ある平民が、貴族学園の編入試験で不正を行った理由。(7/8)
全てが終わり――つまり、ヤニックが自白し、衛兵に連行され、また試験に関する諸々の再検査も行われ――オディロンは、伸びをした。
本校舎を出て空を見上げる。まだ明るい。受験生の数がそう多くなかったから、思っていたよりも早く終わった。
オディロンは、自覚的に『自分が一番美しく魅惑的に見える笑顔』を浮かべて、ミネットに振り返った。
「さて、ミネット嬢。せっかくだし、これから――待て。どこへ行こうとしているんだい?」
が、ミネットは足早に去ろうとしていた。
しかも、こちらの微笑みをちらりと見た上で、顔色一つ変えずに。
「学生部でございます。幸いにも入学させていただけますので、諸々の手続きをいたしませんと」
「手続きなら、あとでも良いんじゃないかな」
オディロンが、すっとミネットの手を取った。
「改めて、ご挨拶を。マドモアゼル・ミネット。私はオディロン・シエール。西方王国第三王子で、次期生徒会長だ。君のおかげで、大変な不正を防ぐことが出来た。ありがとう。学園を代表して感謝するよ」
微笑みを浮かべ、指に口づけを落とす。
こいつは良い手駒になる、という確信があった。手懐けておきたい。そして、女性を良いように扱うのは、オディロンの得意技だ。
ちょっと笑いかけて、触れて、甘い言葉の一つ二つ――「私は君を頼りにしているよ」とか――囁けば、あとは勝手に都合よく動いてくれる。
「どうだろう、これから私と紅茶でも。学園の内庭を眺められるテラスがあるんだ、きっとミネットも気に入ると――」
だが。しかし。
ミネットは、オディロンが出会ったことのない女性で。
そして、かなりの変わり者であった。
「はぁ」
ミネットが発したのは、そんな気のない相槌だけ。
「そうでございますか。では、小生もご挨拶を。名はミネット、姓はございません。平民でございます。それと、紅茶は結構でございます」
「……ん? あ、あれ……?」
爽やかな笑顔のまま、オディロンは固まった。
掴んでいた手がするりと抜けて、ミネットは一礼した。
「では、小生はこれにて。学生部は安い下宿を紹介してくださいますでしょうか。思ったよりも時間がかかってしまいましたね……」
「え、あ……ちょ、ちょっと……?」
ミネットは足早に歩き去って行った。
オディロンは、目を丸くして、その背中を見つめた。
ややあって復活したオディロンは、何故か感動していた。
「……はー。ああいう奴もいるんだな」
それから、ふと、まだ小脇に抱えていた資料の存在を思い出した。
ぱらぱらと捲って、候補者の名前を流し読みして、
「うん。これはもういらないな」
そう呟き、ぐるりと丸めてポケットに突っ込んだ。
小走りでミネットに追いつき、その背中に声をかける。
「ちょっと待ってくれって、なあ。ミネット、私の――俺の話を聞いてくれ。さっき、ジルベール先生が言っていただろう? 貴族学園には、守らなければいけない、いろんな不文律があるんだ。その中にはな、こんな不文律もあるんだ。曰く、“生徒会書記は――」
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