第一部 生まれたわけ
日はもう傾きかけていてオレンジ色の世界の中立ち止まり、何かに吸い寄せられる様に空を見上げた。私は不意にとてつもない罪悪感に襲われた。
なぜ私はこの星に生まれたんだろう。
氷瀬東華は隣を歩く友人に目を向けた。
その視線に気付き、東華の唯一の友人である百瀬柚子は微笑んだ。
柚子は二ヶ月前のもう夏に入りかけているというこの時期に東華のクラスに転校してきた。
少しだけ赤みがかった髪が日の光に透ける様がとても綺麗で誰もが言葉を忘れ口を噤んだほどだった。もちろん私もそのうちの一人だ。
東華はその時の事を鮮明に思い返した。
あれは暑くて仕方の無かった六月。彼女、柚子はやって来た。綺麗な髪がスッと腰まで伸び、それはまるで彼女の存在そのものの様だった。
「百瀬柚子です。短い時間ですが仲良くして下さい。」
その声もとても澄んでいて彼女を引き立てていた。
そう、その後柚子は偶然あいていた私の隣の席に着いたのだった。
「あの、よろしく。えっと、」
「…氷瀬東華。よろしく。」
私はすぐに柚子と打ち解けた。柚子と一緒にいるのが楽しくてしかたなかった。
打ち解けてはいけなかったのに…。
誰かを羨ましく思ってはいけなかったのに…。
東華にとって柚子は憧れだった。
誰をも魅せる容姿だけではない。心のままに笑い、泣ける。そんな柚子を東華は自分と比べている。
――……普通でありたい。
東華も柚子に笑い返し、また歩き始めた。
罪人である私がまた、あの時と同じこの星にいる。
神はなぜもう一度私に生を与えた?
もう一度繰り返すかも知れないのに…。
500年前のようにまた人を殺めてしまうかも知れないのに…なぜ?