表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/30

第18話 本だけでは学べない

翌日からも基本的に生活の流れは変わらなかった。


朝は父様達との剣術訓練。


午後は母様に代わり、グランお祖父様との魔法訓練。


そんな日々が続いていた。


どうやらお祖父様は一ヶ月ほど屋敷へ滞在し、俺に魔法を教えてくれるらしい。


ありがたい話だ。


そして――


今日は少し様子が違った。


「アルトよ」


「今日は山へ行くぞ」


「山ですか?」


「うむ!」


お祖父様は楽しそうに頷いた。


訓練場ではなく。


屋敷近くの山へ向かうらしい。


何気に。


俺が屋敷の外へ出るのは初めてだった。


出発前。


母様は大変だった。


「お父様、本当に大丈夫ですか?」


「分かっとる」


「お弁当は持ちましたか?」


「持った」


「水筒は?」


「持った」


「着替えは?」


「持った」


「アルトちゃんが転んだ時の薬は?」


「持った」


「迷子になったら――」


「ならん!」


お祖父様が叫んだ。


結局。


出発するまで何度も荷物確認が行われた。


地球でも異世界でも。


母親という生き物は変わらないらしい。


そして。


ようやく出発した。


「わぁ……」


思わず声が漏れる。


屋敷の外には初めて見る景色が広がっていた。


見慣れた木々もある。


だが。


中には妙に葉が光る植物や、


見たことのない色の花も混ざっていた。


鳥のような鳴き声も聞こえる。


しかし姿は見えない。


前世の知識と一致するものもあれば、


まるで異世界らしいものもある。


思わず辺りをきょろきょろ見回してしまう。


そんな俺を見て。


お祖父様は楽しそうに笑った。


「わっはっはっは!」


「良い反応じゃのう」


「はい!」


「全部珍しくて!」


「うむ」


お祖父様は満足そうに頷く。


そして少し真面目な顔になった。


「アルトよ」


「魔法を学ぶのも大切じゃ」


「はい」


「じゃがな」


「こうして世界を知ることも同じくらい大切なんじゃ」


周囲の景色を見渡す。


山。


木々。


花。


空。


風。


鳥の声。


「魔法はイメージじゃ」


「知っている物が多いほど想像は広がる」


「見たことの無い物は想像できん」


なるほど。


確かにそうかもしれない。


俺は思わず頷いた。


するとお祖父様は一本の花を指差した。


「見てみるがよい」


そこには青白く淡い光を放つ花が咲いていた。


「綺麗ですね」


「氷月花じゃ」


「氷属性の魔力を好む花として有名での」


お祖父様は慎重に花を摘み取り、俺へ手渡してくれる。


花びらはひんやりとしていた。


まるで冷たいガラス細工のようだ。


「覚えておくと良い」


「魔法使いは本だけでは育たん」


「実際に見て」


「触れて」


「知ることが大切なんじゃ」


俺は手の中の花を見る。


前世なら図鑑やネットで調べれば終わりだった。


だが。


この世界では違う。


実際に見て。


感じて。


経験する。


それが魔法に繋がるのだろう。


少しだけ。


魔法使いというものが分かった気がした。


だが。


次の瞬間。


お祖父様は豪快に笑った。


「まあ!」


「今日はそんな難しい話はどうでも良い!」


「え?」


「いつも頑張っておるアルトへのご褒美じゃ!」


杖を掲げる。


「今日は山でのんびりするぞ!」


「特訓はどうしたんですか?」


「これも立派な特訓じゃ」


「世界を見るのも魔法使いの務めじゃからな!」


「わっはっはっは!」


ちょっと感心したのに。


台無しだった。


だが。


俺は少しだけ笑ってしまう。


結局。


この人はそういう人なのだ。


豪快で。


自由で。


孫に甘い。


けれど。


俺のことをよく見てくれている。


だからこそ。


こうして息抜きの時間を作ってくれたのだろう。


「ありがとうございます」


「うむ!」


「ではまず弁当じゃな!」


「山へ来たらまず飯じゃ!」


「まだ着いたばかりですよ!?」


「わっはっはっは!」


山には俺達の笑い声が響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ