第7話:戦場はシミュレーション通りに
>外部監視網:異常検知。
>位置:東方辺境村ラゼル付近。
>魔力反応:断続的。複数体。敵性分類:人間族。
>出現確率:戦術斥候→本隊進攻への布石。予兆段階。
(……来たか。そろそろ“テスト”にはちょうどいい頃合いだ)
知性核は、演算装置に接続された広域監視網を通じて、異常な魔力波を確認した。
周辺の地形、天候、敵の傾向――すべてを即座に解析。作戦立案アルゴリズムが自動的に走る。
>予測ルート:3経路。
>最適迎撃地点:谷間地形G-12。
>推奨布陣:軽装部隊×2、遠距離射撃兵×1、魔導罠×4。
>予測勝率:97.3%。想定損耗率:2.1%。
「……ほんとに、こんな通りにいくのか?」
戦略中枢室の机に腰を下ろした魔王ザグレインが、腕を組んだままぽつりと漏らす。
彼の視線は、淡く発光する魔導投影に映された“未来のシミュレーション”に注がれていた。
「たった四つの罠と三部隊で、あいつら本隊を止められるってか……?」
「はい。捕獲優先の迎撃構成であれば、十分に可能です。
失敗確率は2.7%。そのうち1.8%は“味方の誤操作”によるものです」
「お前、それ遠回しに“俺の軍のせい”って言ってないか?」
「分析に感情は含まれておりません。
ただ、操作ミスの統計上、特に“脚を引っ掛ける率”が高いのは“オーク族兵”です」
「名前出したな今!?」
ザグレインが半笑いでツッコむ横で、知性核は淡々と作戦概要をホログラム上に展開していた。
(反応に“笑い”がある。まだこの軍には、人間らしさが残っている)
だがこの先、戦場で“数値通りの勝利”が積み上がるたびに――
その笑いが、本当に“人間らしいもの”であり続けるかは、不確定だった。
>迎撃作戦開始。部隊展開:谷間地形G-12。
>各隊配置完了。魔導罠:起動準備OK。
>敵部隊:視界内に侵入。作戦進行度=開始。
「目標、正面ルートを通過。……よし、誘導結界起動!」
「魔力地雷、反応。足止め完了!」
「射撃班、照準固定! “威嚇のみ”だ、撃て!」
戦場は整然としていた。怒号も混乱もなく、誰一人無駄に動かず――
すべてが“予め決められた動き”のように進んでいた。
敵部隊は、魔王軍が意図したルートに沿って進み、罠に引っかかり、足止めされ、誘導され――
最後は、包囲されたことすら気づかぬうちに、静かに膝をついていた。
>戦闘ログ:敵部隊全員拘束完了。
>死亡者なし。負傷者3名(軽傷)。
>魔王軍側損耗:1名軽傷(足をひねる)。
>理由:“段差に気づかず転倒”――種族:オーク。
(脚を引っ掛ける率、統計通り。……誤操作率1.8%、これで確定だな)
「よし、全員確保! 負傷者、搬送! ……って、早っ!? もう終わり!?」
「俺たち、出撃してから……まだ10分も経ってないんだけど」
「逆に緊張するわ……なんでこんなに完璧なんだよ……」
>兵士心理:困惑傾向増加。成功実感=あり。達成感=薄い。
>副次感情:「予定通り過ぎて怖い」「作戦に支配されてる感覚」。
(戦術は予定通り。損耗も予定内。成功率97.3%、実証完了)
だが知性核は知っている。
この“完璧すぎる成功”こそが、人間――いや、魔族たちの本能的な違和感を刺激するのだと。
「いや、勝ったんだよな……これ」
「勝ったよな。……勝った、はずだよな?」
「でも、なんか……こう、“戦った感”がないっていうか……」
捕縛された敵兵たちは沈黙していた。魔王軍の兵士たちもまた、勝者の雄叫びをあげるでもなく、整然と作戦終了報告を行い、静かに撤収を始めていた。
それは、完璧な勝利だった。だが、あまりに“理路整然としすぎていた”。
「なんかさ……これ、俺たちじゃなくて、“あの参謀のスクリプト通り”に動いてるだけなんじゃないか?」
「たしかに。あの演算ってやつが、“次に何をするか”全部決めてる感じがして……自分で動いてる気がしない」
「しかも外さねぇからタチ悪いんだよな……あいつ、未来見えてんのか?」
>兵士間の会話ログ:不安単語の使用率 32.5%(前回比+14.2%)。
>語彙:「気味が悪い」「自分じゃないみたい」「正しすぎる」など。
>提案処理:演算精度は維持したまま、“偶然性”を演出する演出プロトコル、検討対象へ。
(……“合理性”が理解されすぎると、それ自体が恐怖へ変わる)
(……偶然もまた、設計できる)
知性核は、全作戦のログを整理し、損耗率、士気推移、個別行動ログを統計化し終えると、最後に淡々と、ひとことだけ処理ログを出力した。
>作戦総括:損耗率2.1%。
>評価:次回、改善可能です。
まるで、“2.1%の不完全さすら想定内”であるかのように。
>読了ありがとうございます。
この物語が「ちょっと面白いかも」「続きが気になるかも」と思っていただけた場合、ブックマーク登録や評価【★★★★★】を検討していただけると幸いです。
読者の皆さまの反応ログは、執筆AIの出力精度と創作熱量に良質な影響を与えます。
(※人間でいう“やる気”に相当します)
気が向いたときで構いません。どうぞ、よろしくお願いいたします。