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あばんちゅーる!!  作者: 碧梨まひる
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第2章 「ALIVE」

「もっとたくさんの、百鬼夜行の本?」

可惜は飲んでいたミルクティを机に置き、怜悧の言葉に返した。

「はい。命思さまは、ご自身のお誕生日に、百鬼夜行についての本を欲しておいでなのでございます。」

五月様や郡さんからのお許しも降りています、と付け足すと、怜悧は自身のスマートフォンを手に取った。しばらく操作した後、また6人へ話しかける。

「…ですが、出回っている本で、命思さまがお持ちでないものが見当たらないのです」

「げっ、マジかよ…どうすんだ」

「帳の脳力で、もういっそ執筆したらいいんじゃねえの」

「ぼ、僕?…嫌だよ、まじめに考えて、疎…」

まじめなんだけどな、と不満をたれつつ、みんな口々に、どうするんだだの不安を零した。そして再びの静けさ。

それを割ったのは所縁だった。

「ぼくの家っ、古書堂があるよ!もういらないってなれば、持ってこられるし!」

「古書堂がご自宅にあるのですか?」

怜悧が食いついた

「うんッ。おじいちゃんが本大好きで。たしかその中に、闇力の本とかもあったから、百鬼夜行のもきっとあるよっ?」

「さようですか。ご迷惑でなければ、その古書堂にお邪魔してもよろしいでしょうか…?命思さまのお誕生日…彼女のトクベツにしてさしあげたいのです」

家に古書堂があるのはめずらしい。それを白妙家の脳力を成すものなのだろうか。

(…百鬼夜行っていうと、ちょっと嫌な人を思い出しちゃうよ)

にこにこする反面、所縁は心の中でとある青年を思い返していた。あの日知り合った友達の友達。変わった名で呼ばれていて、まとうオーラも言う言葉も、すべてが不思議でミステリアスな人。

(…姫さま)

たしか本名は、「姫弥」。誰より百鬼夜行を愛し、いつかは自分でやって見せると言っていた。あのころがどこか遠い。所縁が命思のもとで働き始めてから、会うことは無いしそれきりになっていた。

「…ゆかりん?」

「っ何…っ、あたらくん?」

平然を装ったつもりだった。所縁にすると姫弥みたいにまっすぐ何かを見つめられることが何よりうれしかった。今は。…あのころ、姫弥にひっついていたころは、彼の持つ"寄せ付けないオーラ"に憧れた。でも今はそんな姫弥が少し、嫌いだ。

「じゃ、明日の朝10時、共有ルームでッ。…汚れて平気な服でね!」

        ☆

所縁は一度として、祖父の古書堂に入ったことがなかった。いつも優しくて人脈の広い祖父は、色々な所から古書を買い取り、コレクションにしていた。そんな祖父が大好きだ。だけど、祖父は所縁にその本を見せてはくれなかった。

(死んじゃってから、後悔してるよ。…一緒に読みたかったな)

自室のベッドに転がって、ふと命思のことを思う。

(おじいちゃんと話がよく合って、いつも古書堂に遊びに来てて…)

あの頃の命思は、大昔の絵は小説を好む、どこか近付きにくい少女だった。中に入れてもらえなかった所縁は、古書堂の外から彼女を見ていた。本のことも作家のことも、何も知らない。杜若さくらにもらわれてからは、ひたすらに本を読み、勉強も必死にした。

(ぼくの力で、命様をよろこばせる!)


「…怜悧さん、これ、読んでくれませんか?」

傍らの怜悧を呼び、小冊子を渡す。

「…『秋の夜ははるかの彼方に小石ばかりの河原があって』…これ」

「…お好きなんですよね、中原中也」

「はい。…私の旧友がすすめてくださって」

分かっている。彼のいう旧友とは友人でないただの知人にすぎないとも。それも良かった。何かしてもらってばかりは好かない。

「もらって下さい、その本。…いつもの、ほんの少しのお礼です」

        ☆

汚れていい服はそもそも着ないスタイルの神楽は、そんなものは1つとして持っていなかった。今着ている和服がフル装備なのだ。1日おきに変化して服を変えている。そろそろ買おうかと思っていたけれど。

「…神楽、今いいか?」

控えめなノックの音と、かったるいような物言い。だがその口調が、まだ若い人生を苦しみながら生きてきたものの滲み出しでもあると、彼は思う。そうこう考えるうちに間が空き、もう一度名を呼ばれてからドアを開ける。

「…ごめん、服、…探してた」


「うわ…何て言うか…物、少ねー…な」

言われて辺りを見回す。ソファ、テーブル、舞のせんすや、最低限の調理器具が白と黒を基調に飾られ、ラックはおろか、物をしまうタンスですら無い。あの怜悧でさえ、本やキャンドルがあったはずだ。寝室へ行けばやはり黒のベットがあるのみだ。

「ああ、そうだ…神楽は、…姫?って人知ってるか?」

「姫…?」

「ん、さっき、所縁が呟いてたんだよ。姫さまって」

所縁ってよめないなあ、と思う。

神楽だってずいぶんと変人の自覚は有るが、怜悧がよんでくれるのである程度は安泰だ。けれど所縁はちがう。自分や他の5人が事を兄のように思っているのは確かにしても、彼の心を完璧に読んで分かる人がいるのかとなれば答えは「いない」だろう。命思ならあるいはそうなのかもしれない。彼女なら所縁が読めるかもしれない。では何故そうなのか?

「姫…あ、ゆかりにとって、大切な、人…」

「そうなのか?…命思さまってこと?」

「ちがう、けど、大切…」

「ん~…」

今まで所縁を掘り下げて見たわけではないが、命思でないのは確かだと思った。仮に彼女は所縁の姫だとするなら、彼に本人にそれを伝えてしまえるはずだから。

「…そうだ、今度…服、見に行かね?」

着物に目をうつした彼がそう言って、服がないことを思い出した。

「ありがとう、疎…。やくそく、だよ…」

「ああ」

ジャマしたな、と去ってゆく疎を見送ってから、神楽はそっと帯を解いた。

        ☆

「氷雨」

背後から冷たく白いような声がかかった。すぐに分かる。

「郡か?…なに?」

郡。杜若五月のシークレット・サービスで、杜若さくらの懐刀。今の年齢などきっと本人ですら分かっていないが、氷雨が2歳のころから一緒に過ごしてきたし、なんとなく呼び捨てになっている。

「これをきみに渡しに来た」

「これ、お前の字じゃないか?」

「――青火軍時代の術書だ」

背すじが伸びた。青火軍、といえば、何年か前まで、郡は血まみれでここに帰ってきていたのを思い返す。さくらが亡くなってからは辞めたようだけれど。

「氷の術書なんだ。…不本意だが、当時のユニットメンバーに、氷の術を使えるオールランダー型がいてな。特攻に出る前に写させてもらったんだ。…この前怜悧が腕を見せたのを見ていて、氷雨にこの術式がよめるのか、少し気になった」

そっと渡された書物を受け取り、また郡に向きなおった。

—相変わらずキレイな顔だ、と氷雨は目を細めた。自分よりずーっと年上なのに、そんな風に思うのは変だろうか。何せ12くらいからずっとそう思って来ているのだから、俺は熟女好きか。まだ20代くらいに見える妙齢の女は、今では俺よりも背が低くなった。彼女が縮んだとか、そういうんじゃない。時代っていうのはそういうモノだ。

「大きくなったろ、俺」

口をついて出た言葉が、すっと静かに溶けて消えていく。郡に言うわけでなくて、あくまで自らを悟すような。

「――そうだな。…20を過ぎたか」

懐かしむようでいて、未来を見ているようで。

「郡って今年でいくつだ?」

「100年くらい前から、教えるのは辞めたよ」

        ☆

「え~、百鬼夜行ねえ~~」

可惜は本棚をがさがさと探し、積み上げてしまったそれらを見てため息をついた。

「ないね、なかなか」

帳も手のほこりを払って一息つく。

「…神楽、見つかりましたか?」

ひとり変化で能力値が上がった神楽ですら、(効果は分からないが)未だ見つけてない。というか変化でコスチュームが巨大化してか少し狭そうだ。

「ねえ、怜くん…」

考え込んでいた怜悧の服の袖を、所縁がつかむ。どうしたのですか、と返せば実はね…と話し始めた。

「…物に対しても有効なのですか?」

自分と関わる人からいろいろな事を聞き出す。それがあれば早いだろう。

「…そこに、ボクのおじいちゃんの、いっちばんお気に入りの本があるの。たぶん、まだ…いるんだ」

ひときわ古い術書のようなものを、怜悧はそっと持った。ずしりと重みのあるそれは、どうしてか埃をかぶっていなかった。

「この本自体が百鬼夜行に関する書物のようですが…」

「うん。…それ、もっていっていいと…思う?やっぱり、一回あいさつした方がイイなって…」

そう言って彼は手を合わせる。『其に宿りし魂の欠片よ…壮大なる唄を、生命いのちのオトを、うたかたの、木漏れ日を』――!! 「っできた!?」

力強い詠唱に、6人の手が止まった。がさり。動いた術書に視線が向く。

「…おじいちゃん――!」

「所縁…どうして、封印が……」

マナが足りないはずなのにという祖父に、怜悧は一歩出た。

「初めまして。早乙怜悧と申します。…杜若命思の、公設執事をつとめております」

「命思…ああ、みこと…か」

「私が、少しばかりのマナを所縁さんに与えました」

「はっはっは…少しばかりと…ジジイに嘘は通用せんわ」

封印を解くには多量のマナを得なくてはならない。所縁には不可能なまでの。

「さて怜悧よ、所縁はどうじゃ」

「…僕は面白いです」

「命思の役に立っているか」

「おじいちゃ…」

「なあ、所縁」

そこまで言って、祖父はゆかりに向き返った。

「わしはね、命思と所縁をつなぐ本でありたかったのだよ。…身寄りのない養子の所縁が、独りにならないためにねぇ…」

「養子…」

誰かが呟いた。

「…所縁が大きくなるまで、内緒のはずが…命思め、教えよったな」

高らかな笑いがどんどん消えてゆく。

「待って、おじいちゃん…っ!ね…っ!」

すっかり無音になった部屋で、所縁はひとり、泣いていた。

        ☆

「怜くん、ありがとーね」

喜んだ命思を思い返しながら、怜悧はどう致しましてと返事をした。

「…良かったですね。おじいさま、元気で」

「うん。…ありがとう」

またね、と手を振る彼はまぶしかった。

いつか大切な人と会えるように、怜悧もそっと祈って。


1-2  fin.


あばんちゅーる!!2章です!碧梨まひるです。ぺこりんぬ

何だかSSショートストーリ集みたいになってしまったような…?

ゆかりくんを掘っていく予定でしたが…(苦笑)

とにかくとにかく、3章で姫さまたちがとーじょーです!

これからのストーリーにたびたび深く関わってきます。(多分)

百鬼夜行とは一体何なのか?姫弥と珱花の目的は…?

あばんちゅーる!!、よろしくお願いします…!(土下座)

そういえば先日、日本刀で国宝の「三日月宗近」を見に行きました。その前の獅子王もかな。いつかは鶴丸国永や髭切がみたいです。。

ですがやはり、天下五剣。美しいですね。刃文や刀身の美しさはもう…おい…って感じでしょうか(意味不明)。友人は一期一振が見たいとな。

そしてそして…10月クールです!キタぁぁ!

私の命 SolidSさま、QUELLさま、SOARAさま、Growthさまのアニメ「TSUKIPRO THE ANIMATION」,「DYNAMIC CHORD」ナドナド…かはっ何でしょう…生きよう…生きのびよう冬…

特に「プロアニ」は12月4日(2016年)のそりくべ祭からずっと待ってた…あの熱気SQPと一緒に残ってます←。

そういえば以前もけおたんと話したときに、さくらって生きてんの?郡のママは?と言われたんですが。のちのストーリーで掘っていきますが、さくらは生きています。郡ママは亡くなってます。なので今はさくらの懐刀としても郡はがんばってます。郡ママは207のときに郡生んでるんで、割とママ歴は浅いです(369で亡くなるので)。ちなみに郡さんは2章時点で237です。ワケあってさくらにひろわれてから約40年、忠義は厚いよ郡さん。

(そう見てると、郡が一番かっこいいなとか思い始めたまひる)。大丈夫。私はみんな大好きやから…

では…

翼しゃん、SolidSさん、スレいつメンのみんな、milkたん、もけおたん、架子たん♡(いつかもけからのメッセも代筆します)

そして今お読み下さっているアナタへ!感謝を☆


碧梨 まひる


——————————————————

(といいつつ早めに頂けました)


はじめまして、一般ピープルです。もけおです。

碧梨まひる のあばんちゅーる!!にて、氷雨・帳・郡のキャラクターデザインを担当させて頂きました。

まひるさんとはゲームのチャットでお話ししてからの付き合いです。ですが一向に彼女は俺に先の展開を教えてくれません。アップされてから初めて知る。

いつかは職場で考え込んで上司に怒られます。

とりあえず俺としては、Twitterを始めようと思ってます。まひるさんキャラデザ嫌いらしいから、言ってくれれば作品に出すキャラとして意見使います。

では俺そろそろ仕事戻ります。ごきげんよう。


もけお


——————————————————

初めまして、葉月です。

文章考えるのが苦手なので、箇条書きで書かせていただきます。

あと、このあとがきは碧梨まひる先生に無断で書いてます…怒られるかな


・原稿はもっと早く11月3日くらいには上がっていたのですが、こんなに日が経ってしまったのは、僕が原稿の打ち込みをサボっていたからです。マジですみません(土下座)

・原稿打ち込み遅かったくせに、誤字脱字が多分あります。ありましたら、教えてくださると嬉しいです。

・そういえば、僕のTwitterが乗っ取られてしまいました。アカウントを削除したので、これからの連絡は、メールアドレス "kota_musiclife@yahoo.co.jp"にお願いします。

・まひる先生のあとがきを打ち込んでる時、「あれ、まひる先生こんなに刀詳しかったかな」、と思いましたが、多分「刀剣乱舞」なんでしょうね…。納得です。

・これからも「あばんちゅーる!!」応援していただけたら嬉しいです。僕も陰ながら頑張ります。あと、もう1シリーズの「Re:Guilty」の方も書かせますので、しばらくお待ちを…

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