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警視庁陰陽課異聞禄:東京怪奇譚  作者: 渋谷直樹
祈られたフェンス
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祈られたフェンス 其ノ肆

 焦っていた。

 問題は、無かったはずだった。

 何も、無かったはずだった。


 塩を盛り、幣を振り、祝詞を上げて、霊場を整え結界を張り、清浄にしたはずだった。


 定石通り、マニュアル通り、禰宜原家の教えの通り、正確に、慎重に、手順通りに行った。


 いつもの塩、いつもの幣、いつもの祝詞。


 手を抜いたつもりは、毛頭なかった。


『禰宜原くん?聞いていますか?』


 オフィスというには雑然とした、いつもの緩んだ空気が流れる、陰陽課佐々木班のオフィスで、禰宜原崇嗣は揺れていた。


 己の世界に浸って、心ここにあらずといった風な禰宜原の様子に気が付いたのか、タブレットに表示された、例の商工会会長からの再度の要請を読み上げていた、月島操が小首を傾げる。


『....すみません、少し、ぼーっとしてました』


 珍しい。


 何度も説明する羽目になる祝部さんや、戦うような案件以外はそもそも話を聞いていないカレンさんのような人達と違って、どんな小さな案件でも真面目に、誠実に仕事をする彼が、ブリーフィングでぼーっとしていたと。


 ブラインドの隙間からは、照りつける夏の日差しがチラチラと忍び込んでくる。


『....最近は暑いですからね、熱中症だと思う前に、水分補給をするようにしてくださいね?』


 そう、確かについ先刻まで、本来なら纏班がやるはずだった狛江のブルワリーの祈祷をしていたから、だろう。


 なるべく早い時間に執り行ったが、職務の性質上、工事現場で使う様な空調服や帽子を着用することが出来ない為に、若い彼でも、随分体力を消耗したのかもしれない。


 そういう事に、しておこう。


 気を取り直して仕切り直しをするように、コホンと一つ咳払いをすると、再び同じ説明をし始めた。


 凛とした、清涼感のある声で。


 ◇◇◇


 と、言う訳でと前置きし、『先週、初動対応をしてもらったときと概ね同じ現象が起きているようですが、前回とは1点違いがあります』


 月島のタブレットに表示された、商工会会長の証言を近隣の駐在が聞き取りをしてくれた報告書が、一点の差異を読み上げられるのを、今か今かと待っている。


『どうやら、近隣の住人が夢をみるようになったようです』


 まだ大した規模ではないが、それでも、良くはない。

 ただの物が増えるという現象で収まっていれば、まだよろしい。


 それが、他者に影響を与え始めた。

 夢という、無防備な境界へ。

 外から中へ。


『夢....ですか』


 栃木や岡山であったらしい案件で、いずれも事が起きる前に夢が兆候になっていたと、そう読んだことがある。


 報告を聞く限り、このフェンスの件も、徐々に徐々に、しかし確実に、そのボヤけたシルエットを克明に映し出そうとしている。


 あの時はいなかった何かが。

 あの時は、産まれていなかった何かが。


 起きている。


 既に、産まれている。

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