ある平民が、貴族学園の編入試験で不正を行った理由。(4/8)
ヤニックは、にんまりと笑った。
「ほほう! 自白するのだな? 自らが不正を行ったと!」
ミネットは表情をぴくりとも動かさず、オディロンを見た。
「いいえ。たったいま申し上げましたとおり、不正を行ったのは、小生ではございません」
もはや、ヤニックのことは眼中にないようだった。
オディロンは、思わず笑ってしまった。つまりこれは、上告だ。この中で、圧倒的に地位の高いオディロンに、義務を果たせと要求しているのだ。
なんとも不遜なことに、この平民はオディロンに『ここではお前が一番偉いのだから、お前が不正を取り締まれ』と言っているのだ。
「へえ。では、自分以外の誰かが不正を行ったと言うんだな? 大した度胸だ。なぜそう思う?」
「僭越ながら、この尋問には不可解なことが二点ございました」
ヤニックが机を叩く。
「黙れ! 不敬であるぞ、平民風情が!」
「ヤニック先生、待ってください。面白そうだ。聞いてみようじゃないですか」
「殿下!? しかしですな――」
オディロンは、ただヤニックを見て、微笑んだ。ヤニックが短く息を呑む。
「……さて。平民――ミネットと言ったな? 不可解な点とは何だ?」
「まず、一点。小生はカンニングをしたと言われておりますが、カンニングには他人の答案を盗み見るものと、隠し持った答えを盗み見るものがございます。今回、小生が疑われているのは前者。であれば、小生とまったく同じ解答をした受験者、あるいは全問正解した受験者がいたはずでございますが……全問正解者がいたのではございませんか?」
頷くと、ミネットは言葉を続けた。
「しかし、もしも、小生がその方の解答を盗み見たのであれば、小生も満点になるはずでございましょう。これが一つ目の不可解でございます」
「一問、写し損ねただけと考えるのが自然だけれど、まあいいだろう。二点目はなんだい?」
「二点目の不可解は、試験官様が『小生が一問、間違っていた』とは教えてくださらなかったことでございます。ただ『不正を認めろ』と恫喝なさるばかりで、詳細を聞いても教えてくださいませんでした」
オディロンはニヤニヤ笑ってヤニックを見た。
「したんですか、恫喝」
「す、少し大きな声が出ただけです!」
「不正の内容を伝えなかったのは?」
「つ、伝える必要がないからですぞ! 余計な情報は、付け入る隙となりましょう。こういう話の通じん平民は、すぐに調子に乗るものですからな!」
「そうですか? 私には、話が通じない相手だとは思えないですけどねぇ」
面白い。すでにオディロンはそう思い始めていた。
すっかり生徒会役員に関する悩みなんて忘れて、この事件がどのように落着するのか、この怪しい平民がどんな弄言を発するのか、それだけが気になってしまっていた。
「どうだろう、ミネット。きみの間違えた問題、教えてあげようか。ヤニック先生、答案を――」
「すでに予測が付いております。小生が間違えたという、その問題でございますが――算学の最後の大問、その一つ目の問いでございませんか?」
ヤニックがびくりと震えた。
「ヤニック先生、そうなんですか?」
「……そう、です。はい……」
ジルベールがぽんと手を打った。
「ははぁ。だからですな、ヤニック先生。この受験生が不正をしたと確信なさっていたのは。算学の最後の大問は、一つ目の問いで正しい値を導き出せなければ、二つ目、三つ目の問いには正解できない仕組み! それが一つ目だけ間違っていたのであれば、間違いなく不正――」
「待ってください、ジルベール先生」
オディロンは眉を寄せて、悩ましい顔で問いかけた。
「……ジルベール先生は、その問題で間違えていたと、聞かされていなかったんですね? その答案は明らかに不自然です。不正を疑われても仕方がない」
「え? ああ、はい。そうだ、その解答は不自然過ぎますな。自白なんてさせずとも、不正の証拠と――」
ジルベールが固まる。
「……ヤニック先生。なぜ、明らかな証拠があるにも関わらず、こんな恫喝まがいの尋問をなさったのです……?」
そうだ。解けるはずのない問題が解けているならば、それはすでに不正の証拠と言っていい。
「もっと言えば、算学の問題なのですから、もう一度解答させ、ついでに解説でもさせれば、不正かどうかはすぐにわかるはずです。ですよね、ヤニック先生」
尋問で自白させるだなんて、非効率にもほどがある。
ヤニックは顔中に冷や汗を浮かべながら、黙り込んでしまった。
「導かれる解は一つでございます」
淡々と、ミネットは口を開いた。
「小生の答えは、間違っていなかったのでございましょう」
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