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綴られなかった日記「精霊が望むもの」
それはこの世で最も美しい感情だと。
それは至高の喜びだと。
それは、幸福の形だと。
誰かが言い、誰もが求め、そして私も願った。
言葉は知っていた。
その概念も知っていた。
だけど私には叶わない。
3億年という悠久の時を経ても尚、私にはその機会は訪れない。
私には見ていることしか出来なかった。
目的もなく、意味もなく、ただ無数の思念の集合として、この世に揺蕩う。
契約経験のある精霊が言っていた言葉を思い出す。
「どうして私達が人間の姿を取るのか……どうして人間と契約するのか……その理由がわかったよ」
そう言い、微笑む彼女の姿が私に鮮烈な印象を抱かせた。
幸せそうな笑顔が眩しかった。
私にもいつかそんな機会が訪れるのだろうか。
私にもいつかわかるのだろうか。
私にも。
私にもいつか――。
「…………」
虚しく漂う私の前に。
「……ぇ?」
一筋の光が差し込んだ。




