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警視庁陰陽課異聞禄:東京怪奇譚  作者: 渋谷直樹
九折町山神祭事事件:ええ日じゃあ
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九十九折町山神祭事事件:ええ日じゃあ 其の拾参

「今度は一体何やねん!?」


 狛犬の影に身を隠し、 策を考えている間に怒号が聞こえたかと思えば、この有様。二転三転する事態に苛立ち混じりに叫んだ。


「ポルターガイスト、というには些か派手過ぎますね...」


「ほんならエクソシストか神父にでも鞍替えしよか?お生憎さん、英語もラテン語も喋られへんけどな?」


 鉄火場において自分を奮い立たせる為なのか、それとも単に口が悪いだけなのか、苦し紛れのボヤキも、打ち合わされる金属音を孕んだ渦に吸い込まれかき消えていった。


 果たしてこの状況、猪熊カレンはどうなったのか? 救援に来た佐々木はどうなったのか? なによりも、この危険物飛び交う祭場に残された意識不明の観客たちはどうなったのか? 禰宜原が状況を確認しようとそろりそろりと顔を出す。


 ガキン!!


 まるで身を乗り出した禰宜原に反応したかのように、テントの脚がヒュンと飛び、狛犬の鼻先を無惨に削り取った。


 反射的に亀が首をしまうように頭を引っ込め、恐怖を押し殺すように浮かべた苦笑いは引きつり、焦りと疲労が滲んでいた。


「僕も祝部さんみたいにボヤきたくなってきましたよ....」


「あら珍し。やってみると案外気は紛れるもんやで?」


 そう嘯く祝部の眉間にもまた、深い皺が刻まれ、その溝を汗が伝う。


 そんな人間たちの右往左往など無視するように、山神とやらはいよいよもってこの会場に姿を現し、渦となって暴れまわっている。まだまだ楽しみ足りないのか、それともこの不備だらけの杜撰な祭事に怒り、その不満をぶつけているのだろうか?


 もしもこれが正式な伝承や、ちゃんとした口伝が残っているものならば、ある程度でも補完は出来ただろう。しかし、そんなものはこの祭事には存在しない。故に、二人がこの場を納める方法を考えれば考えるほど、懸念は枝分かれしていく。神として祀られたものを相手に対応を間違えば何が起きるか。


 被害がこの場にいる人間の死だけで済めばまだよろしい。山の神であるならば土砂崩れ、山火事、地震、どのような災害を引き起こしたとしても不思議では無い。


 巫女に神職、神に仕え奉る二人には、その危険性が何処までも鮮明に想像できてしまう。どれだけ議論を重ねても、あと一歩の確信が持てない。


 そんな二人の迷いを打ち破るように、通信が入った。


「祝部さん、こちらでも霊場の急変を確認しました!しかし、霊圧値、安定傾向です! 敵意ではありません!」


 駐車場の指揮車からこの会場をずっと観測していた月島からだった。


「はぁ!?机やら椅子やらビュンビュンやで!?これが安定なら地獄も安定やわ!」


「ならば、まだ器を探しているということですか!?」


「その可能性は高いです。こちらからの観測では、敵意を持っているようには見えません!」


 そんなわけあるかいな! そう言いたくなったが飲み込んだ。客観的な観測の結果そう見えたのだ。出口の無い議論の焦り、飛び交う凶器、それに飲まれている自分の感覚こそ疑うべきなのかもしれないと。


「....へぇへぇ、ほんならええ年して迷子にでもなっとるちゅうことかいな?」


 その一言に二人が押し黙った。言った祝部もはたと気が付き黙った。

 何が必要なのか。何をするべきなのかが分かったからだ。だが、その次を告げるものはいなかった。ガシャガシャとした音を立てる渦巻きと、湿気った土と青臭い匂いが、じっとりした沈黙とともに流れた。


 迷子ならば、家が必要だ。帰るべき家が。そして、あるべき場所へと導き迎え入れる存在が必要だ。


 それならば、策はある。無いことはない。祝部にも、月島にも、その方法は過った。そして、禰宜原にも。


「....僕が、器になります」


 禰宜原が、言い淀む祝部と月島を制して、沈黙に幕を引いた。

 目を見開く祝部と、通信越しに息を呑んだ月島に宣言したその表情は、凪いでいた。

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