦うことはできない。そもそも三国協定があるので、真正面から戦いを挑まれることもないのだが。いずれにしろ兵力の差は歴然としている。だが、個々の兵士の能力は三国一と言われている。ミコーヤの軍隊は、神官身分を有する士官たち――もちろん、男も女もいる――を除き、徴兵により集められた男女によって構成されるが、識字率百パーセントの優秀な兵は、エドバルトやナーニワの侵攻を防ぎたいと心から願っており、両大国から精鋭と賞賛されている。

 兵の数が少ないことから、戦闘は一種のゲリラ戦になるが、意表を突く作戦行動は両国の軍事関係者から一目置かれている。精鋭ぞろいの兵を率いる指揮官は、卓抜した軍略を駆使するため、高等教育を受けているのだ。

 ミコーヤでは、職業訓練を兼ねた三年間の兵役義務を全うして初めて職業に就くことができる。しかも、兵役義務を終えるとき授与されるメダルがないと結婚できないことになっているので、民は、国のためだけじゃなく自分自身のためにも熱心に兵役に取り組むことになる。

 

 兵役は男女とも平等に課せられ、巫女のお付きだけがこの任を免れる。一説に、お付きの仕事は兵役より激務だからだという。

 お付きの仕事の最大の特徴は、半端じゃない守秘義務だ。

 何しろ、巫女の託宣に関わるのだ。全国民に知らせるものからトップクラスの神官にしか伝えてはいけない超極秘事項まで、様々なレベルの秘密があり、それぞれのレベルに応じて最も適した方法で伝達しなければならない。

 巫女そのものについても、容姿、性格、嗜好から癖にいたるまで、徹底的に秘匿されている。ミコーヤの巫女はその神秘性が最大の特徴で、公表されているのは、シーナという名前と女性だということだけだ。年齢、容姿、性格の一切が極秘とされている。

 巫女に関する情報は、軽々しく国民に喧伝けんでんされるべきものではないからだ。





ミコーヤは、巫女を中心とする宗教国家です。

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