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小説なんて、消えてなくなれ  作者: 綾高 礼
第四章「星と嵐の夜」

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A幕


(夕暮れの川辺にて。中学生になったその者と空緒飛華が談笑している)


 空緒「ねぇ、何を聴いてるの?」

 その者「ラフマニノフの3番。一緒に聴く?」


 空緒「あぁ、この協奏曲コンチェルト。私も好きだわ」

 その者「ベタかもしれないけど良いよね、ラフマニノフ」


 空緒「そういえばこの前、×の作品にも音楽家の名前がよく出てきてたよね?」

 その者「うん。たまたまね」


 空緒「『音楽は心で生まれ、心に届かなければ意味がない』。これって作中に出てきた言葉だけど、もしかして誰かの引用なの?」

 その者「そうだよ」


 空緒「私、この言葉がすごく好きになった。特に音楽は心で生まれっていうのが小説に通づるものを感じて好き」

 その者「やっぱり飛華は私に少し似ているね」


 空緒「似ている?」

 その者「感性がね。そうだ、今度うちの近くのホールでドイツの巨匠がラフマニノフのコンサートに来るんだけど一緒に行かない?」


 空緒「うそ、3番?」

 その者「2番だけどね」


 空緒「行くわ。それまでに×の小説また読み返す」

 その者「また? いい加減読みすぎだよ」


 空緒「いいじゃない。私は×が書いた小説が大好きなんだもの」

 その者「本当はね、あの作品のこと、親はあんまり良く思ってないんだ」


 空緒「えっ? どういう意味?」

 その者「そのままだよ。親はもっと売れる作品を私に書いて欲しいんだって」


 空緒「売れるわよ。きっと。まだ発売したばかりじゃない。だってほら、私なんて三冊も買ったのよ。今月のお小遣い殆どなくなったんだから」

 その者「フフ、ありがと。私も飛華の作品すっごく面白かった。実を言うとさ、私も飛華の小説三冊も買ったんだ」


 空緒「本当に? ううん、でもお世辞はやめて。私の作品の欠点は私が一番理解しているから」

 その者「ほんとだってば! 私、小説のことなら嘘つかないもん」


 空緒「本当に?」

 その者「ほんとにほんとだよ! 別に私、無理してお世辞なんか言わないんだけどなぁ」


 空緒「本当かしら……わかった。でもありがとう。×にそう言われるとすごく、その、嬉しいわ」

 その者「なに、飛華、照れてる?」


 空緒「照れてない!」

 その者「嘘だ、顔が真っ赤だよ! 飛華はやっぱまだ可愛い子供だなぁ。よしよし、×お姉さんの膝枕においで」


 空緒「やっ、やめてよ、引っ張らないで……もう」

 その者「ほら、そういいながらもちゃんと私の膝枕にいる」


 空緒「…………」

 その者「やっぱり飛華は、まだまだ子供だなぁ」


 空緒「それ以上いったら投げるから」

 その者「ごめんごめん。柔道は禁止」


 空緒「×の馬鹿……ばか」

 その者「うわぁ。夕日が綺麗だね」


 空緒「うん、あの、ね、×。少し、聞いてくれる」

 その者「なに? 告白?」


 空緒「ば、馬鹿じゃないの!?」

 その者「痛い、痛い、そこ、つねるのなしだから!」


 空緒「もう、次私のことからかったら投げて帰るから」

 その者「はいはい、ごめんってば、で、どうしたの?」


 空緒「私ね、中学卒業したら千集院に行こうと思うの」

 その者「千集院って、あの千集院創作なんちゃらってとこ?」


 空緒「そう。もう一度、ちゃんと小説の鍛錬を積もうと思ってるの」

 その者「えっ、でも飛華はもうプロなんだし、次の作品書いて」


 空緒「ううん、駄目だった。まだ発売して二週間だけど、さっき編集さんから次回作は厳しいって」

 その者「……そっか。もう決めたってことなんだよね」


 空緒「うん……私、もっとすごい小説が書けるようになりたい。×みたいな、人の心を鷲掴み出来るような小説が書きたいの」

 その者「〇〇はもう十分書けてるよ。だから佳作とれたんだし」


 空緒「違うの。まだ私の中での《《本当の小説》》は書けていない」

 その者「本当の小説?」


 空緒「そう、本当の小説。笑ってしまうわよね。×の言う通り私は、まだ子供なのかしら」

 その者「いいと思う。私、好きだよ、そういうの。本当の小説。いつか書いてみてよ。未来の文豪さん」


 空緒「よしてよ。でもね、本当の小説なんて、子供の幻想みたいなことを考えだしのたは、×の小説を読んでからなの」

 その者「私の?」


 空緒「自分でもよくわからないの。でも×の小説を読んでいるとき、書き手として何か問われた気がしたの。ごめんなさい。あまりにも抽象的すぎて自分でも呆れるくらい」

 その者「実はさ。私も自分の小説が書きたくて前の作品を書いたんだ。だからもしかしたらそれが奇跡的に、飛華の何かに引っ掛かったのかもしれない」


 空緒「そう」

 その者「きっとそうだよ。飛華の直感は、案外馬鹿には出来ないからね。もしさ、飛華が本当の小説が書けたときは、私からご褒美をあげるよ」


 飛華「ご褒美?」

 その者「なんだと思う?」


 飛華「誰かの全集とか? 私ね、最近谷崎にハマってるのよ」

 その者「もう、そんなのつまらないよ。キスとかじゃないと、ね」


 飛華「…………キス?」

 その者「うん。しちゃう?」


 飛華「キキキッス!?」

 その者「うわ!? どこいくの飛華! おーい!」


 飛華「馬鹿馬鹿。もう知らないっ!」

 その者「ちょっと待ってよ! 冗談だってば! おーい! ラフマニノフは!? 行くんだよねえ?」


 その者「(その時はさ、私も本当の小説、書いてみせるよ)」

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