ある平民が、貴族学園の編入試験で不正を行った理由。(6/8)
『生徒会書記は当代で最も賢き者が務めるべし』
信じて金を積むには、いささかカビの生えた古くさい不文律だ。とはいえ、商家の子息が生徒会に入れば、どれだけの利益を生むだろうか。
だって、生徒会は学園都市全体の運営にも関わるのだから――関連する出入りの業者が、全てトランティニャン商会を通して契約することになるだけでも、相当な額のマージンを得られるだろう。
オディロンは、机に座ったままの平民を見た。
「ミネット。推測の続きを言ってくれ」
「では、僭越ながら。……採点時、模範解答例の不備に気づいた試験官様は、さぞお焦りになられたことでしょう。不備を正せば『全問正解できたほうがおかしい』ため、不正と癒着が露見してしまいかねません。もっとも、こんなもの見なかったことに出来たはずでございます。……出来たはずでございました」
それが出来なかったのは、ミネットがいたからだ。
「小生が、その模範解答例の不備によって、次席合格になってしまうこと。これが問題だったのでございます。もし小生が答案用紙を見直せば『正解のはずの問題が不正解になっている』と気づいてしまうでしょう。そうなると、大変まずいこととなります。トランティニャン商会のご子息様が、本来であれば、あり得ない解答をしていた――不正を行っていたと判明してしまうのでございます」
ゆえに、とミネットは言葉を繋いだ。
「試験官様は、小生を排除しなければならなくなったのでございます。それも、検算が行われないように、小生自らが不正を認め、去って行くような形でなければならなかった。だから強い言葉で尋問し、認めるように迫ったのでございます。――いえ、もはや迫るしか無かった。そうではございませんか、試験官様」
ヤニックは、脂汗まみれの顔を歪め、怒りと焦りで体を震わせながら、何かを言おうと試みた。
だが、喉の奥から捻り出した声は、
「この……ッ、薄汚い野良猫がァ……!」
という、何の打開策にもならない、罵声だけだった。
それはもはや、自白に等しい。
……オディロンは嘆息した。
「……ジルベール先生。今日の試験問題、全問題の精査と、模範解答例の作り直しをしてください。それから、全受験生の採点のやり直しを。今すぐに」
事態の変化に目を白黒させていたジルベールが、はっと居住まいを正した。
「は、はい! 承知いたしました!」
ジルベールが出て行った後、オディロンは「さて」と呟いた。
小部屋に残されたのは、十分に事件を楽しんだオディロンと、微動だにしないミネットと、そして小刻みに震える哀れな犯人だけだ。
「わ、我が輩は………不正など……」
オディロンは、ぐい、と顔をヤニックに近づけて、笑った。
「ここまで見透かされて、まだ白を切るつもりですか。――いい加減に認めたらどうです? 不正をしたんでしょう? 自白するまで、終わりませんよ?」
●
カロルは、ほう、と吐息を漏らした。
「それで……ミネット書記は、無事に首席合格を成し遂げた、と。では、カンニングを行ったトランティニャン商会の子息と、ヤニック先生――ではありませんね。ヤニック氏は、どうなりましたの?」
「子息は不合格、ヤニックは解雇。学園都市から追放されて、今はどこにいるともわからない」
オディロンはくすくす笑った。
「この時、俺はもうミネットを気に入っていた。俺を利用しようとする人間はごまんといるが、大抵、それを悟らせないよう、愛想笑いを浮かべてお為ごかしを口にするものだ。だが、ミネットは違った」
あの瞳は、ただ、オディロンに果たせと言っていた。
権力を持つ者の義務を果たせ、と。
「そして、彼女は俺にそれ以上を求めなかった。それ以上は、何も」
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