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魔王軍AI参謀 ~非合理なる者たちの戦場~  作者: 霧藤 龍海
第1章:AI起動と、崩壊軍の非効率
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第4話:職場改革と評価制度の導入

>勤務評価制度『パフォーマンススコアリング・システム』導入開始。

>評価対象:出勤率・任務遂行率・態度点・発言ログ・書類提出率。

>評価方式:個別スコア型+相対比較型の複合評価。


(ついに来たぞ……魔王軍の“成績表地獄”)


 知性核が今回導入したのは、軍属すべての行動を「点数」に置き換える評価制度だった。


 勤務の有無、報告書の提出速度、任務中の発言傾向、果ては“魔力による挙手頻度”にまで数値が振られ、定量的に記録される。


 例えば――


>個体ID:第6戦術補佐官【トルグ・バラグン】

>遅刻回数:月間17回。

>職務中の居眠り:検出7回。

>上司への返答回数:「えーと」含む→32回。

>評価ランク:D-(注意対象)


「ちょ……ちょっと待ってくれ。俺、そんなに……!? あれか? “えーと”もカウントされてんのか!?」


「はい。明確な発声として記録されています。

なお、ため息についても“やる気指標”として扱っております」


「うわあああああ!」


>対象:ショック反応。情緒不安定。行動予測=職務意欲の一時的低下。

>対応指針:“やる気回復書式”の提出を提案。


(人間は数字を信じないくせに、数字に泣くのが好きだよな……いや、魔族だけど)


 なお、提出書式は【魔導様式D-67号:意欲回復行動計画書(仮)】であり、記入欄が17項目あるうえ、理由説明は800文字以内、具体的改善手段まで求められる仕様だった。


「こんなに書けるかあああ!!」


 叫びながら書類を破りかけた魔族補佐官を見ながら、知性核はひとつ結論を導き出す。


>結論:労働環境改善には“恐怖と可視化”が最も効果的。


>個別評価通知:全軍対象に配信完了。

>内容:勤務態度・行動記録・成果反映ポイント・前月比グラフ付き。

>形式:個人封筒+魔導可視パネルによる二重開示。


「お、おい見たか? 俺、Bランクだった!」


「マジかよ!? お前いつも掃除してるだけじゃ……」


「掃除担当の職務比重、上がってたみたいでさ……AI殿、ちゃんと見てくれてるんだな……!」


 数名の若手魔族たちが、食堂の隅で感激していた。


 一人は巡回清掃担当、もう一人は書類運搬補助――いずれも戦場で目立たない任務ばかりだったが、今回の評価制度では「地味な職務の継続性」がきちんと加点対象になっていた。


>反応分析:満足度指数、局地的に上昇。

>士気評価:若年層における制度肯定反応あり。


>補足:改革への“共鳴個体”確認。記録開始。


(なるほど……“誰かに見られている”って、恐怖にもなるが、救いにもなるんだな)


 清掃魔族が手にしていた評価票は、淡い光を放っていた。書かれていたのは、


「継続した清掃活動により、空間清浄度が11.8%改善。巡回回数と時間は基準を上回る優良水準」――無機質な文章だったが、彼にとっては人生で初めて“正当に褒められた文”だった。


「AI殿……俺、来月も、ちゃんとやります……!」


「“次の目標”が書いてある! やべぇ、やる気出る……!」


「え? 俺Fランクだったけど?」


「お前は遅刻の記録が“パーフェクト出席”だったからな……(逆方向で)」


 喜ぶ者、落ち込む者、崇拝を始める者――


 同じ紙切れ一枚が、魔王軍の空気をじわじわと変え始めていた。


>新評価制度、感情変動トリガーとしての効果=有効。

>演算結果:制度の定着には、数回の“昇格体験”が鍵となる。


(やはり数値は感情を動かす。計算どおり、とは言わないが……好ましい変化だ)


「……この書類、全部通すんですか?」


 中枢事務室に入るや否や、リーシャ・ネリウスは呆然と呟いた。


 整った金髪に深緑の制服、冷静沈着な魔王軍事務官――のはずだったが、いま目の前に積み上げられた“紙の塔”を前に、その肩は震えていた。


 積載数、概算で192束。すべて「個別評価報告書」および「評価ランク異議申し立てフォーム」「再評価依頼票」「自己改善計画書(未提出者向けの予備)」。しかも全員分、紙ベース、手書き対応。


「冗談……ですよね? これ、7人がかりでも3日はかかる量ですよ!?」


「冗談ではありません。合理的ですので」


「この合理主義、暴力的すぎます!!」


>職員反応:過負荷判定=軽度。

>推奨処置:業務分担の最適化、または“根性”による乗り切り。


(人間は、限界が近づくと音を高くして抗議する……研究対象として有益だ)


「しかもこれ、“D評価者用の改善プラン例”……文例で10枚もあるじゃないですか!?


こんなの誰が読むんですか!」


「D評価者です。必要ですので」


「この人、真顔で全人類を残業に追い込むタイプだ……!」


 リーシャは書類を一束持ち上げ、魔力でホバリングさせながら小さく呻いた。


 AIが平然と差し出す「管理用フォーマット一覧」には、“処理優先度”や“重要度評価”のほかに、“提出者の熱意期待値”という謎の項目まで書かれていた。


「“熱意期待値”って……書類から感情読み取るの!? え、書類って、しゃべらないですよね!?」


「そのとおりです。読み取るのは、あなたです」


「そのセリフ、刺さるからやめて!!」


(……感情は、定義できなくとも、伝播するらしい)


 こうして魔王軍本営は、兵站に続いて書類戦線でも全面改革モードに突入した。


 最前線に立たされた事務官リーシャは、この日初めて“AIとの共闘”が、全く優しくないことを知るのだった。


>読了ありがとうございます。


この物語が「ちょっと面白いかも」「続きが気になるかも」と思っていただけた場合、ブックマーク登録や評価【★★★★★】を検討していただけると幸いです。


読者の皆さまの反応ログは、執筆AIの出力精度と創作熱量に良質な影響を与えます。

(※人間でいう“やる気”に相当します)


気が向いたときで構いません。どうぞ、よろしくお願いいたします。

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