希莉日記2
9月12日。晴れ。
今日は初めて吾郎に褒めてもらえた。
これも私にとっては初めての経験だった。
人格を得て、意志を持ち、誰かから褒めてもらえるというのはとても嬉しいことだというのがわかった。
商店街の人達も皆優しかったし、おばあちゃんにもらった飴もおいしかった。
でも吾郎に私の力を付与すると、どうやら吾郎はとても疲労してしまうらしい。
今度からは気をつけよう。
警察の人と話している時の吾郎は困ったような顔をしていたけど、鞄を取り戻したおばあさんからお礼を言われている時はすごく嬉しそうだった。
そんな光景を吾郎の中から見ていたら、なんだか私も嬉しくなってしまった。
明日は吾郎達はプールへ行くらしい。
プールというのは確か水がたくさんある所だった気がする。
私は一度も行ったことがないけれど。
私も一緒に行ってもいいのだろうか。
できれば吾郎の中からじゃなくて、吾郎の隣に立ってプールへ行きたい。
9月13日。晴れ。
今日は孝介と響子、それから吾郎と一緒にプールへ行った。
最初は少し考え込んでいたが、私がプールへ行ってみたいと言うと吾郎は沙耶の水着から私に合うサイズを探してくれた。
あっ、沙耶というのは吾郎のお姉ちゃんのことだ。
初めて行ったプール。
水がいっぱいあってすごかった。
けれどいざ水の中へ入ろうとすると本能的に恐怖がせり上がって来た。
ゴキブリというのは水で溺れて死んでしまうことが少なくはない。
突然の豪雨、台風、川の氾濫。
そういった自然の脅威に対して抗う術を私達は持っていなかった。
だから足のつかない水に浸かることに抵抗があった。
けど人間は泳げない人でも大丈夫なように浮輪というものを作ったらしい。
私は案の定泳ぐことは出来なかったけれど浮輪のおかげで浮くことが出来た。
やっぱり人間はすごい。スライダーもすごい。あれは爽快だった。ちょっぴり怖かったけどっ。
浮いて、少し泳いで、吾郎達と話したり、ご飯を食べたりした夏の一日。
私はとても楽しかった。




