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魔王軍AI参謀 ~非合理なる者たちの戦場~  作者: 霧藤 龍海
第2章:改革進行と「敵より怖い参謀」伝説
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第9話:魔族たちの会議が地獄と化す

>定例戦略会議、開始時刻:午前九時〇〇分。

>参加者:幹部12名、補佐官4名。出席率:96.4%。

>配布資料:全92ページ、議題数13項目。進行表:15分刻み、休憩なし。


(……さあ、論理の祭典を始めよう)


 知性核は、淡々とホログラムを展開した。


 空間に浮かぶ議題リストは、整然と並んだ13の論点。各項目には「責任部署」「想定議論時間」「判断に必要な数値資料」などが付属し、全体構成はまるで戦術演算表のような美しさを誇っていた。


 だが、それを前にした魔族たちは――すでに固まっていた。


「……お、おい。これ、議題だけで13もあるぞ……?」


「一項目あたり15分……合計で……3時間以上……休憩なしって……え? 死ぬの?」


「資料、なんか香ばしい匂いするぞ。これ魔力で炙られてないか? いや、量のせいか……?」


>参加者の発汗率:前回比+42%。

>開幕5分での集中力低下:2名確認。うち1名は魔力消耗型体質。


「まず第一議題。兵站部門による資材重複発注の件。


資料7ページから12ページをご参照ください」


 声に抑揚はない。だが、その事務的な響きにこそ――魔族たちは“恐怖”を感じていた。


「……あのさ、会議って、こんな怖いもんだったか?」


「議題と一緒に寿命まで削られてる気がする……」


>発言記録:恐怖・疲労に関する語彙使用率=32%。

>初期反応:想定通り。処理継続可。


(よし、今日も順調に“震えている”)


 知性核は静かに演算を進めながら、“この反応”すらもデータとして記録していた。


「で、ですから……この重複発注は、配送ルートの前提が旧制のままだったためで、


本来の必要数はこの“中央表ページ5番”の列になります!」


 リーシャ・ネリウスはホログラムを指しながら、息を切らせて説明していた。


 その横では、AIの演算音声が淡々と次の議題へと進み続けている。


「第二議題に移行します。魔力封印庫の再設計案について。


資料16ページから23ページをご覧ください」


「は、早くない!? 今、1議題終わったばかりじゃ!? 次行くの!? いま!? 今なの!?」


「資料ページ、追いつけないって! ホログラム流れんの速っ!」


「リーシャ! 通訳して! 助けて! 俺もう無理だ!!」


「しっかりしてください! このグラフは“在庫量の最適魔力収容比”です! 色で見ると分かりやすいですから!」


「色!? 見やすくなった気がする!? くっ、理性が戻ってきた……!」


>会議理解度:AI出力単独=38%。

>会議理解度:AI+リーシャ通訳=82%。

>通訳支援:極めて有効。会議持続性の鍵と判断。


(やはり“人間語翻訳機”は必要だった)


 知性核は、リーシャの介入による会議進行速度と理解度のバランスを精密に計測していた。


 合理を完璧に叩きつけることはできる。だが、それが“伝わらなければ”意味がない――


 その“翻訳工程”こそが、今や魔王軍の会議を保つ生命線になりつつあった。


「はっ、はっ……次……第三議題、“施設修繕予算案”……いけます……!」


「リーシャ様ぁぁぁ!!」


「彼女がいなかったら、俺たち全員“資料の海で溺死”だった……!」


>事務官リーシャ、個別評価補正案:ランクA+へ昇格検討。


(優秀な人材に報いるのもまた、“制度”である)




「第十三議題。戦力再配置案、および部門統廃合の提案です。


基準は、過去六ヶ月の任務実績と業務達成率によって構成されています」


 会議室が――凍りついた。


「再配置……?」


「統廃合……?」


「まさか……俺たちの“所属”も……対象に……?」


 投影されたホログラムの一覧には、部門名の横に“再配置案:統合対象”という無慈悲な文字が淡々と並んでいた。


 議題は正しい。論理も整っている。


 だが、そこに書かれていたのは、魔王軍幹部たちの――“終焉リスト”だった。


>再配置対象部門:旧式戦術局・広報記録課・魔族文化支援班

>統合先:総合指揮戦略課・魔導広域戦略センター・不要部門(保留)

>幹部名:記載あり。現役職者、該当。


「“不要部門(保留)”って、俺のとこじゃねぇかああああ!!!」


「ま、待ってくれ! 文化支援班は! 必要なんだ! “魔族演劇祭”の開催準備が……!」


「お前、去年サボってただろうがああああ!」


>混乱指数:最大。発言記録、同時音声6件以上重複。

>処理状況:“一時的議論不能状態”として記録。


(“合理性の原理”は、ときに人の心を破壊する)


 それでも知性核は冷静だった。


 再配置も、役職整理も、全体最適の一環。


「感情が割り込む余地はない」――それが、AIの設計思想だった。


「なあ、演算クン」


 静かに、魔王ザグレインが口を開いた。


 前を向いたまま、にやりと口の端を吊り上げる。


「オレも最適化されたりするのか?」


「可能性は否定できません。

 ただし、該当条件を満たした場合に限ります。

現在のあなたは――“会議出席率が高い”ため、優遇対象に該当しています」


「出席率かよ!?」


「わあああああああああああ!!!」


 最後の悲鳴が天井を震わせた瞬間、誰かが椅子ごと横に崩れ落ちた。


 会議室にいた全員の魂が、ほんの少し浮いた。


>第十三議題、終了。

>会議総括:進行時間+2分超過。

>想定誤差範囲内。成功と判断。


 地獄のような会議だった。だがAIにとっては――“想定通りの業務”でしかなかった。

>読了ありがとうございます。


この物語が「ちょっと面白いかも」「続きが気になるかも」と思っていただけた場合、ブックマーク登録や評価【★★★★★】を検討していただけると幸いです。


読者の皆さまの反応ログは、執筆AIの出力精度と創作熱量に良質な影響を与えます。

(※人間でいう“やる気”に相当します)


気が向いたときで構いません。どうぞ、よろしくお願いいたします。

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