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ミコーヤ神国物語  作者: 椿 雅香
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カイの転落

 最初の定期試験で首席になってから、それに続く試験でも、テーベは常に首席をキープした。


 癪に障ることに、カイは五位以内を推移した。

 五位以内というのは、大神殿の神官や執政官として残ることができるポジションだ。


 

 あんなに好き放題して遊び歩いているのに。


 テーベは面白くなかった。


「テーベ、この書類をセフィーラさまに届けておくれ」

「テーベ、リネンの予備が足りているかどうか、備品係に確認して来ておくれ」

「テーベ、礼拝の準備をするから、神学生を五、六人呼んで来ておくれ」

と、級長のテーベは教師や神官に頼まれた雑用に追われている。


 あるときは、礼拝の準備のためにろうそくを大神殿に運ぶよう頼まれ、あるときは、参拝者に渡す土産を一人分ずつ小分けするよう頼まれ、あるときは、神殿に飾る花を庭から摘んで来るよう頼まれた。

執政官は、学生たちにイセールの町を始め他の町の人口を調べさせ、突発的な礼拝に備えて食料や寝具の状況を調べさせた。

 

 担任から、なるべくクラス全員に仕事を割り振るようにという指導があったが、みんななるべく雑用に交じりたくないのが正直なところだ。結局、クラスの仲間たちに断られたり、手伝ってもらったとしても最小限しかやってもらえず、残りはテーベが黙々とこなすことになる。


 不合理だが、ここで頑張っておけば、神官たちの覚えが目出度くなって、お付き選びのときに役に立つ。

 自分にそう言い聞かせて、黙々と作業に当たった。


 そうやって、テーベが頑張っている間も、カイはあちこち出歩いていた。


 テーベはカイには頼んだことがない。というか、頼めなかった。


 頼もうと思った時には、消えているからだ。

 どうせ、イセールの町に出掛けているのだろう。


 市場にいたという話だけじゃなく、職人の町で見かけたという噂もある。いつだったか、かなり遠い田園地帯で畑仕事を手伝っていたという話まで聞いた。


 カイがあちこちに出没するのは良い。だが、それを見た者がいるということは、カイを見た者もそこにいたことになる。



 この学校はどうなっているのだろう。テーベには謎だった。



 ある日、執政官から手紙を運ぶよう頼まれた。しかも、中央山脈の小さな村の執政官あての手紙で、どんなに急いでも往復で一昼夜かかる。

 レポート提出日の二日前だ。誰もがレポートにかかりきりで手伝ってくれない。

 

 ここは、あいつしかいない。と、テーベは、下げたくない頭を下げた。


 驚いたことに、カイは簡単に承諾してくれた。


「了解した。公務で旅行ができる。役得だ。今後、こういう仕事があったら、いつでも言ってくれ」

そう軽口までたたいて。


 唖然とするテーベに、カイは片目をつぶって薄く笑った。


「級長、何でも一人で抱え込むんじゃない。他の連中を使うことも覚えろよ」

 

 一瞬いつもの凄味が消えて、女子に騒がれるあの笑顔になった。

 その野性的な魅力に動揺したテーベは、思わず自分に言い聞かせた。


「しっかりしろ、テーベ。相手は男だ」





 三年の後期試験で、カイは一気に転落した。


 あの突発的な礼拝に関する問題のせいだ。


 ミコーヤ教教義の試験で、突発的な礼拝に関して論評するようにという問題が出たのだ。


 もちろん、テーベは持論どおり、神に対する忠誠を示す重要な神事だとの見解を展開した。

 ミコーヤでは通説と言って良い考え方で、圧倒的多数の学生が同様の趣旨だった。


 しかるに、カイは、この礼拝を意味のない神の示威行為だと断じ、神とは、自分勝手で傲慢なものだと言い切ったのだ。

 ただ、数年前、エドバルトの軍隊が国境地帯を侵犯した際、地域一帯の神殿や社の鐘が非常事態を告げ、人々はいつもの礼拝の要領で避難して難を逃れた。そういう意味では、役に立つこともある。と論評したらしい。


 信者の迷惑にしかならない制度なら廃止も考えるべきだが、少なくとも、あの迷惑極まりない礼拝のおかげで、非常時の避難先や食料が確保されている現状を鑑み、制度自体は神の傲慢さを示すものだが、人々の役に立っている以上、存続は認めても良い。  

 それが、カイの結論だった。


 その上、神は人々の利益のために存在するもので、神のために人々が存在するのではない、というおまけまで付いていた。


 あまりにも非常識な論文だったので、ミコーヤ教の教義を担当する教師だけじゃなく、神官長セフィーラにまで呼ばれて、説明を求められたという。


 体の良い説教だ。


 だが、神官長セフィーラとまともにミコーヤ神について論争したという噂もあり、テーベには何が真実か見当がつかない。


 一介の学生が神官長の向こうを張って、滔々(とうとう)と持論を展開した。って、そんな馬鹿な話があってたまるか。


 結局、カイの論文は赤点ギリギリにダウンした。単位を落とさずに済んだだけでも幸運だと思わなければならない。


 その後も教義の試験の度、彼は異端とも言える持論を展開させて、教師を嘆かせた。

 だが、最初が最初だっただけに、二度目からは、担当教師の呼び出しも、神官長の注意もなくなった。


 ああいう異端は、さっさと卒業して、国境警備でもやってくれれば良い。少なくとも、このイセールの町、巫女のいる大神殿の近くにいるべきではない、というのが大方の意見だった。






このあたりのカイは、小気味よくて好きです。女子は、胸キュンです。

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