表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民の身分ながら、ひねくれ者の第三王子様により生徒会の書記に任じられましたので、学園都市の謎を解いております。【貴族学園の不文律】  作者: ヤマモトユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/22

ある日の貴族学園生徒会役員達の、朝起きてから夜眠るまで(3)


 オディロンの朝は早い。


「起きなされ、殿下! 起きなされ!」


 じい(・・)に叩き起こされるからだ。

 長年――というかオディロンが生まれてからずっと――専属の執事を務める老爺なのだが、それゆえにオディロンにも遠慮がない。

 親である国王、女王はその役職ゆえに多忙であり、物心ついてからは月に二度会えれば多い方……、という関係だったため、親代わりと呼んで差し支えない。


 ……なので、学園都市に来る際、侍従に指定しなかった。()の目から離れたいという、青少年らしい理由で。当然、聞き入れられなかったが。

 そのじい(・・)が、カーテンを開け、容赦なく毛布をはぎ取り、オディロンの顔面に朝日を浴びせてくる。


「稽古の時間ですぞ! さあ、起きなされ!」

「……いいんじゃないかな、別に、剣術の稽古なんて……」


 もそもそと蓑虫のように手足を丸める。


「そうはいきますまい。武術に秀でた兄殿下(・・・)のように、とまでは申しませんが、せめて細剣(レイピア)くらいは使えませんと、王家の男児として示しがつきますまい」

「でも二番目の兄さんは()より剣が下手じゃないか……」

「そちらの兄殿下(・・・)は弁が立ち、数理の才があり、芸術にも通じております。が、オディロン殿下には文武どちらの才もございません。他人の心を見抜き動かす才……政治力についても、お二人の姉殿下には遠く及びませんし」

「はっきり言うなぁ、じいは」

「侍従であるからこそ、はっきり言わねばなりません。しかし、どちらもないからこそ、どちらもほどほどにこなし――」

「――出来ぬ者の気持ちがわかる王になれる、でしょ? 耳にタコができるくらい聞いたよ、それ」


 オディロンは目をつむったまま嘆息した。


「俺は王になんかならないし、なれないよ。優秀な兄弟が上に四人もいるんだぞ? じゃあ、がんばる必要なんかないよ……」

「はっはっは! ならば、全て取られてしまうでしょうな。そも、貴族の起源(ルーツ)は、暴力と知略を尽くした末に、権威を得ただけの蛮族。王族はその親玉、つまり一番の蛮族なのです」

「たまにとんでもないこと言うよな、じいは……」

「事実です。その中で、殿下は奪うことを良しとしない。それはすばらしいことですとも。ですが、守る力を持たないと、奪われますぞ。地位も名誉も……()も。それが優秀な部下であれ、親しい女性であれ、根こそぎ」


 オディロンは上体を起こして、すまし顔のじいを軽く睨みつけた。


「おはよう、じい」

「おはようございます、殿下。で、今日の稽古はどうなさいますかな」

「……やる」


 オディロンはベッドから抜け出して、壁にかけた振り子時計を見る。上物だが、落ち着いたデザインのもの。人前ではきらびやかなものを身につけるオディロンだが、寝室の調度はすべて、質素で堅実なデザインのもので揃えていた。


 オディロンの着替えを手伝いながら、じいは思う。

 無意識の好みで、本人が気づいているかどうかはわからないが――。

 人前では着飾った方が落ち着くが、寝室には持ち込まない……、というオディロンの性質は、この美しい王子のことを端的に示していると。


 オディロンにとって、美しさは身を守る武器なのだ。

 敵のいない寝室に持ち込む必要はない。

 齢十六にしてこのひねくれよう。まったく、おいたわしいことである。


「ま、だからといって、甘くはなりませんがの」

「……じい? いま、何か言ったか?」

「いえ、何も」


 ●


 時刻は六時半。

 オディロンは屋敷の庭に出た。

 本校舎の時計塔、その裏側がよく見える。


 貴族学園と学園都市は、シエール王家が主体となって運営している。

 学園の敷地、中庭の一角を塀で囲い、王家のための屋敷を建ててあり、オディロンはそこに住んでいた。

 少々古い建物ではあるが、賓客をもてなすこともあるため、相応に立派な造りであり、庭も広い。


 つまり、貴族学園の庭の中にある屋敷の中にある庭で、オディロンは木製の細剣を構えた。対面には剣術師範でもあるじいが立っている。


「お手柔らかに頼むよ、じい」

「私はいつも優しいでしょうに」


 そして、十五分のうちに六度、木製の細剣を弾き飛ばされ、喉元に切っ先を突きつけられた。

 全然優しくない。


 剣術稽古でかいた汗を流して身支度を整え、たっぷりの生野菜にゆで卵、白パンと新鮮なバターという、王族らしい豪勢な朝食も終えたら、通学の時間だ。

 オディロンは学園本校舎へと向かう。馬車も用意されているが、この距離で馬車というのも馬鹿らしくて、いつも歩いている。


 すれ違う学園付きのメイドや衛兵が、うやうやしく頭を下げてくるので、軽く手を振って微笑み、「おはよう」と声をかけておく。

 メイドでも衛兵でも、丁寧に接するのがオディロンの流儀だ。


 ……なんせ、彼らは貴族学園に雇われる労働者だ。

 オディロンは雇用主の代表格としてみられている。めったなことをすれば、すぐに不平不満が爆発し、貴族学園の運営に支障を来すだろう。

 ただでさえ、生徒会役員を揃えていないという、運営上の大問題を抱えているのである。これ以上の問題は避けたい。……役員を任命していないのはオディロンなので、自業自得だが。


 また、貴族学園の運営費用は、シエール王家の持ち出しよりも、貴族子女の入学金や、貴族や商人たちからの多額の寄付金に頼る部分が、はるかに大きい。運営費用も、それで雇う人々も、貴重だ。無駄にはできない。


 シエール王家ならば、市中のもっと豪華な屋敷に住むこともできるが――事実、双子の姉姫達はそうしていたが――オディロンは、学園内の屋敷を選んだ。

 節約は、できるだけしておいたほうがいい。……あと、朝ゆっくりできるし。


 のんびり歩いて本校舎に辿り着く。

 懐中時計で時間を確認すると、時刻は八時半。授業の開始まであと三十分はある。まっすぐ生徒会へ向かって、鍵を取り出すそぶりもなく、ドアノブをひねる。

 開いた。つまり、今日も朝から仕事をしているらしい。

 オディロンは、にっこりと笑った。


「おはよう、ミネット! どうだい、調子は」



・ブクマ

・感想

・下の☆☆☆☆☆で評価

・レビュー


等々をいただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ