祈られたフェンス 其ノ伍
....暇だ
何にしても暇だ
やる事が無いのは嫌いだ
何でって?
退屈だからだよ
前に暴れたのっていつだ?
確か、先月の末の、2週間くらい前か?
新宿のボロいビルのやつだった気がする。
それも大して手応え無かったしなぁ、直ぐに終わっちまったし、全然面白くなかった。
勝手にウロウロして、適当な怪異でも見つけてぶちのめすかぁ....?
........無しだなぁ。
前にそれをやって、佐々木のおっさんにめっちゃ怒られた。
なんか、泳がせて〜寄せて〜、とかウンタラカンタラ色々と言っていたが、良いじゃん。
そいつもブチのめせば良いんだろ?
....でも怒られるのは嫌だ。
佐々木のおっさんも、もっと上のおっさんに怒られたらしいし。
暇だなぁ。
お嬢もパソコンばっかで構ってくれねぇしさ~。
さっきもちょっかいかけたけど、「つまらないやつしかないですよ?」って。
そしたらネギ坊と話してばっかだし。
つまんねぇ~。
『カレンちゃんどないしたん?さっきからモジモジして』
姉御かぁ、姉御も暇そうだなぁ。
でも姉御はいつも暇そうだもんなぁ。
『それ、飽きねえの?』
『飽きるで〜、夏イベやのにピックアップはしょっぱいし、レイドボスのギミックも数字増やしただけでつまらんしやな、サ終近いんちゃう?これ』
....何言ってんだ?姉御は。
『....私らが暇なんはええ事やで?』
「チョコ丸くん」でも食べや。
テーブルの上にばら撒いたいつものお菓子を、ポイっと投げてよこしてきたけど。
『いらねー、動いてねぇから腹も減ってねぇし』
動いてねぇから寝れもしねぇし。
地味な包装をイジイジとこねくり回すけど、やっぱり食べる気にならない。
『何でこんな暇なんだろうなぁ、夏ならもっとハジケてんじゃねぇの?怪異もさ』
適当にガサガサと、テーブルの上のお菓子を漁るけど、やっぱりピンとこない。
『ようけ花火大会あるからな~、東京は。あれがお祓いみたいになってんねん。せやから意外と暇なもんやで?』
『じゃあ、花火大会の所に行ったら怪異出んの?』
『出んやろ〜、出ても纏さん達がパパッと終わらすやろうし』
じゃあ暇なんじゃん。
◇◇◇
うず高く、積もっていた。
前に見た時と同じ。
いや、前よりも、増えていた。
手渡されたタブレットに表示された、例のフェンス。
道寺町商店街の近くのフェンス。
あの線路沿いのフェンスに積まれたお供え物が、増えていた。
数珠やら十字架やら、聖書かコーランのようなものまで、増えているように見えた。
確信に変わった。
いる。
何かが。
見えない何かが。
行かねば分からない。
日を、置く事は良くない気がした。
『月島さん、今からもう一度、行こうと思います』
育ってしまった、それを見落とした自分の落ち度だ。
そのケツは、自分で拭かなければいけない。
陰陽課ならば何とかしてくれるはず、商工会の会長はそう思っていただろう。
それなのに、このザマだ。
自分の未熟さに、腹が立つ。
『商工会にはこの後、私の方から連絡を入れておきます。今から向かえば誰かいるでしょう』
話がまとまった。
机に広げた資料やら、パソコンのウィンドウを閉じ、準備をする。
『簡易ですが、霊盤を組み立てておくので何かあれば連絡が出来るようにしておいて下さいね』
既に印刷していた現場一帯の地図を広げ、おはじきやら磁石やらをバラバラと取り出しながら、何となく、もう大丈夫。
そんな感じがした。