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白百合の君  作者: 九月
第ニ章 10歳の私
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忘れられた記憶。

シアが私の家に来てから1ヶ月がたった。シアは両親とも使用人ともすっかり仲良くなっていた。お兄様とお姉様は今は学校の寮に住んでいるので、シアのことは知らないが、恐らく二人とも仲良くなれるだろう。



今日はシアと私とで庭に出て、本を読んでいる。私は木の下に、シアは少し離れた椅子に座っていた。



シアがここに慣れるまでは、と思っていたがもうそろそろ現実と向き合わせるときが来たのではないかと私は思っていた。今はちょうど二人しかいない。私は首にかけてあるお母様が誕生日の時にくれたネックレスを見つめた。このネックレスが私の魔力を平均値まで押さえ込んでくれている。一度このネックレスを外せば私は、本来の姿の時まではいかなくても、かなりの魔力が使えるようになる。もし万が一、シアが何もかもを思い出して、暴れた場合、私はこれを外して、シアを止めようと考えていた。そんなことが起きないのが一番良いことだけど。




「ねぇ、シアのご両親はどんな方だったの?」



私はネックレスを服のしたに戻して、あえて本から目を離さずに聞いた。



「とても優しい人達だったよ。僕には兄弟がいなかったから、よりいっそう僕を愛してくれたと思うよ。」



シアも本から目を離さずに言った。声の調子が明るいことから特に質問に何かを感じることは無かったのだろう。



「……病気で亡くなられたのだったかしら?」



「いや、事故だよ。雷が家に落ちて、火事になって。僕は逃げ切れたんだけど、お父さんとお母さんはダメだったんだ。」



どうやらシアの中でご両親は火事で亡くなったことになっているようだ。



どうすればいいだろうか?どうすればシアの記憶を思い出させることが出来るのだろうか?



「どうしてそんなこと聞くの?」



まだシアは本から目を離してはいない。



「この本の主人公が、孤児院出身の話だから。ふと、シアはどうしてだったかな?と思って。」




咄嗟に私は今読んでいる本の内容を変えた。





「ふーん。ねぇ、それどんな話。」



シアは興味を持ったのか、自分の本から目を離してこちらを見つめてきた。私はまだ本から目を離さない。自然な感じで、話さなければ。



「えっと。

ある男の子、名前はユンクが主人公の話よ。

ユンクはとても魔力の多い子供だった。両親はとても喜んだの。この子は将来大物になるだろうって。両親は一人っ子のユンクをとても愛していたから。」



ここで少し区切りをつけてみた。

シアは先を促していた。



「でも、幸せな日々は長くは続かないの。」



「ユンクの両親は亡くなったの?」



「ええ。そうよ。」



「病気?」



「いいえ、ユンクの魔力の暴走のせいで亡くなったの。」



ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。だが、シアはまだ何も言わない。私は先を進めることにした。



「とてもひどい豪雨の夜、その日にユンクの家に二人組の泥棒が入った。」




「泥…棒…」



考え込むようにシアは呟いた。



「そんなことを全く知らないユンクは、夜中に雷の音で目が覚めて、水を飲みに行こうとベットを抜け出して下の階に降りたの。」



シアは何も言わなかった。ちらりとシアを監察すると、足下を見つめていた。



「そこでユンクは泥棒と鉢合わせをしてしまうの!見られて焦った泥棒がユンクに斬りかかろうとしてきたの、「待って!!もういい。良いよ、エル。その物語はいいや。」



焦ったように話を被せてきた。思いだしかけているのだろう。ならば、私は止めることなど出来ない。私はシアの言葉が聞こえなかったふりをした。



「ユンクは怖さのあまり声が全くでなくなってしまったの。そして、殺されると思ったユンクは恐怖で我を忘れてしまった。」



「エル!!!お願いだから!!止めて!!止めて!!」



悲痛な声が辺りに響いた。ヴィルヘルム家の『影』たちが庭に集まり始めたのを感じた。さっきの声とシアの魔力が不安定になり始めたことに気づいて、私を守るために来たのだろう。リーダーであるスティルにシアに気づかれないように首を振って近づけさせないようにした。 影達は不満そうだったが、いなくなった。



「ユンクの叫び声と共に、ユンクの魔力が泥棒達の体を貫いた。そして、ユンクの声に気づいた両親が上から降りてきた。」



「止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて。」



シアは耳を手で押さえて、膝を抱え込んで椅子の上で小さくなっていた。瞳はほの暗く、焦点が合っていなかった。



「両親は降りてきたことに気がつかなかったユンクは、両親がかけた声に気が付かず、両親も泥棒達と同じように「や め ろ ! ! ! 」



その言葉と同時に私がもたれていた大きな木はちょうど私の頭上に丸い穴ができていた。



シアの瞳にいつもの光は無かった。

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