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幕間 非公式から公式へ

Side レオンハルト


最近。


騎士団の様子が少しおかしい。


もちろん。


士気が下がっている訳ではない。


むしろ、その逆だった。


「それでは団長!失礼します!」


「お、おい。今日は皆やけに帰るのが早いな。」


「申し訳ありません!少々用事が!」


そう言って足早に去っていく。


それも一人ではない。


毎日のように違う団員が、決まった時間になるとそわそわし始め、そそくさと帰っていくのだ。


一方で。


その日残った団員達は。


「今日はハインツか……。」


「羨ましいな。」


「俺なんてもう三回連続外れだぞ……。」


何やら小声で話している。


外れ?


何の話だ?


「……。」


団長である私だけ知らない何かがあるらしい。


それだけは分かった。



そんな日が数日続いた。


仕事を終えた帰り道。


ふと普段は通らない屋敷の裏庭側へ足を向ける。


その時だった。


♪――


微かに歌声が聞こえた。


(歌……?)


続いて。


「きゃーーー!!」


「坊ちゃまーー!!」


「最高でしたーー!!」


歓声。


拍手。


騎士団の訓練では聞くことのない熱気。


私は思わず足を止めた。


(何が起きている。)


声のする方へ静かに歩いていく。


そして。


裏庭へ足を踏み入れた瞬間。


思わず息を呑んだ。



そこには。


透き通る氷で出来た美しい舞台。


その中央で。


煌びやかな衣装を纏い、歌い踊るアルトがいた。


舞台の前には。


大勢のメイド達。


そして。


騎士団員達。


皆が目を輝かせながら、アルトへ声援を送っている。


「坊ちゃまーー!!」


「最高です!!」


「もう一曲お願いします!」


その光景だけでも十分驚きだった。


だが。


私が本当に驚いたのは。


最前列だった。


「アルトちゃーーん!!」


「今日も素敵よーー!!」


誰よりも大きな声で応援している。


セレスティアの姿があった。


「…………。」


私は言葉を失う。


(セレスティア……。)


(何をしている。)


さらに周囲を見渡す。


最近。


決まった時間になると帰っていた団員達。


今日は彼らが最前列で夢中になっていた。


(……そういうことだったのか。)


ようやく全てが繋がった。


最近の団員達の様子。


抽選。


外れ。


毎日違う顔ぶれ。


全て。


アルトの舞台だったのだ。



歌は終盤へ差しかかる。


アルトは笑顔で歌い。


笑顔で踊る。


その姿を見ていると。


不思議だった。


自然と口元が緩む。


心が軽くなる。


理由は分からない。


だが。


目が離せなかった。


やがて。


最後の一節を歌い終え。


アルトが深く頭を下げる。


「ありがとうございました!」


その瞬間だった。


「「「わぁぁぁぁーーー!!」」」


盛大な拍手と歓声が響き渡る。


その熱気に飲まれ。


気付けば。


私も叫んでいた。


「アルト!!」


「最高だーーー!!」


…………。


しまった。


辺りが静まり返る。


アルト。


メイド達。


騎士団員達。


そしてセレスティアまで。


全員が一斉にこちらを振り返った。


「父様!?」


「あなた!?」


「旦那様!?」


「団長!?」


皆の視線が集まる。


私は軽く咳払いをした。


「……すまない。」


「最近、団員達の様子が気になってな。」


「後をついて来てみれば……。」


私は会場を見回す。


歌い終えたアルト。


笑顔のメイド達。


楽しそうな騎士達。


そして。


誰よりも夢中になっていた妻。


思わず苦笑しそうになる。


「こんなに楽しいことを。」


「皆で私だけ隠していたとは。」


「父は少し悲しいぞ。」


その一言で。


会場に笑いが広がった。



アルトが申し訳なさそうに頭を下げる。


「父様。」


「すみません。」


「何だか恥ずかしくて……言い出せなくて。」


「そうか。」


私は優しく頷く。


「ですが。」


アルトは真っ直ぐ私を見上げた。


「あの。」


「僕。」


「皆を笑顔にしたいんです。」


静かな声だった。


「歌って。」


「踊って。」


「辛いことがあっても。」


「嫌なことがあっても。」


「また笑おうって思えるように。」


「そんな存在になりたいんです。」


「だから。」


「皆には秘密で練習へ付き合ってもらっていました。」


その言葉を聞いて。


私は静かに目を閉じた。


なるほど。


これが。


アルトの夢。


剣でも。


魔法でもない。


人の心を笑顔にする力。


私は再びアルトを見る。


「アルト。」


「はい。」


「これからは。」


「私にも、お前の夢を応援させてほしい。」


アルトの表情がぱっと明るくなる。


「本当ですか!?」


「ああ。」


「ルミナス大公爵家は。」


「家族の夢を応援する家だ。」


「父様……!」


「ありがとうございます!」


満面の笑みだった。


その笑顔を見て。


私も自然と笑みがこぼれた。



その日を境に。


裏庭で行われていた秘密のライブは。


正式にルミナス大公爵家公認となった。


観客も増えたため。


会場は裏庭から、より広い中庭へ変更。


氷の舞台もさらに大きくなった。


それでも。


ライブの抽選倍率は以前よりさらに高くなった。


そしてライブ当日。


最前列には必ず。


「アルトちゃーーん!!」


「今日も最高よーー!!」


「頑張れ、アルト!」


レオンハルトとセレスティア。


ルミナス大公爵夫妻の姿がある。


その声に負けじと。


「坊ちゃまーー!!」


「最高でしたーー!!」


「アルト様ーー!!」


「団長には負けませんよ!!」


メイド達も。


騎士達も。


屋敷中が一つになって歓声を送る。


その光景を見渡しながら。


アルトは今日も満面の笑みで歌う。


世界初のアイドル。


その最初のファンは。


誰よりもアルトを愛する。


ルミナス大公爵家の人々だった。

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