ある平民が、貴族学園の編入試験で不正を行った理由。(3/8)
過去のオディロンは、ジルベールに問いかけた。
「どこの商家が後見を? あ、国外の豪族ですか?」
「後見はありませんな。王都東地区の教会の推薦状を持っておりまして、それで受験を」
「教会? ああ、無償で勉学を教えているんでしたね。なるほど……」
ならば、十中八九、不正だ。
オディロンはそう思った。青空教室で少し学んだ程度の貧民が通れる試験じゃない。ましてやほぼ満点だなんて、あり得ない。
「不正の手段は?」
「今回の受験者には、全問正解者がおりましてな。その者の解答を盗み見たのでは無いか、と」
「全問正解? そりゃすごい。誰です?」
「トランティニャン商会の子息です。学園にも多額の寄付を。それほどの知力となれば、前途洋々。編入後は生徒会入りもあり得るでしょうな」
意味深に言ってくる。オディロンは肩をすくめた。
「“生徒会書記は当代で最も賢き者が務めるべし”ってやつですか。またそんなカビの生えた古くさい不文律を……。姉上達も兄上達も、そんな不文律、無視していましたよね。知人、友人ばかりで固めて――」
その時、教室内から怒声が響いた。どん、という強い音も。
「いい加減に認めたらどうだね! 不正をしたのだろう!? この薄汚い平民が!」
オディロンは顔をしかめて、もう一度小窓を覗いた。
「少し、言葉が強すぎますね」
「ですな。自分が監督した試験で不正が起きたとなれば、沽券に関わりますから。自ら作問し、全員の答案を採点するほどの力の入れようでしたし。かなり熱が入っているようですよ」
ジルベールは顎髭を撫でた。
「先刻、採点中に、突如として叫び、あの受験生を呼び出したのです。それからは休みなく尋問を。平民は『やっていない』の一点張りですが。……どれ、少し休憩するよう、進言するとしましょう」
ドアをノックして、ジルベールが中に入った。
「ヤニック先生。一旦、休まれては如何ですかな」
「いいえ、ジルベール殿! 邪魔をしないでいただきたい! これは我が輩の、いえ、学園の威信の問題なのです! 不正を見逃せば名折れとなりましょうぞ!」
そのとき、平民がオディロンを見た。
オディロンもまた、その平民と目が合った。
黒い瞳に、少し気圧された。何を考えているのか、まるでわからなかったから。
平民が、ふいに顔を正面に戻し、言った。
「小生は不正をしておりません」
「黙れ! ならば、何故、こんな高得点を取れたというのだ! 一問以外、全て正解だぞ!? カンニング以外ありえんだろう!」
平民が怪訝そうに眉をひそめる。
「……はて。小生は全問、自信を持って答えたのでございますが」
オディロンは「変な一人称だな」と思った。
「お教え頂きたく存じます。小生はどの問題を間違えたのでございますか?」
いま、そこが気になるのか……と、オディロンは首を傾げた。
ヤニックが不愉快そうに片眉を上げた。
「なんだ、その態度は! 一問だろうが全問だろうが、貴様ごとき平民に答えられるわけがない! どの問題であろうが同じことだ!」
「まあそういきり立たず、落ち着いてください、ヤニック先生」
「しかしですな――! って、オ、オディロン殿下……!」
ようやく、そこでオディロンもいると気づいたらしい。
……その時、オディロンは、若干の違和感を得た。ヤニックのことは前から好きではなかったが、今日はいつにも増して、好きになれない空気を纏っている。
そう、それは、いかにも――嘘つきの貴族らしい、雰囲気を。
そこで、平民が再び口を開いた。
「……なるほど、そういうことでございますか」
平民が、オディロンをじっと見た。また気圧される。
「第三王子、オディロン様だとお見受けし、申し上げたく存じます。小生は、祖国、我が父、王都東地区貧民教会、そして神明に誓って、不正をしておりません。しかし――」
ヤニックがまた怒鳴ろうとしたが、オディロンが手で制した。
平民は、オディロンが王族だと分かってなお、特に態度を変えることもなく、淡々と言った。
「――この試験には、決して見逃せぬ不正がございます」
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