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平民の身分ながら、ひねくれ者の第三王子様により生徒会の書記に任じられましたので、学園都市の謎を解いております。【貴族学園の不文律】  作者: ヤマモトユウ


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15/25

ある平民が、貴族学園の編入試験で不正を行った理由。(4/8)


 ヤニックは、にんまりと笑った。


「ほほう! 自白するのだな? 自らが不正を行ったと!」


 ミネットは表情をぴくり(・・・)とも動かさず、オディロンを見た。


「いいえ。たったいま申し上げましたとおり、不正を行ったのは、小生ではございません」


 もはや、ヤニックのことは眼中にないようだった。

 オディロンは、思わず笑ってしまった。つまりこれは、上告だ。この中で、圧倒的に地位の高いオディロンに、義務を果たせと要求しているのだ。

 なんとも不遜なことに、この平民はオディロンに『ここではお前が一番偉いのだから、お前が不正を取り締まれ』と言っているのだ。


「へえ。では、自分以外の誰かが不正を行ったと言うんだな? 大した度胸だ。なぜそう思う?」

「僭越ながら、この尋問には不可解なことが二点ございました」


 ヤニックが机を叩く。


「黙れ! 不敬であるぞ、平民風情が!」

「ヤニック先生、待ってください。面白そうだ。聞いてみようじゃないですか」

「殿下!? しかしですな――」


 オディロンは、ただヤニックを見て、微笑んだ。ヤニックが短く息を呑む。


「……さて。平民――ミネットと言ったな? 不可解な点とは何だ?」

「まず、一点。小生はカンニングをしたと言われておりますが、カンニングには他人の答案を盗み見るものと、隠し持った答えを盗み見るものがございます。今回、小生が疑われているのは前者。であれば、小生とまったく同じ解答をした受験者、あるいは全問正解した受験者がいたはずでございますが……全問正解者がいたのではございませんか?」


 頷くと、ミネットは言葉を続けた。


「しかし、もしも、小生がその方の解答を盗み見たのであれば、小生も満点になるはずでございましょう。これが一つ目の不可解でございます」

「一問、写し損ねただけと考えるのが自然だけれど、まあいいだろう。二点目はなんだい?」

「二点目の不可解は、試験官様が『小生が一問、間違っていた』とは教えてくださらなかったことでございます。ただ『不正を認めろ』と恫喝なさるばかりで、詳細を聞いても教えてくださいませんでした」


 オディロンはニヤニヤ笑ってヤニックを見た。


「したんですか、恫喝」

「す、少し大きな声が出ただけです!」

「不正の内容を伝えなかったのは?」

「つ、伝える必要がないからですぞ! 余計な情報は、付け入る隙となりましょう。こういう話の通じん平民は、すぐに調子に乗るものですからな!」

「そうですか? 私には、話が通じない相手だとは思えないですけどねぇ」


 面白い。すでにオディロンはそう思い始めていた。

 すっかり生徒会役員に関する悩みなんて忘れて、この事件がどのように落着するのか、この怪しい平民がどんな弄言を発するのか、それだけが気になってしまっていた。


「どうだろう、ミネット。きみの間違えた問題、教えてあげようか。ヤニック先生、答案を――」

「すでに予測が付いております。小生が間違えたという、その問題でございますが――算学の最後の大問、その一つ目の問いでございませんか?」


 ヤニックがびくりと震えた。


「ヤニック先生、そうなんですか?」

「……そう、です。はい……」


 ジルベールがぽんと手を打った。


「ははぁ。だからですな、ヤニック先生。この受験生が不正をしたと確信なさっていたのは。算学の最後の大問は、一つ目の問いで正しい値を導き出せなければ、二つ目、三つ目の問いには正解できない仕組み! それが一つ目だけ間違っていたのであれば、間違いなく不正――」

「待ってください、ジルベール先生」


 オディロンは眉を寄せて、悩ましい顔で問いかけた。


「……ジルベール先生は、その問題で間違えていたと、聞かされていなかったんですね? その答案は明らかに不自然です。不正を疑われても仕方がない」

「え? ああ、はい。そうだ、その解答は不自然過ぎますな。自白なんてさせずとも、不正の証拠と――」


 ジルベールが固まる。


「……ヤニック先生。なぜ、明らかな証拠があるにも関わらず、こんな恫喝まがいの尋問をなさったのです……?」


 そうだ。解けるはずのない問題が解けているならば、それはすでに不正の証拠と言っていい。


「もっと言えば、算学の問題なのですから、もう一度解答させ、ついでに解説でもさせれば、不正かどうかはすぐにわかるはずです。ですよね、ヤニック先生」


 尋問で自白させるだなんて、非効率にもほどがある。

 ヤニックは顔中に冷や汗を浮かべながら、黙り込んでしまった。


「導かれる解は一つでございます」


 淡々と、ミネットは口を開いた。


「小生の答えは、間違っていなかったのでございましょう」



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