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第26話 ライブ魔法

この一年。


俺は密かに、とある魔法の研究を続けていた。


何度失敗したか分からない。


それでも諦めなかった。


今日こそ。


今日こそ完成させる。


世界初の魔法を。


「――凍てつくマイクよ。」


「――凍てつくスピーカーよ。」


魔力が形を成していく。


現れたのは。


透き通る氷で作られた一本のマイク。


そして二つのスピーカーだった。


美しい。


まるで芸術品だ。


だが。


「これだけじゃ駄目なんだ。」


ただの氷像。


本物のライブにはならない。


何度もここまでは成功した。


問題は、この先だった。


俺はゆっくり目を閉じる。


光属性。


異世界では。


光は照らすもの。


それだけの認識だ。


だけど。


俺は知っている。


前世では。


光は情報を伝える。


映像も。


音も。


想いさえも。


ならば。


魔法だって。


出来るはずだ。


「光よ。」


「奏でろ。」


静かにスピーカーへ手を向ける。


大切なのは。


イメージ。


マイクとは何か。


スピーカーとは何か。


形ではない。


役割だ。


十五年間。


何百回とライブへ通い続けた。


俺の憧れ。


俺の人生を変えてくれた存在。


ミリリン。


あの笑顔。


あの歌声。


あの景色。


観客の歓声。


全てを思い浮かべる。


「届け……!」


その瞬間だった。


――ズッ。


氷のスピーカーから小さな音が漏れた。


「!」


ズ……


ズズ……


ズズズ……


最初は微かなノイズ。


しかし。


徐々に。


音が意味を持ち始める。


そして。


『♪』


「……あ。」


思わず涙が零れた。


このイントロ。


忘れるはずがない。


ミリリン。


ファーストシングル。


『君のハートをズッキュンばっきゅん』


俺が初めて参加したライブ。


一曲目だ。


ブラック企業で心も体も擦り切れていたあの日。


小さなライブハウスの前で。


必死にチケットを手売りし、お客さんを呼び込んでいたミリリン。


その一生懸命な姿に。


何故だろう。


強く心を惹かれた。


気付けばチケットを買っていた。


そして。


そのままライブハウスへ足を運んだ。


そこで見た景色は。


今でも忘れられない。


灰色だった世界が。


一瞬で色付いた。


俺の人生は。


あの日。


確かに変わった。


文字通り。


ハートをズッキュンばっきゅんされたのだ。


「ぐすっ……。」


駄目だ。


泣いてばかりじゃいられない。


スピーカーは成功した。


なら。


次は。


マイクだ。


「光よ。」


「届け。」


今度はマイクへ魔力を流す。


スピーカーから流れる曲は。


ちょうどサビへ入る。


俺はマイクを握り締めた。


そして。


歌う。


「君のハートをズッキュンばっきゅん♪」


次の瞬間。


自分の歌声が。


氷のスピーカーから響いた。


成功だ。


マイクも。


スピーカーも。


ちゃんと役目を果たしている。


「やった!」


嬉しさのあまり。


そのまま一曲歌い切ってしまう。


夢中だった。


異世界で初めて。


ライブをした。


曲が終わる。


「ふぅ……。」


満足して振り返る。


「…………。」


そこには。


屋敷のメイド達がずらりと並び。


優しい笑顔で拍手を送っていた。


「坊ちゃま。」


「とっても素敵でした。」


「凄く元気をいただきました。」


「もう一曲お願いしてもよろしいでしょうか?」


「…………。」


は、恥ずかしい!


穴があったら入りたい。


だが。


その笑顔を見て。


俺は少しだけ嬉しかった。


これが。


俺の初めての観客。


そして。


世界で最初のファン。


後にライブ魔法の最初の理解者となる人達だった。


こうして。


氷属性と光属性を組み合わせた。


世界初の複合魔法が完成した。


観客へ歌と想いを届ける魔法。


その名は――


『ライブ魔法』


後に世界を救うことになる。


始まりの魔法である。

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