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あばんちゅーる!!  作者: 碧梨まひる
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第1章 「Light」

百鬼夜行。

能力者が群れを成して、の願いを叶える行列だ。

何らかの原因から何%かの確率で生まれる、異能を持った人間…能力者。

彼らは様々な能力をあやつり、時には政界を牛耳っていたり、でもそれも昔のこと。

しかし現代は研究の対象にされることも多く、彼らは大人しく人間とくらしている、というわけだ。


命思みことさま」

名家・杜若家。代々能力者をぜてきたこの家系は、今、ひとりの能力者の少女が担っているといっても過言ではないのだ。が…。

「…命思さま、そろそろお客様がお見えになりますよ。命思さま」

澄んだ水色の髪の青年が、傍らで読書をする少女に声をかけるが、少女からは返事がない。

「…命思さま、本は後で、よめばいいッすよ」

「んっ、!?えっ、もうそんな時刻ですか…!?怜悧れいりさん、ドレスをっ!

う~っと、神楽かぐらさん、本のしおり…しおり探してくださいっ!わ…っ!」

「命思さま、ドレスにお着替えください。しおりは私と赤月で探しますから」

ドレスルームに駆け込む少女――杜若命思を横目で見やり、早乙怜悧は静かに妖術を唱えた。

記憶術である。P125…百鬼夜行。

「…また、百鬼夜行ッすか?」

赤月神楽だ。怜悧は本を閉じ、旧友である神楽と少しの小話を始めた。

「命思さまは百鬼夜行となるとご自分の世界で熱中なさるのです。

…どうしてか私にもお話しくださらないのですがね」

「怜悧は命思さまの…」

「怜悧さんお待たせしましたッ!神楽さんもっ。行きましょう!」

また今度です、と口元で人差し指を立てた怜悧に、神楽が少し、目をふせた。

「あら、命思。遅かったわね、4人とも待ってるわ」

母である五月とそのシークレット・サービスであるこおりがそう告げる。

唯一命思の幼少期を知っているのが、杜若の娘である五月と、五月の側で共に育った郡だ。

元々郡は、五月の母…杜若さくらのシークレット・サービスの娘で、さくらの助言によって五月と仲むつまじく育ってきたという。

「命思お嬢様がそのドレスをお召しになると、さくら様の面影がよみがえりますね」

「母様のドレスだもの。…ほら命思、今日新しい方がみえるから、しっかりあいさつしてね。7人のうちの最後のふたりだから」

「はい。…郡さん、後でメールしても良いですか?少し、お話が…」

郡がうなずくのを見て、怜悧が2人に一礼をした。

「では命思さまとご挨拶に行ってまいりますゆえ、失礼いたします、奥様、郡さん」

「行ってらっしゃいませ、お嬢様」

怜悧に手を引かれながら、命は客室へと向かって行った。


「…失礼いたします。お待たせして申しわけございません、可惜あたらさん、まばらさん」

そこには2人の男性がいた。ひとりはスーツを着た人、もうひとりはなぜかバーテンダーの服だった。

命思はあわててあいさつする。怜悧が半歩下がった。

「杜若命思と申します。お待たせしてしまい、すみません。おせわになります」

「命思さま、初めまして。今日からご奉仕させて頂く、八重可惜でーす」

「オレは疎だ、よろしくな…、命思さま」

杜若家の世話係ということは、彼らも何らかの能力を持っているのだ。気は抜けないと、命思は心に留めた。

そこからは他の世話係も交えて雑談をすることになった。

「能力者って、珍しい名前が多いですよね…。どうしてなんですか?怜悧さん、分からないですか…?」

「私の知っている諸説でしたらいくつかございますが、とばりさんの方が正しいのではないでしょうか?ね、帳さん」

小野原帳。この世の出来事全ての真実をあやつる能力を持つ青年である。

命思の世話役の中では唯一の黒髪で、大人だが子供のような男だ。

「そんなの知らないよ。真実どうこうじゃないもん」

いつの間にか寝てしまったらしい神楽の横でうちわを振りながら、すねたように呟く彼は少しかわいかった。

「でも確かに、郡お姉さんはわりとフツーだけど、あたら とか まばら とかめずらしいかもっ!」

手をぽん、と叩いてそういった少年…白妙しろたえ所縁ゆかりは、可惜の膝の上におさまる。

しばらくは会話から離脱していた命思が、急にいすに音を立てて座った。彼女に怜悧が駆け寄る。可惜と疎は不安げに見つめる。

「命思さま、自室へ戻りましょう」

ぐったりした様子の彼女を怜悧が抱える。

「ごめんなさい、妖力が…っ」

「ご無理はいけません。ではみなさんも、宜しければ使用人寮の共有ルームでゆっくりしていてください。後片付けは郡さんと私で致します」

妖力キャパシティの少ない命思は、少しの妖力の減少で体をくずすことも多い。怜悧はそんな彼女の妖力補給役に一役買って出ている、いわば命思にとっての生命そのものでもあるのだ。

だが、本来能力者はあやかしではない。ただ、昔から”妖の花”とよばれる花を、能力者のみがはっきりとみることができる。それが妖の花の妖力と自信の妖力との共鳴であると分かってから、能力者は遠い存在となった。

命思は妖の花が見えるときとそうでないときの差が大きいため、生命として7人が与えられたのだ。

「じゃあ共有ルームで打ち合わせもしよう。怜悧、後でな」

「はい」

行きましょうか、と声をかけ、2人は命思の自室へ向かった。


「…」

眠る命思に少し忠誠の深いキスを落として、怜悧は共有ルームへと歩を進める。

と、道中に何か気配を感じて辺りを見回した。命思さまをねらう者かも知れない。高い戦闘力は軍隊仕込みだ。よほどでない限りは負けない自信がある。いざとなれば、この身を命思さまに捧げる。

「っ…?」

そこに在ったのは、青の変わった形の花。…妖の花だ。

「どうして、妖の花が…?」

本来は古くからの名家の花畑にのみ咲く花だ。杜若には花畑がないから、ここにあるのは…。

「怜悧くん」

「郡さん」

あわてて振り返ると、郡がナイフを手にそこに立っていた。シークレット・サービス用のナイフのようで、彼にとっては初めて見るものだった。

「…妖の花、か?そんな生ぬるい気配ではない気がしたのだが…。うん…」

郡はかつて軍のトップにもなった不老不死の美女である。生き続けてきた約300年の年月で得たナイフでの戦闘は、彼女の上に立つ者はいない。

「怜悧くんは、打ち合わせでこの件を伝えておいてくれ。ひとまずコレは私が保管して旦那様にお伝えする」

「かしこまりました。…何か妖が入り込んだかも知れない、お気をつけ下さい」

「ああ。…お嬢様を任せる」

「ええ」

郡が走り去ってから、もう一度辺りを見回す。明らかに妖がいる気配だ。

怜悧は静かにナイフをかまえ、目を細めた…

        ☆

「そういえばー、早乙っていうと、アレアレ…なんだっけ」

使用人寮の共有ルーム。ハーブティーを飲みながら可惜が疎につっかかる。

「早乙は代々の”喰者”だ」

「そっ、それだーっ。怜悧もねー…て、みんな、ん?」

喰者。

妖力が非常に高く、妖や人間を喰らうことでより強い能力を扱う者だ。

大昔でこそ珍しいと言われていたが、今では人々の恐怖の対象だ。それ故に正体を隠すことが多い。

「怜悧の妖力がすごい高いのは知ってたけど…」

氷雨が傍らの神楽を見て呟いた。

「…でも俺は、喰者でも人間でも、怜悧は怜悧だと思う」

「ぼくも、怜くん好きッ♡」

にっこりと笑って、所縁はソフトクリームをなめて言った。

この場にいないが、命思はどう思うのだろう?――そう考えゆっくりと目を開けた神楽は、誰も気が付かないで、にやりと笑った。

「…

今までにない低音が、目を赤黒から黄色に変幻させた怜悧から漏れた。

気配からして、何らかの妖がいるのは間違いない。だから問題は、清なる妖か、汚れた妖か。それによっては、主のために手を下す。

『…くは…っ』

「っ、!?」

突如として暗がりから現れたに、怜悧は目をみはった。

「お…貴方おまえは…」

『けはっ。…かかってこいよ、


          ”れ、い、り”

                   …っ』

        ☆

「あら郡、こんなところにいたの?」

「…五月様」

杜若家の中庭。そのなかでも、すみっこの日かげに、こおりにかべに寄り掛かって立っていた。

「明日、母様に会いに行きましょうよ。怜悧と命思をつれて」

「さくら様ですか。…久々に、良い術を学べるでしょう」

五月と言葉を交わしながら、郡は空に法陣を描く。

「何をっ。郡の術の方が役立つわ。…法陣?何かあって?」

「ええ、先ほど廊下に、妖の花が咲いていて」

「?うちには畑はないわ」

五月はいかにも不思議そうに、首をかしげた。

「その件を、旦那様にお伝えしようと思ったのですが…」

そのとき、法陣に1体の妖がうつった。

「っ…!」

その姿は郡を驚かせるには充分で、彼女はやはり、現実であるか分からなくなるほどに困惑しているようだった。そうしてゆっくり、五月のためにと、言葉を次いで。

「…旦那様が、いらっしゃらなかったのです」

モニターのように明るく映った法陣の中の妖…五月の夫…は、今すぐにでも怜悧をおそうように立っている。

「れっ、怜悧が…!」

ピンチと思ったが、五月が走り出そうとするのを、素早い動作で制止した。

「五月様、ここは一度、怜悧を見ていて下さいませんか」

「何を言うの、彼は戦闘術を使える能力は…っ」

「私仕込みの格闘術を――…彼は持っています」

「え、郡?」

目をぱちくりさせて固まる五月に、郡はまた別のウィンドウを開く。

「…私は107年程前から、青火軍と呼ばれる特殊軍隊の幹部を務めていました。そのころ…12年前、怜悧が。…自我を失いかけていた、喰者の少年が…長官の連れで入ってきたんです。まるで、妖そのものでした」

自我を失った喰者を放るわけにもいかず、軍内トップの実力を誇る郡のもとで、怜悧を育てることになった。

        ☆

「いでよ水流、ウォーターティア」

水の術を放つと、それまで少し動いていた妖 ドッペルが一気に消えていった。

それを見届けてから怜悧はナイフを腰のポーチにしまう。いつからか、目も赤黒い色に戻っていた。乱れたタキシードの裾をはらい、使用人寮へ…

「腕はそのままに保てているようだな、怜悧」

「っ、…見ていたんですか、郡先輩…、!?い、五月様」

郡は別にかまわなかった。大変なのは五月だ。自分が喰者であると、彼女を通じて命思に知られてしまったら。もう傍にいられないかも分からない。

「…怜悧、は…|あの娘(命思)は知っているの?」

「…恐らく、ご存知ではないと…」

この状況下なら、命を失くしてもおかしくなかった。でも彼女に知られてしまうくらいなら。

「きみは、その力で、命思をどうにかしたいと思う?」

「私は如何いかなるときも命思さまの身代わりにございます。…命が有る限り、この身は命思さまに捧げる思いです」

怜悧にすれば、命思を思うならこの場で死んで悔いはなかった。

「…なら良いわ。あの妖はね、杜若の養子とか、旦那とか…そういう人にとりついてる妖なの。アレが倒せて無傷なら、娘のボディーガード兼シークレット・サービスには適任だわ」

「っ…、五月…様……」

「喰者とて怜悧よ。命思への思いがあるなら良いわ」

「あ、ありがとうございます…!」

ただひたすら頭を下げた。昔から見つかることを恐れ続けた。殺されてしまうから。家柄が良いわけでもないから盾もなかった。それが辛く、悔しくて。

「ん…あ、怜悧さん、居たっ」

聞きなれた、うるわしい声にふり返ると、小さくてかわいらしい主の姿をとらえる。

「そろそろ打ち合わせではないですか?せっかくだから、ご迷惑でなければご一緒させて頂きたくて。…怜悧さん??」

彼女は怜悧の顔をのぞきこんで名を何度も呼ぶ。

「怜悧さん、体調でも優れないんですか?」

その仕草すら今の彼には安心しきることのできるもので、気が付けばずっと笑顔になっていた。

「お待たせして申しわけございません、まいりましょう、命思さま…っ!」

「えっ、れっ、れ、怜悧さっ…!?」

命思の手をとって走り出した。さっきまでの気分はすっかり晴れている。命思さま、と呼べば少し弾んだ息とともに、とびきりの笑顔と、怜悧さんと、と返ってくる。こんなにはしゃいだのも、人を好きになったことも、初めてだった。

「あのッ、れいりさんッ!」

「はい…っ!?」

「っ、ふふっ!」

「…っ、うんっ…!」

命思さまのもとで働いて、幸せな想いにしてもらっている。

このことはたとえ自我を失ったとしても、絶対に心に留めておく。――彼女といるかぎり、そんなことはそう有り得ないけれど。

「んー…ここが杜若のお家か…。」

慧眼の青年が、杜若と書かれた表札をじろりと見る。

「…ねぇ、姫」

「ああ…いるんだろ、

姫、と呼ばれた少年は、屋敷をめ回すようにして笑った。

「ウィザードは姫にとってのオードブルでしょ。…命思、ここ住んでんよ」

「ふん、あんな女、テリーヌにしたる…でも、また早い。そうだろ」

「ええ。ま、ウィザードがいた方がこちらも有利だね」

「それもそうだし――――百鬼夜行は、また始めらんないだろ」


自分が信じるものが必ずや善かは分からない。

『姫』とそのお付きの青年は、杜若を去っていった。


(…来たな、姫弥ひめやに…珱花おうか

3階のガラス窓からその様子を見ていた郡は、これから起こるであろう災厄にそっと目を閉じた――――。


fin.


あばんちゅーる!! 1話第1章をお読み下さり、ありがとうございます。

初めての方は、初めまして!番外編等でお知り頂いてる方はこんにちは!

中原里々郁 改め 碧梨まひる と申します。

ノートに書きあげた時点では9月17日、1か月ほど前作から間が…。やっと本編を完成でき、うれしく思っております!

さて、今回は7人が一応全員ひとことずつ喋ったと思うのですが…いかがでしょうか…?

やはり7人もいると、キャラに違いをつけるのが難しいですね…!

私的には郡さんを動かしているときが楽しくて仕方ないです…。((

今回は怜悧が中心のストーリーでしたが、次回以降は他6人にもスポットを当てつつ、お話を進めて行きたいと思っています。

そしてそして。ラストに登場いたしました「姫弥」と「珱花」は…3章より後で深くかかわっていこうと考えていますので、ちょっと気になりキープで…!

前作はそういえば、旅行先の鳴子で描いたんですよね…。3日ほど家に帰らず友人と居るなかで、ベッドに転がりながらノートパソコンでかちゃかちゃ打っておりました。

深夜の2時に書きあがり、葉月さんには次の日に送信。友人の胸の大きさと葉月さんのお仕事の早さにはおどろかされつつ、とても楽しい3日間でした。

最近はゲーム内チャットやTwitterでも「よんだよ!」と言って頂けるようになり、非常にうれしく思っています…!ありがとうございます…!

ちなみにTwitterは@hanataku_soma99(現在は@zeroness_more99)です。趣味用アカウントも兼ねてますので、IDが(笑)。フォロバしますので、(おひとりずつメッセージ返すのはむずかしいかも知れませんが)ぜひ話しかけてやって下さい。友達少ないので喜びます。

急用やご依頼(あるのかな?)につきましては葉月さんのアカウント @Kota_MusicLifeにリプしてください。多分返事早いです。DMも可!

では感謝等へ

いつも頑張ってる葉月翼さん(担当さんです)、心の支えです!SolidSさん、スレいつメンのmilkたん、メンバーさん、アイディアをくれる架子たん、もけおたん。

そして今お読み下さっているあなたに、心からの感謝を…!

あばんちゅーる!!2章以降もよろしくお願い致します。

                               碧梨まひる

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