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患いの乙女

全五章中、第一章となります。

携帯の人は読みにくいかなぁ……。

一章・患いの乙女

ドラマやアニメ、映画に小説。主人公とやらは皆羨ましい連中ばかりだ。壁に一日中もたれ掛かって顔を四十五度に傾けカッコつけたり、無口なのになぜかモテたり、びっくりするほど鈍感でも恋愛フラグが乱立してたり。……そんなのあり得るのか?

 そんなわけない。壁に一日中もたれていたならあだ名は『セミ』になるだろうし、無口ならモテるどころか友達すらできない。そうならないよう日々、オレもなるべくクラスの連中と話すよう心掛けているわけだ。それに、鈍感なのが一番タチが悪いだろう。ワザとやっているのなら論外だが、そうじゃないのなら神経を疑うね。古本屋に積まれた本の一番上で埃をかぶってた恋愛本なるもので得た知識だけど、女性は自分の気持ちに気付いてほしいものだと書いてあった。……ただ、俺にはまだそのチャンスは巡ってきてないようで、どんなに神経を研ぎ澄ましても寄って来るのは野郎ばかり、暑苦しいったらありゃしない。

 一応オレはクラスでも特に目立つ方ではない。とりわけ顔がいいわけでもなく成績も飛び抜けているわけじゃない。クラスの馬鹿騒ぎには付き合うし、滅多に怒ることもない。真理(まり)()こと母親の教訓で「クールをモットーにね!」という微妙なニュアンスで教育されてきた賜物だろう。

 そんな自己分析をしている最中、突如ぽんぽん、と肩を叩かれる。ほらまた野郎共がやって来た、どうせクラスメイトの白石(しらいし)とアーサーだろう。

「神城、(かみ)(しろ)善治(ぜんじ)」と自分の座っている背後から名前を呼ばれる。

返事をしようと喉まで声が出かかるが、ふと思い留まる。――このまま卒業するまで白石達と男まみれの青春を過ごすのか!? 確かに今も楽しい、それは間違いない。ただ……なんというか、女っ気がないのは青春と呼べるのだろうか? 女っ気がないというのも、クラスでも『お馬鹿三( ばかさん)』と一括りにされているから女の子が近寄ってこないだけで、本来なら女の子の、せめて友達くらいできてもいいんじゃないだろうか?

――欲を言うなら……我がクラスの、いや、学校全体のアイドル土御門(つちみかど)小夜子(さよこ)とお近付きになりたいものだ。

 声を掛けられた方向を見ずに、ちらりと斜め後ろに座る少女を掠め見る。上品そうな顔立ち、顎のラインは芸術品のようにシャープで、あの筋の通った高い鼻は日本人では中々お目にかかれないだろう。芸能人でも十分通用する。それにあの光沢溢れる黒髪はまるで静かに流れる川のよう、それが足元まで垂れるロングなもんだからオレの心をくすぐらないわけがない。あと胸がでかい、とてもでかい。ボタンの小さなシャツからはち切れんばかりにデカい。

 お嬢様育ちであろう優しそうな目。現に彼女の家は立派な神社だ。お祭り、元旦などには沢山の人で賑わい、オレもお世話になっている。その時に巫女服姿の土御門を見付けることがオレの密かな楽しみだった……別にストーカーしてるわけじゃないぞ。なぜならオレの家と土御門の神社は目と鼻の先なのだ。……でもどうしてそんなにご近所さんなのに友達ですらないのか? それは……やっぱり恥ずかしいし下手に話して嫌われたくないからだ。

 しかしそれも今日で終わらせる。白石とアーサーには悪いが、オレは野郎共とのバカ騒ぎから卒業し、ハードボイルドでワイルドな男に変身するのだ――。

威厳を保つふりをするため、腕を組み、目を瞑り咳払いを一つかましてやる。無言の威圧――どうやら有効のようだ、奴らが黙っているということは困惑しているに違いない。このままオレは渋い男を演出し、土御門とオレは友達に……そして――。

「ふむ、神城、貴様は授業中であるにも関わらず教師の問い掛けを無視する、ということだな?」

 ……ん? 何か様子がおかしい。そういえばやけに教室が静かだ。時折聞こえてくる含み笑いは一体……?

閉じていた瞳を恐る恐る開け、そっと振り返ってみる。

するとそこには、片手に教科書を乗せ、眼鏡を中指で上げレンズを不気味に光らせる男がいた。我がクラスの担任だ。

「……あれ、レインボー先生じゃないですか。どうしたんです?」

「どうしたんです? じゃないぞ神城、さっさと問いに答えろ。それに私はレインボーではない」

 七三で分けられた黒髪がレインボー先生の生真面目さを物語っている。現に厳しい、色んな意味で厳しい。しかも白紙の上に眼鏡を置いたかのように表情が変わらないもんだから余計に不気味だ。

「ホラ神城早く答えろ、三、二、一――」

「ま、待った待った! もう一回だけ教えて下さい!」

 しまった。妄想が過ぎた……決意した直後に土御門にみっともない姿を晒すわけにはいかない。まだ間に合う、謝れば間に合う! ……どうしてそんなに必死になるかって? それは先生が下す罰があまりにも過酷だからだ。

「ごめんなさい!」

「……いいだろう」とレインボー先生は再度眼鏡をずり上げた。

 やった! 勝った!

「『人類の軌跡』を体で表現しろ」

「え?」

 ――ダメだった。レインボー先生は頭ごなしに怒鳴ったりしないが、感情的にならない分無言の恐ろしさというものがある。現に今、岸に打ち上げられた傷だらけの魚を見るような眼差しでオレを見下ろしている。

 突如、座席の後ろの方で腹の底から馬鹿笑いする声が聞こえてきた。

「ぎゃっははは! いいぞ、()よやれー!」

 席から立ち上がり、オレを指差しながら白石が笑っていた。その笑顔はこの上なく楽しそうで『他人の不幸が何よりの幸福』と公言しているだけのことはある。少し強面だが、この学校に入学して一番に友達になった奴だ。学校の勉強はからっきしだが、雑学に置いて右に出るものはいない。

「うるさいぞ白石、貴様は『明治維新』を表現しろ」

 レインボーが相変わらず無表情のまま、眼鏡を正しい位置に戻しつつ白石に難題をぶつけた。白石は馬鹿笑いをやめ、スカした態度で肩を竦める。

「……フッ、レインボー、俺がこんな罰堪える思たんか?」

 白石はこの罰を誰よりもぶっちぎりで数をこなしてきた。因みにオレが二位、三位はアーサーだ。……アーサーは上位二人の巻き添えだが。

「おっしゃ! いけ神城、お前の実力見したれや! 己の全てを解放するんや!」

 ――これをするコツは一切のプライドを捨てること、それに尽きる。

しかし……土御門も見てるのに……きっとオレを馬鹿にした目で見ているに違いない。

ちらりと土御門を傍目で確認すると、なんと、にっこりと微笑みながらオレを見詰めているじゃないか。そうか……そうだよな、あの大和撫子を代表したような、優しさに溢れた女の子が人を馬鹿にする訳がない。

よし、やるしかない!

「いくぜぇ!」

 オレは背筋を稲妻の如き速さで伸ばし、手を広げ大海原を演出、そこに味を添えるのは一本足で立つ不安定、世知辛さ、しかしそれだけでは終わらない。その大地を貫く一本足にくの字に曲げた輪廻転生を描いた片足が支える。

「まさしく、命!」

 ここで効果音が『ドン!』とでも鳴ってくれればお涙頂戴モノだったろう。しかしクラスは静まり返り、爽やかな夏風が教室を吹き抜けて行く。

「それが貴様の限界か」

 レインボーはこの上なく冷たい声で、何事もなかったかのようにオレから離れる。……もういい、このまま心のスイッチを切ろう。

「クソッ、神城がやられた! こうなったら、アーサー!」

 オレの隣の席で小さく縮こまっていたアーサーこと、浅田(あさだ)(かおる)がビクっと体を震わせる。童顔を通り越して小学生のような出で立ちの小柄な体を震わせながら、白石に喰ってかかる。

「な、なんで僕が――」

「お前しかおらんねや、神城の仇とったれ!」

「せ、先生~」

 くりくりとした瞳を潤ませながらレインボーに助けを求める。まるで捨てられた子犬のようだ。それを見たレインボーは……なんと、こともあろうに頬を赤らめている。しばらくしてハっとしたように「そ、そうだな、ついでにやっておけ浅田」と言い放った。

「そ、そんな~」

 アーサーに出されたお題はなぜか『究極のエロス』だったが、涙目で小さな机の上で縮こまって指を咥える様は、クラスから感嘆の声が上がった。……あれで女の子だったら、いや十分女の子に見えるが、これ以上見ていると何かに目覚めそうで怖い。

 その後すぐに白石が出撃したが当然だだ滑りだった。『明治維新』と言われていたのに、なぜか筆記用具を全て顔の皺に挟み込むという宴会芸を披露した。顔中の筋肉をフルに使い、猿のような顔になっている。

 でも……その後のレインボーの一言にオレ達は戦慄したね。

「よし、三人はそのまま授業を受けろ」

 ――背後から聞こえる、堪えた白石の顔から一つずつ筆記用具が落ちていく音が虚しく教室に響いていた。



「あー! めっちゃ顔痛いわ!」

 放課後、頬をむにむにとこねくり回す白石が、オレとアーサーの席の前に元気良く仁王立ちしていた。アーサーは顔を手で覆いながら、これ以上男にモテてしまうかもしれない恐怖に怯えていた。クラスの女子から「可愛かったよ」と声を掛けられる度に、深い溜め息を漏らしている。

 オレは片足が痛いし、なによりあんな失態を土御門に見せてしまったことが悔やまれる。

 帰り支度をしている土御門に目をやる。鞄に物を詰める動作をする度に揺れる髪と……胸。

「ああ、絶対幻滅されたよ……」

「なんや神城、皆のアイドルに手ぇ出そう思うからそうなるんや」

 白石がオレの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。そして高らかに手を振りかざしてオレへの説教を始めた。

「男子の告白は星の数、それを全て断ってきた土御門小夜子。それに手ぇ出そう思うなんて馬鹿を見ること間違いなしや!」

「別に好きとかそんなんじゃないぞ……。そりゃあ、あれだけ可愛いんだし、どうも思わない方がどうかしてるけどさ」

「ほんならお前も一発シャキっと告白せんかい! 皆当たって砕けてるというのに、お前ときたら……情けないわ!」

 どうせフラれるところが見たいだけだろうに。「嘆かわしい」とか言いながら、わざとらしく顔を覆う。

「でも、土御門さんって不思議だよね」

 深く沈んでいたアーサーが不意に話に割り込んできた。

「なんやアーサー、お前も土御門に興味あるんかい」

「ち、違うよ。僕はただ……あの不思議な感じ? 皆と違うように見えるんだ」

 白石は「訳分らんわ」と言いながら馬鹿面を晒していたが、オレには何となく分かる。あの落ち着いた物腰、とてもオレ達と同世代には思えない。そして時々、遠い目をしながら何かに思い耽っているらしい悲愴感漂う後ろ姿に身悶える男性は星の数。まあ、そんなところにオレも興味はあるのだが……。

「ま、どちらにせよお前には高根の花やで。さっさと帰ろうや、今日は俺の奢りで『ヤブキ』連れてっちゃる。今日は二人焚き付けてもうたしなー」

 『ヤブキ』とは、オレが子供の頃からお世話になっている駄菓子屋のことだ。万年同じ座布団の上に座り、お金を受け取る時以外はピクリとも動かない。

しかし、駄菓子程度で今日のオレ達二人の傷がそれで埋められるとでも思ってるのだろうか。まったく、安上がりにもほどが――。

「行く! やった~、奢りのお菓子ほど美味しいものはないね」

 少し黒いことを言うアーサーは大の甘党だ、お菓子を与えれば大抵何でもしてくれる。あっという間に上機嫌になり、白石にすり寄っていた。でも、確かに白石の奢りなんて海水浴でポロリにお目にかかる並みに珍しい。

「じゃ、白石の奢りで行きますか」

 オレの一言で、皆ガタガタと騒がしく席を立った。

――その瞬間、不意に後ろから風が吹き、それに乗って甘い匂いがしたかと思うと、爽やかで通りのいい声が投げかけられた。

「神城、神城善治くん?」

 甘ったるさも感じるほどの甘美な声にオレは思わず振り向いた。白石やアーサーなんかは目を丸くしてその声の主を凝視しては、オレと彼女を交互に見つめていた。

 振り向くと、足元まで届く黒髪ストレートが風に揺らめき――それによって甘い匂いがここまで届いていたのだ――思わず鼻をヒクつかせる。

「ハ、ハイ!」

 自分の声が緊張のあまり裏返っていることに気付いたがどうすることもできない。だってこんな経験始めてだもの! ……土御門小夜子が、オレに話し掛けてる!? いやいや、そんな上手い話がある訳ない。きっと掃除当番変わってとか――。

「よかったら連絡先教えていただけないかしら? もちろん神城くんが嫌じゃなければでいいのだけれど……」

 嗚呼、神よ、ありがとうございます。今までロクに女性と接していないせいで女性が本当に存在しているのか疑問に思っていた日々。それに見よ、あの連絡先を聞き出す恥じらいの顔を! 高い鼻、大きな目、小顔。そんな彼女が目線を背け、頬を紅く染めながらオレに連絡先を聞いているのだ! 

……しかし生憎オレは携帯電話を持っていない。自分を呪うぞ……。

「お、オレ携帯電話持ってないんだよ。家の電話でよかったら――」

 直後、隣で電柱のように突っ立っていた白石が俺を押し退けるようにして前に躍り出た。

「バッキャロー! 家デンなんてダサいこと言ってんじゃねェー! 土御門さん、俺でよければ神城の連絡役になりまっせ。だから連絡先を!」

「いえ、お家のお電話でも構いませんわ。(わたくし)紙と筆を持っておりますので」

 灰になった白石の横を颯爽とすり抜けると、土御門小夜子はオレの目の前で鞄からキャラクター絵の入った可愛らしいメモ帳を取り出し、オレに向かってニッコリと微笑んだ。眩し過ぎて目線が合わせられない。身長は女の子の中では高い方で、体はとても華奢で細い。……そして最大の難敵『大きな胸』に目がいかないように若干視線を上に向ける。

こんな至近距離で女の子に近付くなんて何年振りだろう。自分の口臭なんかが気になって鼻呼吸しかできない。しかも片方詰まってるから最悪だ。それでも柑橘系の甘い香りが鼻をくすぐり、胸が高鳴る。

「はい」という言葉と共に土御門からメモ用紙と筆を受け取る。震える手を抑え、殴るように電話番号を走り書きした。渡す時に手と手が触れ合ってしまい、頭の中で小さな爆発が起こったかのように目の前が真っ白になってしまう。透きとおるような薄い肌、触れた瞬間罪悪感さえ生まれるほどに美人だ。

「じゃあ失礼しますわ。今日にでも早速お電話差し上げたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「もちろんですはい」

 笑顔のまま俺達に踵を返すと「ごきげんよう」と歌うように囁き、颯爽と教室の扉から出て行った。その最中、華奢な足が制服のスカートから覗きまた一段と心臓が跳ね上がる。

「オイ何ニヤニヤ笑っとんねん」

後ろからジトリと絡み付く視線が言葉と共に投げ掛けられた。そして白石がオレの肩に腕を組む。

「……これが喜ばずにいられるかよ、やっとオレにも女の子とお近付きになるチャンスが巡って来たんだ!」

 オレは勝者の頬笑みを浮かべ、唖然と佇む二人に眉を片方吊り上げてみせた。

「うわー、ウザッ! そんな喜ぶのはエエけどなぁ、周り見てみ」

 白石が声を潜める。言う通りに周りを見回してみると、動きを止めた男子の大多数がオレに殺意を向けていた。クラスのアイドルに声を掛けられた挙句、連絡先まで聞かれたのだから当然だろう。奴らの瞳からは「神城のくせに」といった怨念満ち満ちた感情がダダ漏れであった。しかしそんな視線が気になるはずもなく、オレの心は舞い上がっていた。

「……でも、あの無敗の土御門さんが」

 アーサーが信じられない、とでも言わんばかりに、土御門の出て行った扉を未だに見詰め続けていた。当然オレだって信じられない。でもこれは紛れもなく現実、そして今夜電話が掛かってくるってのも現実だろう。でも……一体何の用なのだろうか? 幸福感が先行してしまっていてその理由については何も考えてはいなかったのだが……やはりいくら考えてみても何も浮かばない。接点もなければ話したこともないのに浮かぶ訳がない。――いや! まさか……ストーカーと勘違いされてて、それの苦情……?

 顔中から血の気が引いた瞬間、再び白石の腕がオレの肩に重くのしかかった。

「ほな、今日の奢りは神城で決定やな」

「へ?」

 泣きっ面に蜂とはこのことだ。物申そうとした瞬間、白石がこの上なく低い声で「ええ御身分やのォ……クラスのアイドルとお近づきになれた挙句、俺に奢らそうっちゅーんかい。少しは俺達を労わるっちゅー想いやりはないんか」

 ハっとして白石の顔を覗きこむ。……涙でぐしゃぐしゃだ。今までモテなかったオレ達は三人で支え合った。時々アーサーを本気で女にしてしまおうか、という作戦も立てた。そんな戦場を共に生き抜いた……そんなオレは今日で卒業? 仲間を置いて? 

「行けよ神城!」と白石が涙を散らしながら顔を背けた。

「うん、行く!」

「え? お、おーい!」

「アーサー、行こう。今日はオレが『ヤブキ』で奢るよ」

「ま、待たんかーい!」

 何やかんやで結局オレが奢ることになり、お財布状況と土御門という二つの重荷に耐えながら『ヤブキ』に向かうことになった。


* * *


 オレは実家暮らしだが、なぜかそこで一人暮らしをしている。親父と妹がいたらしいが、オレが小さな頃に出て行ったきり会っていない。

親父が庭先で当時赤ん坊だった妹を持ち上げているのを、オレが縁側から見詰めている光景を時々(おぼろ)げに思い出すが、オレ自身も赤ん坊だったこともあるしそれしか覚えていない。それが二人の最初で最後の記憶だ。

 母親もしっかりいるのだが……いや、いたのだが今はいない。確か一年前くらいまでは一緒に住んでたはずなのに、やたらと海外旅行に行きたがり、突然「ヒマラヤ行ってくる!」と出ていったきり帰ってきていない。一度も電話すらないのだが、しっかり仕送りされているので生きてはいるのだろう。

 ――つまり、オレは一人で全てのことをこなさなければならない。洗濯、掃除、炊事等様々だ。それらは全てお金の掛かることであり、毎月毎月切り詰めてなんとか生活出来ている訳だ。

 そんな切実な理由があることもお構いなしに、白石とアーサーはオレの大切なお金を使い荒し、日が沈み掛ける頃にはとても満足して頂けたらしく笑顔満点で帰って行きやがった。

「まったく、食いすぎなんだよ……アイツら。今晩の飯は何作ろうかな」

今日のご飯は大層貧相なものになるだろう。

 人気のない夕暮れの道を、独り言を呟きながらトボトボと歩く。こうして独り言を呟くと余計に惨めに感じてしまうけど、一人暮らしが長いと一々言葉にしないとどうも脳が整理してくれない。

 その状態のまま家の玄関の前に立つ。いつ見ても、どこからどう見ても大きな家だ。これがオレの家。古き良き日本家屋、いなくなった親父の趣味らしいが、かなりのお金を投じて建てた家だろう。庭も広くて、そこに面した縁側がオレが唯一この家で好きな場所だ。白石やアーサーには大きくて羨ましいと言われるがよく考えてほしい。この広さの家を掃除するとなるとかなりの手間だ。そしてオレ一人でやらなくちゃいけないのだから、広い家がいいなんてのはただの幻想だ。いい家の条件ってのは、暖かい家庭が円満に暮らしている、もしくは大富豪のメイドさんがいる家ってもんじゃないだろうか。

「ただいま」

 ガラリと家の扉を潜ると、母親が海外から集めまくった土産物がオレを出迎える。格別に趣味の悪い品々だ。木彫りのお面から謎の水晶まで様々なものが取り揃えられている。出迎えてくれるのはそれだけで思わず溜め息が出るが、母曰くオレが寂しい思いをしないようにと置いているらしい、が……特に夜が不気味で仕方がない、いい迷惑だ。

 靴を脱ぎ、いつものようにリビングルームへと向かおうとした時だった。――違和感。

 違和感と捉えるには少し大袈裟かもしれないが……少し変な感じがする。どう言えばいいのだろうか、家の中の質量が少しだけ増えている? おかしな圧迫感に駆られ辺りを見回してみると、今朝家を出る前に閉めたはずのリビングのドアが開いていた。

え……開いてる!? いやまさか、ただの勘違いだろう。それに開いてたからどうだっていうんだ? 心霊現象によくある話じゃないか。いや……あっても困るが。

 ……まぁいいか、思い過ごしだろう。――とそのままリビングに入ろうとしたその時、不意に背中に何かが押し付けられた。オレは驚く暇も与えられないまま首を掴まれ、廊下の端まで引きずられそのまま壁に押し付けられた。頭から突っ込んだから額がとても痛い、少し呻き声が漏れてしまう。その最中、オレの背後にいる奴が少し見えたがどうやらちゃんと人間のようだ。一瞬だったのでおぼろげな姿しか映らなかったが、小さな影がいるのを捉えた。

「だ、誰だよ!」

 そう言葉を発した瞬間、首筋に冷たい金属が当てがわれた。ナイフだ、とてつもなく鋭利な刃物。

「お、おい。そんな危ねぇモン――」

「黙れ」

 自分の耳を疑う。こんな物騒なことをしたり、先ほどのオレを引きずる力からして男だとばかり思っていたのだが、その声は紛れもなく女の子のもので、声質からしてかなり若いのではないだろうか?

「次喋ったら殺す、許可なく振り向いても殺す、手足を動かしても殺す。以上を守るのなら祈る時間だけはあげるわ」

 無言で首を縦に動かす。するとナイフが首筋から離れ「振り向いていいわよ」とだけ呟かれた。

 既に日は沈みかけていて、電気も点けていない部屋の中ということもありほぼ真っ暗だった。そんな中振り向いても何も見えないのだからこれに意味があるのだろうか? 俺が黙っていると、女の子はそれを察したように話し始めた。

「どうして振り向かせたか聞きたいようね。いいわ、教えてあげる。日本人は背中に傷を負うのを嫌うのよね?」

「へ?」いきなり突拍子もないことを言い始めたので俺は思わず素っ頓狂な声を上げていた。何を言っているんだコイツは……?

「え? 違うの!? ……シキの嘘吐き」とその女の子はボソボソと誰かの悪態を突くと、再度オレの首筋にナイフを押し当てた。イラついているのか、当たった刃が先ほどよりも強く皮膚にめり込んで、鋭い痛みが走った。生ぬるい液体が首筋を伝う。

「言い残すことはある? 残念ながら親戚、友人、知り合いにその遺言は伝えられないけど……でもその言葉は私が聞いてあげる。あなたの生きてきた証は、私が証明するから心配しないで」

 女の子はオレの顔に息のかかるほどに近付き、早口でそれを言い終えた。もう何度も言っているのだろうか? 形式的に言い慣れている、そんな気がした。そして首に込められたナイフの力がオレの命を絶つことに何の躊躇いもない。と実感するに疑いようはなかった。

 しかしそれとは裏腹に、近付いた女の子の顔はオレの心を更に揺るがせた。……とても可愛いのである。

肩に触るくらいの、少し蒼の入った黒髪。小柄な身長に端整な顔立ち、控えめな胸が減点対象だが、気の強そうなツリ目が相まって――ってオレはこんな時に何を考えているんだ……。自分の命が懸かっているというのに。かといってどう対策を立てたとしても逃げ切れる自信はない。威圧感とでも言うのだろうか? 女の子にその場から動けなくさせる魔法でも使われたのか、と錯覚するほどに足が竦んで動けなかった。

「何も言うことはないのね? じゃあ……さようなら」


あ――死ぬ――。


 本当に人間って死ぬんだろうか? 今までオレは『今』死ぬはずないと思って生きてきた。でも多分、オレはここで死ぬ? ……そうか、皆最後まで死ぬかどうか疑問に思いながら死んでいくんだ――。

――――って、そう簡単に諦めていいものなのか!? 今日は土御門さんから電話があるんだぞ? もしかしたら愛の告白とかご都合主義炸裂な展開が待っているかもしれない、それなのに……それなのに、死んでいいのか?

「――て」

 一瞬強くなった力が、オレの言葉と同時に弱まった。

「まったく、遺言があるなら先に言いなさい――」

「うるせぇ! 何さっきから好き勝手言ってるんだよ!」

 女の子はビクリと体を震わせたかと思うと、ナイフを少しだけオレの体から遠ざけた。

 しかし……言ってみたもののオレどうすんの? 女の子とまともに喋ったことすらないのに、いきなり怒鳴るなんて。でもどうせ死ぬなら言いたいこと言ってやる。もういいや、ハハハ。

「死にたくない! 絶っ対死にたくない! どうせお前は殺し屋とか言うんだろ? ハッ、分かってるって。んで血も涙もない冷徹女を演じてるわけだ、随分悲しい職業に就いてるね。それに比べてオレときたらまぁ平凡ですよ、平凡サイコー! ところがどうよコレ、いきなり可愛らしい女の子が家に上がり込んできたと思ったら〝お命頂戴〟? ふざけんな! 今日はこれから縁側で涼みながらメシとスイカ食って土御門さんと電話して風呂入ってクソして寝るんだよ! この女の子が混じった生活リズムがオレの理想なわけ! 分かる? この幸せが! でもお前絶対分からないだろ! やーいやーい、羨ましいだろー」

 もうね……終わったね確実に。

 オレがやけくそ気味に身振り手振りで話していると、意外にも女の子は驚いた顔をしたまま動かなかった。そして次第に白い顔に赤みが増していき、プルプルと手を震わせていった。嗚呼……さよなら、母さん。

 だが……まだだ、まだ言い足りない!

「ハイハーイ! ここでカミングアウトしちゃいまーす。なんとオレ女の子とキスはおろか手も繋いだことすらありませーん。キミあんの? 殺し屋なんてしてたらそんなチャンスないだろ。え? 図星? 図星? だったらせめて死ぬ前にオレとキスして下さいマジお願いします」

 最後は切実だった。自然と体がひれ伏し土下座のような形になるが構うものか。屈んだまま女の子の方を見上げると、相変わらず手を震わしていた。やはり怒っているのか――と思った瞬間、その目から大量の涙が堰を切ったようにポロポロと流れ出した。堪えるようにつぐんだ口と、何か言いたげにモジモジと自分の服を触っている姿は、とてつもなく可愛く見えた。ただ同時に、女の子を泣かしてしまったという罪悪感が心に押し寄せる。……こ、これが噂に聞く女の涙の重圧? その場にいたくないくらい重い。重すぎるぞこれは。

「――もん」

「え?」

 罪悪感に頭を抱えていて聞きとり辛かったので聞き直してしまったが、再度小さな体を震わせながら女の子は何かを呟いた。あまりにか細いので聞き耳を立てる。

「そんなことないもん、私幸せだもん!」

「……じゃあ、なんで泣いてんだよ」

 先ほどの投げ遣りな気持ちはどこへやら、もう目の前の小さな女の子が恐ろしい存在には見えなかった。ただ、玩具が欲しいと駄々をこねる子供にさえ見える。

「知らない! 知らない!」

「泣くなよ……オレ力になるからさ」

 嘘じゃない。もちろん自分が助かりたい一心もあったけど、それだけが理由じゃなかった。何か言葉にできないような……よく分からない気持ちが存在していた。

 その直後、女の子のポケットから小さな電子音が聞こえた。それに気付いた女の子は、慌てて耳に着ける小型の無線機のような機械を取り出すと、何かのボタンを押し間違えたのかスピーカー越しに相手の声が漏れてきた。

『マイ! 連絡遅せーんだよ、何かあったのか』

 更に女の子は慌てふためき、オレの存在なんか忘れたように、その機械に向けて声を荒げた。

「レベッカ、ちょっと手間取ってるだけよ!」

『あぁ!? 作戦終了時間とっくに過ぎてんだよ、今までこんなことなかったろ。シキと一緒に突入すっからな!』

 スピーカーから漏れた乱暴そうな女の声が廊下にこだました。一方的に切れ、その女の子はスピーカーとオレの顔を交互に見詰め呆然としていた。その顔は驚いているようにも、悲しそうにも見えて少し可哀想になる。それは自分が時間をオーバーしてしまったプロ意識に対しての驚きだろうか? 分からないが、動揺しているのは事実だ。

 地面に跪く女の子に近付こうとしたその時、ガラスを叩き割る激しい音が聞こえたかと思うと、玄関側の通路とリビングから足音が聞こえた。

「おいマイ! 大丈夫か!?」

 血相を変えてリビングから飛び出してきたのは、先ほどの通信機から聞こえてきたのと同じ人物の声だった。くしゃくしゃな金髪を一つに束ね、ノースリーブから溢れんばかりの巨乳を揺らしながらマイという女の子に近付いた。しかしやはり、その手には武骨で大きなリボルバー拳銃が握られている。

「だ、大丈夫に……決まってるじゃない」

 マイと呼ばれた女の子は振り払うように立ち上がり、身の安全を証明した。

「テメェ! アタシがどれだけ心配したと思ってんだ!? あぁ!?」

「私がこんな男にやられるわけないでしょ!」

 オレを目の前にしても口論を止めない二人に、正直どうすればいいか分からなかった。なので少し声を掛けてみることにした。

「あの~」

「ウルセェぞ、この死に損ない! てめぇマイに何しやがった!」

 やはり黙っていよう、と思っても後の祭り。リボルバーの銃口がオレの体を捉えていた。そしてツカツカと近付いてくると、凄まじい力で胸倉を掴み上げ、オレの足は地面から軽々離れた。その細腕からは考えられない力だ。

「てめぇこの野郎、今すぐ頭吹っ飛ばしてやる」

 八重歯を剥き出しにし、怒りに満ちた表情で銃口が頬にめり込むほど押し付けられる。

「待って! レベッカ!」

「あぁ? 何だよ、コイツが今回の目標(ターゲット)だろ? サクっと殺して帰ろうぜ。これが終わったらやっと休暇なんだ。バンコク行きのチケットはもう予約済みなんだよ!」

 目標? 一体何の話だ? 身に覚えがなさ過ぎて声も上がらない。今まで警察にお世話になったこともないし、犯罪に触れたこともない。せいぜい学校の規則を少し破る程度のことしかしていない。それでもオレが殺される理由にはならないだろう。

「いいから、その男を降ろして。私に少しだけ時間を頂戴」

「ンだと? どんな理由があるにしろ規則違反(タブー)だぜ。アタシは反対だね」

 更に銃口が強く押し付けられ、引き金がギリギリ力を込められているのが骨振動で伝わる。さっきから冷や汗が蛇口をひねったように流れまくっている。失禁していないだけまだマシだ。

「……お願い」と、女の子の口から再度か細く漏れた。

「ッな……!? お前、一体どうしちまったんだ?」

 オレの胸倉を掴んでいた女は、マイという女の子の様子に少し驚いているようだった。すると首元の力が徐々に弱まっていき、地面に降りることを許された。

「ゲホッゲホ!」

「……五分だ、五分だけやる。アタシらは下がってるよ」

 そう言うと「行くぞシキ」と廊下の奥の暗闇に声を投げかけ、スっと奥に消えていった。その間に足音一つ立てないものだから、最初からそこにいたのかさえ疑問に思ってしまう。それほどに気配を消すのが上手いということなのだろう。

「ねえ」

 そんなことを考えていて不意に話し掛けられたもんだから「ハイッ」と声が上ずってしまう。

「アンタ、一体何者なの?」

「はぁ? オレが知るわけないじゃないか。今まで普通に生きてきて補導歴なし、ザ・平凡。オレよりキミ達の方が詳しいんじゃないかって気さえするよ」

 すると女の子は黙って首を横に振り「私達は何も聞かされていない」と呟いた。

「そんな……理由も知らずに殺すのか?」

「……」

 思わずオレは肩を落とした。初めて家に訪れた女の子が殺人マシーンだったとは、しかも狙われる理由は相変わらずサッパリときたもんだ。

「でも……」と女の子が口を再び開く。

「こんなことは初めて。今まで数々の命乞いを聞いてきた。でもアンタみたいに沢山喋る人は初めてだし、こんなにも殺される理由の見付からない相手は珍しい。それに何か……変な感じがする」

 つまりオレが口八丁でまくし立てたのが功を奏したのか。案外やってみるものである。

「それに、本当に私を助けてくれるの?」

 ん? オレそんなこと言ったっけ? 少し呆けた顔をしていると、女の子から只ならぬ殺気が押し寄せてきた。

「力になるって……」

「ハイハイハイー! 覚えてますー!」

 危ない、本当に忘れかけていた。しかし具体的にどう助ければいいのだろうか? そう試行錯誤していると、その女の子は少し頬を赤めながらボソリと呟いた。

「今は少しだけアンタを生かしてあげる。でも……アンタがその約束を守るなら、私もアンタが言ってた希望、守ってあげるわ」

 今度こそ本当に思い出せない、一体オレは何を言ってしまったんだ? でもそれで命が長らえるのなら首を縦に動かす以外に道はない。

 オレは……一体どうなってしまうのだろうか?



 その後、オレはリビングの椅子に縛りつけられ、ついでにと口もガムテープで隙間なく口を閉ざされ一切の発言を許されず、目の前のソファーでくつろぎながら相談し合う三人の女の子達を見守っていた。

「だからぁ、少しおかしいんだってば!」

「だから何がだよ! 確かにコイツは今まで見たことないくらい平凡だし()る理由も見当たらねぇ。でもな、今までアタシらはそんな仕事をいくつも片付けてきた。今回だけってのはどう考えてもおかしな話だぜ! それに上には何て報告するつもりなんだよ!?」

「私がするわ、それで文句ないでしょう?」

「いいや、大アリだね。アタシらはチームだ、お前が失敗す(シク)ればアタシらにも迷惑が掛かる。分かるか?」

「分かってる、上手くやるから! 少し黙っててよ!」

 声を荒げ、黒い大きな鞄から四角形の箱を取り出すと、アンテナのようなものを装着し何やらいじり始めた。

 オレはひとまず殺されないと安堵し、少し頭の中を整理してみる。マイと呼ばれていた女の子がオレを助けようとしてくれている子で、そしてあの乱暴粗暴女がレベッカ。二人共服装はタイトなものを見に着け、腰には拳銃を携えていた。

後は大きなソファーにチョコンと膝を抱えて座る女の子がシキ……だろうか?

これは本名なのだろうか? あのシキという子は先ほどから一言も喋らずに壁を見つめたまま微動だにしていない。まるで彼女の時間だけ止まっているようだ。が――不意にシキの瞳が吸い寄せられるようにオレの方を向き、視線が合う。その目は少し眠そうで、その小さな体は幼子のようだった。髪は肩に届くか届かないかくらいで、透き通るようにサラサラしていて、思わず猫の毛を連想させた。それが銀色の髪なのだから美しくないわけがない。

 視線が合い、思わずドキリと心臓が高鳴る。――動けなかった、蛇に睨まれた蛙のように。あれは子供の目ではない。落ち着いた瞳からは殺意らしきものは感じなかったけど、恐らく彼女もまた殺しに長けているに違いない。それに彼女だけは重々しい装備は何一つなく、シャツに短パンというラフな格好だった。

「こちらチーム・マギ、至急作戦報告を許可願いたい」

 通信機のようなものからノイズが聞こえてくると、しばらくして音声案内のような無機質な女の声が聞こえてきた。ボイステェンジャーで音声を変えているのだろうか?

『チーム・マギ、どうした?』

「少し手違いが生じた。至急マスターに繋いで頂きたい」

『……了解した』

 一体どこの誰と通信しているのだろうか、スピーカー越しの声はかなり遅れて返事をしているので、まず日本との通信ではないのだろう。

『マイか、何があったんだ?』

 しばらく待つと、機械音声にも関わらずいい加減な性格が垣間見える声が聞こえてきた。この相手がマスターと呼ばれる人物なのだろうか?

「目標を逃がしてしまいました……」

『……珍しいなぁ、お前達がミスするなんて』

 それを聞いたレベッカは、怒りの表情で受話器をひったくろうと腰を浮かしたが、ソファーで身動き一つしなかったシキに首を引っ張られ何かを潰したような音が部屋に響き渡る。

『何か聞こえたが……?』

「い、いえ、問題ありません」

『そうかぁ。じゃあ本題に戻るが、目標に顔は見られたか?』

「……はい」

『そうか……』

「申し訳ございません」

『うーん……仕方ないな。んじゃあこちらから増援を送る』

「そ、それはどういう意味ですか?」

『……奴はなんとしても俺達の手で始末しなきゃならねぇ。お前達は再度目標の捜索に当たってくれ、通信を終わる』

 通信が終わりを告げた継続的な機械音が部屋内にこだました。

「増援だと? こんなマヌケ面に?」

 レベッカは凶暴そうな瞳を更に吊り上げ、イラついた口調でそう吐き捨てた。受話器を握ったままのマイもどこか腑に落ちないようで、受話器のマイク部分をずっと見詰めている。

「おい、お前何か隠してねーか? そもそも何でこんな奴に私達三人も必要だったのか理解不能だぜ」

 レベッカは不意に、オレの口を塞いでいたガムテープを、ダンボールから剥がす時のように乱暴に遠慮なく剥ぎ取った。

「いてて」

 ようやく発言権が得られた訳だが、オレだって何も知らないし、知りたいのはこっちの方だ。

「隠すも何も、オレは本当に何も知らないよ。とにかくこの縄解いてよ、トイレに行きたくて仕方ないんだ」

 嘘じゃない、本当にトイレに行きたい。先ほどから緊張のせいか、便意がそこはかとなく押し寄せているのだ。

 レベッカはしばらくオレを見詰めていたが、すぐにマイと向き直った。なるほど、オレの言い分は無視ですか。

「これからどうするんだ?」

「少し……少し様子を見ましょう。それまでは『監視下』に置く、ということでどう?」

「どう? って、どうせ増援が来たらコイツはあっという間に殺されるぞ。アタシらのしてることは無意味だ。それに匿ってるのがバレたらヤベーぞ」

「だから、少し時間を頂戴って言ってるだけ。もし増援が来たら即座に殺す、これでいいじゃない」

 少なくとも、オレは増援が来るまでは生きていることができる、ということか? 少し間延びしただけじゃないか……。何の解決にもなっていやしない。

「そうだな……どうせこの後休暇が待ってんだし、日本来たのも初めてだし、早めの休暇とシャレ込むか」

 オレの気持ちなど余所に、あの野蛮そうな女が一つ伸びをするとソファに身を投げ出して服を脱ぎ始めた。おっと……とんだラッキー――じゃなくて!

「お、おい、ここで着替えるなよ!」

 こちとら青春真っ盛りの健全な少年だ。見たいのは山々だが……あくまで紳士でクールな男を……。

「あ? 文句言うな、日本がこんな暑いとは思ってなかったんだよ。それに下はスポーツブラだから心配すんな」

 なら仕方ない。ん? いやいや――!

 するすると脱いだ先には、締まったお腹が見え、えらく強調された胸元からは、こぼれんばかりに胸が……。しかも少し汗で湿っているのか、その谷間は……まるで山々に落した朝露! いや、何を考えているんだオレは……。――うわ! 太もも柔らかそー! 見事にクッキリとした鎖骨、鍛え抜かれたであろう無駄なぜい肉をそぎ落とした腕。ごつごつしているわけでもなく、とてもスレンダーだ。あのオレを片手で持ち上げた力は一体どこから来るのだろうか、と先ほどの情景を疑ってしまう。

 どうやら皆疲れている様子で、少し眠そうにしていた。しかしこのまま寝られてはきっとオレは漏らす。

「ねえ」

 オレを助けようとしてくれている女の子、マイに声を掛ける。きっとこの女の子が一番オレに優しくしてくれるだろう。なんたって命を助けてくれたんだもの。

「うっさいわね、今話し掛けないで!」

「おおぅ……」

 マイは、自分が予想外の行動を起こしたことに後悔しているのか床に三角座りし、そこに頬を埋め何やらブツブツ呟いていた。そこからは纏わりつくような殺気が出ているような気がしないでもない。

今あの子に話し掛けちゃダメだ、助かった命を無駄にしちゃいけない。

ハァ……オレは殺し屋達に囲まれて、生まれ育ったリビングで漏らす訳だ。……一体何の恨みがあってこんなドMプレイに興じないといけないんだと絶望に肩を落とした瞬間――。落ちた肩に何かが当たる感触に気付いた。それは細く白い人差し指で、とんとん、と撫でるように触れていた。思わず顔を上げる。

 あのソファに座っていた小さな女の子だ。言葉を発していないせいか、えらく存在感が少ないように思える。現にいつの間に真横に立っていたのか、全く気付けなかった。本当に瞬間移動したかと疑う。

「ど、どうしたの?」

 そう問い掛けるも、小さな顔から表情は崩れず、まばたきもしない。オレはしばらく彼女のハムスターのような口を見詰めていたが、固く閉じた門のように閉ざされたままで、一向に喋ろうとしない。

 しかし、一体何歳なんだ? あの二人は大体オレと同年代な気がするが、どう考えてもこの子はオレよりずっと年下に見える。産毛のようなサラサラな銀髪、赤子のようなモチモチしてそうな肌。小さな口に反した大きな目、小動物を連想させる顔立ちは、最初に視線が合った時に『子供の瞳ではない』と感じたのは気のせいだったのだろうか?

――と、彼女の可愛らしい顔を余すところなく観察し終えた頃に、不意にその口が微かに動いた。

「……おなかすいた」

「え?」

 どんな言葉が飛び出すのかと思ったが、どうやら相当お腹が空いているらしい。片手をお腹に乗せ、『飯を作れ』とでも言わんばかりに堂々としていた。

「何か作ろうか?」

 するとコクリと頷き「……スキヤキ」と呟いた。

「すき焼き、好きなの?」

「そいつは超ド級の日本オタクだ、今回日本に来ることもスゲー楽しみにしてたもんなぁ」

 ソファーでくつろぐレベッカ……いや、乱暴怪力女がケラケラ笑っていた。オレはそれを無視してシキに向き直る。さっきの仕返しだ。それにしても、マイと一番最初に出会った時に言っていた「日本人は背中の傷を嫌う」というのもシキからの情報だったというわけだ、なるほど。

「日本好きなんだ」とオレは精一杯友好的にニッコリ微笑みかける。

「ハラキリ、サムライ、ポン刀、チャカ、オタク、萌え」

 かなり片寄った日本好きなんだなぁ……。

思わずクスリと笑ってしまうが、所詮まだまだ小さな子供――。

「……そして世界トップレベルの技術、欠陥率の低さ、品質の高さ。日本の技術は芸術にも捉えることができる。それは独自の文化を築いてきた証であり、一人一人の職人気質が生んだ産物。ヤオヨロズの精神がきっとそうさせた。だから私はヤマトダマシイが好き。だからスキヤキが食べてみたい」

 ……どこから突っ込もうか。もうなんとなく分かったけど、きっとこの子は変態だ。

「す、すき焼きが食べたいんだな? いいよ、作ってあげる」

 とは言ってみたものの、今日白石達に奢ったせいでお金がない。一応食料は買い溜めしてるが、もし今すき焼きを作ればあっという間に数日分の食糧は底を突くだろう。

「……」

 シキは無言のまま、オレの背後にあった包丁で縄を切った。

「おいおい! 何縄解いてんだよ!」

 テレビを見ながら爆笑していた野蛮女が、一瞬で振り返り驚きの混じった声で叫んだ。

「……無害だから大丈夫」

 無害……とはオレのことか?

「チッ、別にいいけどよ、逃げたら即殺すからな。後お前絶対美味いメシ作れよ、私達は三日三晩不眠不休で疲れてんだ」

「え! 何でそんなに?」

「バーカ、お前を見張ってたんだろうが。何も聞かされてないからマジ大変だったぜ、そんな未知数な相手今まで一人もいなかったからな、どんな大物で巨大な組織かと思いきや、こんな平和ボケ丸出しのガキだったから拍子抜けだぜ。本当に私達三人も必要だったのかね」

 やはりプロなのか。もし自分がそんな状況なら、あんな風にテレビを見るまでもなく疲れきって卒倒してるに違いない。……でも三日も見張られてたのに気付かないなんて……学校や買い食いも全て見られていた……ということになる。そう思うと今更だが身震いしてきた。



ひとまずトイレに駆け込み事無きを得たが、オレの頭の中はやはり食費のことで頭がいっぱいだった。オレを含めて四人分。……買い出し行かないとなぁ。明日は創立記念日で学校も休みだし、遠出して安いスーパー探すか……。そういえば明日は水曜日、あのデパ地下の食料品売り場は水曜日が安かったはずだ。

 台所に入り下ごしらえをしている間、ずっとシキが背後でオレを見詰めていた。

「アンタ、えらく懐かれてるわね」と塞ぎ込みから復活したマイに驚かれた。何やら二人は部屋中のカーテンを閉めたり、玄関の方に行ったり来たり忙しなさそうだ。

「きみもやってみる?」

 ずっと背後で見詰められているのも変にムズムズするので、そう問い掛けると一瞬唇を震わせ小さく頷いた。可愛いなチキショー。

「じゃあ、そこの牛肉パックのラップ開けて」

 さっき『懐かれてる』、と言われたので、こうして隣に立たれると少し舞い上がってしまう。しかも洗い場に満足に手が届かないので、そっと高台を足元に添えてやる。するとチョコンと飛び乗り、不器用な手付きで牛肉パックをしげしげと眺めた。やっぱり……可愛い。――が、その直後牛肉パックを派手に四方に引き千切りやがった……。空中に飛び散った牛肉が雨あられの如くオレに振りかかり、ぬんめりと冷たい生肉がオレを絶叫へと誘った。

 ――その後、なんとか食事を作り終え、四人掛けのテーブルに並べ終えると同時に皆野獣みたいに食べ始めた。会話は一切なしで、時折差し出されるお椀にお米を入れる作業に追われて、オレはロクに食べることができなかった。

 炊飯器の米を食い尽くした頃、ようやくひと段落ついたようで皆眠そうな顔をしていた。

「ところで、オレはこれからどうしたらいいの?」

 当然これを聞かなくては、今まで監視なんてされたこともないし……。当たり前のようにテーブルの上に置いてある銃が非現実さを醸し出していた。

「そうね……今まで通り二十四時間監視させてもらうわ。皆寝ていいわよ、今日は私が監視してるから」

「マジ!? やったぜ、おいシキ、一緒に寝ようぜ――って、そういやアタシらまだアンタの名前、聞いてなかったな」

 マイの一言に、レベッカはより一層ご機嫌になったようだ。

「アンタ、名前は?」とマイがツンっと言い放った。

「オレ? オレは神城善治だよ」

「そう、ゼンジね」

「もう知ってるかもしれねーけどよ、アタシらも一応名乗っておくぜ。ま、どうせ本名なんてアタシ達ですら知らないんだし、言っても言わなくても一緒だけどな」

 本名を知らない? 一体どういうことだろう。でもオレだって一応紹介はされておきたい、殺される相手とはいえ、名前も言われないまま死ぬのは御免だ。

「……シキ」

 不意に袖を掴まれ、あの一番小さくて大人しい女の子、牛肉をブチかましてくれた本人が呟いた。

「それがきみの名前?」と問い掛けると、小さく首を縦に揺らした。

「よろしくね、シキ……ちゃん? さん?」

「シキ……でいい」

 少しオレから視線を外し、シキはまたぼそりと呟いた。

「シキにすげー懐かれてんなゼンジ! アタシの名前はレベッカだ。『レベッカの姉御』って呼んでもいいぜ」

「お断りだよ」

 満腹になってよほど機嫌がいいのか、先ほどの暴力性は消え、レベッカは早速オレを呼び捨てにし始めた。しかも馴れ馴れしい。

「わ、私はマイよ」

 そっぽを向いたままのマイが頬を赤らめ吐き捨てるように言い放った。何もそんな言い方しなくてもいいのに……。

――彼女達は必要最低限の必需品しか持っていないのか、武器やノートパソコン、機器類以外は殆ど見当たらなかった。一際少なかったのはシキで、肩に背負える長細い皮袋一つのみだった。本当にどうやって三日間も生活していたのだろうか? 

「シャワー貸してくれ、三日間も野ざらしだったから髪がボサボサだぜ」

「うわ汚ねぇ!」

 レベッカに殴られた。

当然風呂は貸すが、その間オレは言いようのない不思議な感覚と戦わなくてはならなかった。だって……自分の家で女の子がシャワーを浴びているのですよ? いくら交代で見張られているとはいえ、ソワソワせずにはいられなかった。

「ああ……なんて大変な一日なんだ……」

――部屋はいくらでもあるのでレベッカとシキに一部屋ずつ案内するが、どうやら二人は一緒に寝るらしい。侵入者対策とか、連携が取り易いとか言っていたけどオレにはサッパリだ。余程疲れていたのだろう、部屋に入るなり小さな寝息が聞こえてきた。

「ゼンジは入らないの?」

 リビングに戻ると、そう問い掛けられた。マイは後ろ姿のままテーブルに座って拳銃をいじっている。少し濡れた黒髪を首筋にぴったりつけ、ほんのりといい匂いが漂ってきた。どうして女の子の風呂上がりはあんなにいい匂いなのだろうか?

「オレは後でいいよ……それよりも、色々と聞きたいことがある」

「……そうね」

 テーブルに拳銃を置くと、マイは何かを決意するかのようにスっと立ち上がった。

 この家で一番落ち着く場所、『縁側』で二人並んで座った。空は飲み込まれるかのように暗く、それを一つの月がクリーム色に彩っていた。辺りは人工的な音は何一つせず、鈴虫の泣き声の強弱が耳をくすぐる。最高の夏だ。

「気持ちいいわね」

 マイは月を見上げながら、大きく深呼吸した。それに伴って肩が上下するのを眺めていると、まるで自分が夢でも見ていて、殺し屋に狙われているのも、目の前の可愛らしい女の子が殺し屋だということも全て嘘なんじゃないだろうか、と錯覚してしまう。……殺し屋を目の前にしているはずなのに、マイの横顔を眺めていると今日の騒動で高ぶった心が、平坦を取り戻す水面のように落ち着いてゆく。とても不思議な時間がオレ達を包みこんでいる、そんな気がした。

「日本は湿度が高いから気持ち悪いと思ってたんだけど、風呂上がりの夜はとても爽やかなのね――ってちょっと聞いてるの?」

 思わずマイの横顔に見惚れていると、案の定「気持ち悪い」と言われた。

「ご、ごめん」

「まったく、どうしてこんな男助けたのかしら……人生の汚点だわ」

 マイは頭を抱えると、盛大にワザとらしく溜め息をついてみせた。

「で、でもそれのお陰でオレはこうして生きてられる。感謝してるよ」

 オレを殺そうとした相手をフォローするのもどうかと思うが、マイは目をキっと細くし「でも増援きたら殺すから」と言い放った。

「じゃあどの道死ぬなら、一つ聞いてもいい?」

 どうせ一度死んでしまったようなもんだし、色々聞いてみよう。それに人生は一期一会だ、とも母さんが言ってた。

「何よ」

「きみ達は一体何者なんだ? ヤクザ? マフィア? それとも特殊部隊とか?」

 自分で言って笑えてしまう。そんな訳がない。ここは世界でも指折りの治安の整った国だ。そもそも日本に銃を持ち込むのだって難しいとテレビでやっていた。でも目の前に殺し屋がいるのは紛れもなく現実だし……。

「うーん、どこに属しているとは言えないけど、私達は確かに特殊な部隊よ」

「それは、とても巨大な組織なのか?」

「そうねぇ……物は言いようだけど、アメリカより上よ」

 ん? 高校生の脳みそをフル活用してみるが、アメリカよりも巨大な組織なんて存在してるのか? でもそれが本当だとしたら……オレヤバくねー?

「ちょ、ちょっと待てよ! オレ一体何したの!? 普通に生きて普通に生活してきただけなのに」

「だから何回も言ってるじゃない、私達も知らないのよ。私だってビックリしてるわ、こんな何も考えてなさそうな子供に私達三人も投入されるなんて。私はどこの議員かテロリストか大統領かと思ったわよ!」

「何も考えてなさそうで悪かったな! ……というかもう、そんな危ないことやめろよ」

 純粋にそう思った。こんな可愛い子が学校にも通わず、そんな危ない連中の命を奪ったりしている、いずれ殺されてしまうかもしれないのに。それに比べて、もしマイ達が学校に通えばさぞかし男連中が黙っていないだろう。特に白石が。

 しかし、オレの言葉を聞いた直後マイはピタリと動きを止めた。それと同時に周りの空気まで止まってしまったかと錯覚する。

「……どうして……アンタにそんなこと言われなくちゃいけないのよ」

 明らかに声のトーンが下がり、俯き気味になる。

「だって――」

「アンタに分かるかしら。物心付く前から大人と一緒に人を殺してきた私の気持ちが。誰が私を助けてくれるの? 親? 友達? 国? そんなもの一つも持ってなかった。当たり前のものを持ってなかった。私にあるのは殺しの技術だけだった。私が自分の手で掴んだ幸せは、助けてくれたマスターと、家族であるシキとレベッカがいることだけよ」

この……俯いた横顔から垣間見える瞳、あの目はどこかで見たことがある。

――そうだ、生涯解き放たれることのない、狭い籠の中の鳥――。

「ちなみにシキやレベッカも私と似たような境遇よ。ゼンジはもう眠ったら? 見張るけど部屋には入らないから」

 マイは立ち上がると、迷いなくリビングに向かった。オレも後を追おうと立ち上がってはみたけど……その小さな哀しい背中に、どんな、気の効いた、状況を覆すような、何を言葉にすればいいのか頭の片隅にも思い付きやしなかった。口は動くのだけれど、喉の奥が震えることが許されていない。

 オレとは違う世界に生きている少女、きっと否応なく生きる術の一つとして殺しを強要されてきたのだろう、いや、強要ではなく必然的に。それは生活の一部で、自分が殺す意味も意義も感じることすら許されなかったに違いない。正しく敷かれたレールの上を歩くように、自分の感情も置き去りにして他人の時間を奪い続けてきたのだ。そんな仄暗い瞳をした彼女にどんな言葉を掛けられようか。――しかし、彼女は、マイは、確かに『助けて』と言った。オレがそのきっかけを与えられたのかもしれない。高鳴る心臓の音、マイと最初に会った時から感じていた不思議な感覚。顔を合わせる度に訪れるそれをマイも感じているのなら、それがきっかけになったのだろうか。――なら、彼女は本当は殺しなんてしたくないんじゃないか?

 マイの姿が扉の奥に消える瞬間、その背中越しに声が届いた。静かな空間では小さな声でもよく響く。

「それでも……私を助けてくれる?」

 その声は、シンと心に覆いかぶさり、締めつけるようにオレを苦しめた。それがどうしてなのかは分からない。でもオレはマイを助けると約束したんだ。だから何か言わなくちゃ。

 ……結局オレは、何も言えなかった。言うことができなかった。――そして遠くから聞こえる電話の着信音を聞いても、オレは立ち尽くしたまま動けなかった。


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