馬車の中にて。
_____ガラガラガラガラ
窓から見える景色は、晴天の青空で、太陽の光がいつもより眩しく感じられた。
今の私は、白のカッターシャツにクリーム色の毛糸のベスト、深い赤色生地に黒のチェックのスカート。膝下までの紺の靴下に黒のローファー。そして、1年生で有ることを示す青色のネクタイ。ブレザーは紺色に学園の紋章が刻まれた金色のボタンが着いている。今は暑いため、横に置いてあるが。
実を言うと今日から私は、ディプトリス学園魔法学科の1年生となる。
何故今学園に入るのかというと、16歳になる年の4月から学園に入学しなければならないと法律で決まっているからだ。
ちなみに、一つ年上のシアは去年から通っている。
……あれは本当に大変だった。シアは、かーーーなり嫌がりながら何とか家族全員からの説得に応じて学園に入学したのだ。
学園は基本的に全寮制だ。家に帰れるのは、夏休み、冬休み、春休みの時だけ。さらに、学園は一つの国のようになっていて、学園に行くためには、1度王都を離れなければいけない。学園の生徒はもちろんのこと、学園関係者や、研究者が生活をしている程の規模である。つまり、思い立ったとしても、直ぐには帰ることが出来ない。
まあ、渋ってた。嫌、渋るとかいう表現は生温い、何と言うか、言葉に表せない程嫌がってた。伝わらないのがもどかしいくらいだ。そう言えば、学園に通わなければならないと告げた時のシアの顔は傑作だった。ああいうのを、悲壮な表情と言うのだろうなと思った程だ。
私はちょうど良いと思っていた。シアは私の専属の執事となってから、そうだな、なんというか、私にベッタリだった。私が少しでもシアの視界から消えると不機嫌になり、私に関することはなんでもしたがった。ご飯を手ずから食べさせようとした時は本気で怒った程だ。魔力の暴走という不安定な時に、私という存在が精神安定剤になってしまって、そこから私に依存するようになってしまったのは、まあ、まだ100歩譲って分からんでも無いが、あれは流石に酷すぎる。
一旦私から距離を置くことで、シアは自分の視野がいかに狭かったことを知るだろう。というより、知ってもらわないと私が困る。かなり。何だこの羞恥プレイは!!!と言わんばかりにシアは私に構う。流石に親離れというか、私離れをして欲しい。切実に。
でも、休みの時に帰ってくるたびに悪化しているような……
まさか、離れた事が裏目に!
いやいや、そんな事は無いはず……
まあ、そんなことはどうでもいい。いや、本当はどうでも良く無いけど!!切実だけど!
...ゴホン。と、まあ話を元に戻すと、私は今年で16歳になるということになる。お父様もお母様もお兄様もお姉様も通った学園。私はずっとこの日を待ち望んでいた。シアには自分の視野を広げて___なんて、偉そうな事を言ったが、私だって変わらないくらい狭い。家の敷地から殆ど出させてもらえなかったせいで。親元を離れるのは淋しいけれど、学園生活に対するワクワク感の方が私は強かった。
これまた、少し話とズレるのだが、私の場合は家族から学園に行くのを渋られる側だった……。
まさか、お父様から、「16歳になったら学園に入らなければならないという法律なんて変えてしまおうか……私の権力があれば…可能だな…。」という恐ろしい独り言を呟かれるだとか、お母様から「私が王妃様に口添えすれば…この法律無くなるかしら?」と、何故か無邪気に私に尋ねるだとか、お兄様が部屋で淡々と1人、剣の手入れをしていた時の瞳が狂気じみていたとか、お姉様が、マルクスを私ソックリに変身させて私の代わりに入学させる為に、ひたすら薬を作っていたりだとか…。
入学までの1週間は本当に疲れた。お父様の独り言を全力で無視し、お母様の質問を華麗にスルーし、お兄様の部屋のドアは、まるで見ていなかったように静かに閉め、マルクスを助けながら、お姉様の研究を阻止した。
まあ、やっとそんな過保護過ぎる家の者達から解放される。
「お嬢ちゃん、見えてきたよ。」
馬車の従者さんに声をかけられ、誘われるまま窓を開けて、身を乗り出して前方を見ると、森の小道の先に、荘厳な雰囲気のまるで王都の城のような建物が見えた。
その建物の先には青い旗が風になびいていた。恐らく、あの旗には、金色の羽ペンと花言葉が知恵であるオリーブの刺繍がされているのだろう。この刺繍は学園の紋章だ。
友達はできるだろうか?学校とはどういうものなのだろうか?
そんな事を考えるだけで胸が躍った。
馬車の窓から風が吹き、私の茶色い髪の毛が、風になびいた。
着実に学園が近くなって行った。




