ある平民が、貴族学園の編入試験で不正を行った理由。(5/8)
カロルは首をひねった。
「え、ええと……ややこしいですわね。つまり、こうですのね? 算学の最後の大問で……」
整理してみる。
一つ目の問いの答えは、二つ目、三つ目の問いに答えるために必要な鍵。
○→○→○ならば、不自然はない。
○→×→×や、○→○→×もまた、不自然はない。
だが、×→○→○は、あり得ない。
「……オディロン様。それでは、これは」
問いかけると、オディロンは頷いた。
「ああ、そうだ。カンニングをしたのは、ミネットじゃなかったんだ」
●
つぎはぎだらけのワンピースを着たミネットは、淡々と言った。
「試験官様は、用意して置いた模範解答例を用いて採点をしていたのでしょう。当然でございます。試験問題を作るということは、答えを作るということ。しかし、その模範解答例に不備があった――試験官様は、算学の最後の大問、その一問目の模範解答例だけ、何かの不手際で違う数字にしてしまっていたのです」
そして、その不備を隠すために、ミネットを呼びつけて怒鳴っていた……。
いや。オディロンは首を傾げた。
「……わからないな。もしそうだとしても、模範解答例を修正して採点し直せば済む。ヤニック先生が、わざわざきみを呼びつけた理由がわからない」
「そ、そうだ! 我が輩がそんなことをして、どんな利があるというのだ!」
「金銭でございましょう」
ミネットが、じっとオディロンを見た。
「小生が正解していたのであれば、自ずと、他の方の点数も変わってまいります。特に、全問正解されたというお方は、全問正解では無く、一問だけ間違いという結果になるはずでございます」
黒い瞳孔に、吸い込まれそうになる。――オディロンは息を呑んだ。
「……そうか! そういうことか!」
目を見開く。
「仮に、ミネットの答案が正解だったとすれば、満点合格の受験者は――トランティニャン商会の子息だったか? は、算学の最後の大問の一つ目の問いだけをミスした、ということになる! 一つ目の問いだけを間違えて――」
「――二つ目と三つ目の問いを正解していた、ということになるのでございます。そう、一つ目を間違えれば、答えることが出来なくなるはずの、二つ目と三つ目の問いを、でございます」
そこでようやく、ミネットがヤニックを見た。
脂汗まみれで黙りこくる、大柄な男性。太った体を、仕立てのよい服に押し込んだ、貴族――。
「小生が愚考するに……全問正解されたトランティニャン商会のご子息様は、事前に模範解答例を手に入れ、丸暗記されていたのではございませんでしょうか。しかし、その模範解答例にも不備があり、一つ目の問いの答えを間違えてしまったため、小生の方を間違えたことにしてしまおう……と、行動したのでございましょう」
オディロンが冷たい視線をヤニックに投げかけた。
「今回の試験を作問したのはヤニック先生だと聞きました。つまり――トランティニャン商会の子息に、事前に、模範解答例を渡していたのですね?」
「で、でたらめです、殿下!」
そこでようやく、ヤニックが口を開いた。
「てきとうなことを言って、我が輩らを煙に巻こうとしているのです! だいたい、合格するだけであれば、家庭教師をつけて勉強すれば合格点に届き得る試験でございますぞ!? 満点を取るために買収など、する意味が……!」
ジルベールが顎に手を当てた。
「……確かに。トランティニャン商会となれば、家庭教師を五人でも十人でも雇えるでしょうな」
「そこに関しては、小生の推測はございません。どうしても満点を取りたい理由があったのでございましょう、とは思いますが」
どうしても満点を取りたい理由……。ジルベールが、はっと気づいた。
「殿下! 不文律です! 満点合格となれば、役員人事に――書記の候補として、確実に名前が挙がります……!」
「――なるほど」
オディロンは、小脇に抱えていた書類を、ちらりと見た。
「誰も彼も、王家との繋がりを作りたくて必死――というわけか」
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