煮え切らない話
「そういう話」の続き的なのです。誰かの僅かな時間潰しにでもなれれば幸せです。
「暇ねぇ」
「暇だなぁ」
「何かやる事ないの、慎」
「やる事ったってな、あずさ。もうゲームは飽きたって言ってただろ?」
「あんたの部屋にはゲームしかない訳? それに飽きたっていうか、慎の攻め方がいやらし過ぎるのよ」
「いやいや、野球の基本はバント戦術だと思うんだ、俺は」
「度合いがあるのよ。もう愛工大名電にでも転校したら? って言いたい位にバントばっかりじゃないの」
「愛工大名電って、またそんなマニアックなネタを……。つか、たまにはバスターもするぞ?」
「そういうところがいやらしいのよ。そんなんじゃ女の子にモテないわよ?」
「いーよ別に。あずさにモテてれば」
「……あっそ」
「…………」
「…………」
「暇だなぁ」
「暇ねぇ」
「どっか出かける?」
「もう夜の十時よ? どこに行くってのよ」
「あー、コンビニとか?」
「行ってもどうしようもないでしょ。立ち読みは店員さんの神経を逆撫でするだけよ」
「流石、コンビニアルバイターは着眼点が違うな」
「それは褒めているのかしら」
「ん、どうだろ……」
「煮え切らないわね。自分の発言には自信を持ちなさいよ」
「じゃあ褒めてる。あずささんマジ店員の鑑。愛してる」
「ありがと」
「どういたしまして」
「…………」
「…………」
「暇ねぇ」
「暇だなぁ」
「最近、何か面白い事なかった?」
「うーん……ああ、アレだ。この前軽く山梨までツーリングしてたら、プロ野球のマスコットの痛車三台とすれ違った」
「へぇ、それはまたマニアックね。それ、いつの話?」
「三ヶ月前」
「三ヶ月前は最近に入るのかしら?」
「個人的には……入らないんじゃないかな」
「じゃあ私と慎が付き合ったのは?」
「八ヶ月と十八日前。あー、そう思うと随分最近に感じるなぁ」
「奇遇ね、私も最近に感じたわ。実際にはそれよりもっと前からあんたにアタックしてた訳だけど」
「いや、悪かったって。そういう話だって素で気付かなかったんだよ」
「知ってる。けど腑には落ちないわ」
「水に流してもらえると嬉しいッス」
「どうしようかしら。乙女心を焦がした責任って大分重いと思うのよね」
「あずさ、愛してる」
「知ってる」
「あずさは?」
「好きよ」
「じゃあいいだろ?」
「どういいのよ。……ま、いいけど」
「…………」
「…………」
「暇だなぁ」
「暇ねぇ」
「そういえば、さっきから思ってたんだけどさ、寒くね?」
「そうかしら?」
「ああ。エアコン、効きすぎな気がする」
「28℃よ?」
「や、それでもなんか寒いような……」
「ふーん」
「って、言いつつ何で抱きついてくる?」
「寒いんでしょ?」
「寒いけど」
「ならいいじゃない」
「あいやー、いいんだけど良くないっていうか」
「何がどう良くないのかしら?」
「それはアレだ、男の純情とかそういうの」
「ふーん」
「で、離れる気は?」
「ないけど?」
「さいですか。……まぁいいけどさ」
「…………」
「…………」
「暇ねぇ」
「暇だなぁ」
「何かしたい事ないの、慎」
「んや、特になんもないかなぁ」
「本当に?」
「なんかすごく疑わしそうな目だな……」
「んー、ムッツリスケベなあんたの事だから――」
「誰がムッツリスケベか」
「――てっきり、」
「無視ですか……」
「あのタンスの中にあるモノみたいな事をされるものだと思ってたわ」
「……何を指さしてるですか?」
「タンス。詳しく言うと、上から三番目の引き出しの奥深くの洋服じゃないモノ」
「あ、アハハ、何ヲ言うデスカ、あずさサン。タンスノ中にハ、洋服シカないデスよ?」
「ええ、アレもまぁ洋服の本とかでしょうね。何たってコスプ――」
「ストップ、いけない、それ以上はいけないです」
「じゃあ私の唇をふさいだら?」
「い、いや、そういうアレじゃなくて、だな……」
「それとも、やる事もないし、口封じにそういうの……する?」
「…………」
「…………」
「……顔、真っ赤だぞ、あずさ」
「そーいう慎こそ、心臓バクバクじゃない」
「…………」
「…………」
「……暇、だなぁ」
「……暇、ねぇ」
……それは蒸し暑く、煮え切らない夏の夜のこと。
全体的に本当に色んな意味で煮え切っていないですが、こんな(バ)カップルがいたらいいなって思います。