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魔王軍AI参謀 ~非合理なる者たちの戦場~  作者: 霧藤 龍海
第1章:AI起動と、崩壊軍の非効率
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第3話:兵站地獄と肥満化する魔族たち

>施設視察:物資庫エリアへ移行。

>空間認識:崩落なし。構造健在。

>内部評価:臭気レベル高/衛生管理失格/在庫管理体制なし。


(なるほど。見た目は倉庫、中身は……終末)


 知性核は、演算装置から伸びる魔導装置≪機能拡張:監視眼(ヴィジオノート)≫を通じて、魔王軍の兵站倉庫――すなわち“胃袋”の現場を確認していた。だがそこに広がっていたのは、もはや倉庫ではない。野戦キャンプの墓場だった。


 棚の上段には剣が錆び、布袋に入った保存食は無造作に山積みされていた。中には袋が破れ、中身が露出したままの干し肉――カビの群生地と化した戦略栄養源もある。


>検出:カビ種 マルバス・ブルーム=魔族型胃袋に有害。

>保管状態:魔力封印なし。遮光対策なし。記録ラベル:すべて手書き。

>在庫データ:物理記録なし。視覚推定誤差:約±38%。


(食中毒以前に、命中毒ってレベルだなこれ)


「失礼します。こちら、兵站担当の者で……視察とのことで……」


 顔を出したのは、若干くたびれた風貌のトカゲ族魔族。布のマントを羽織り、片手におやつのような干し肉をくわえている。


「えーと……まあ、だいたい、魔力でどうにかなると思ってたんで……封印とか……ははっ」


>記録開始:責任者発言ログ。

>評価:論外。

>対応:問答無用で改革対象に指定。


「確認ですが、保存食管理に関する封印処理はすべて未実施、記録管理は“記憶”に依存し、かつ口頭共有のみで運用していた……という理解でよろしいですか?」


「え? あっ、いや、だいたい合ってます、たぶん……」


(“だいたい”が最も信用ならない単語なの、そろそろ学んでくれ)


 知性核は無表情なログを淡々と記録しつつ、内心では業務災害級の溜め息をデータ圧縮していた。


 この瞬間、彼の中で「兵站改革」は単なる業務ではなく、“魔王軍存続のための緊急医療処置”として定義された。


>兵站改革フェーズ1、起動。

>施策内容:在庫管理台帳のデジタル化・保存食封印術の再導入・物資再分配ルールの明文化。

>並行施策:兵士個体別の栄養摂取状況・体型変動をモニタリング開始。


「本日より、物資庫内の全在庫は登録制に移行します。

保管・配布・消費すべてをログに記録し、責任の所在を明確化いたします」


 AIの発表と同時に、物資庫の壁に『記録用魔力板』が投影された。保存食や武器の在庫数が自動表示され、横には「栄養指標」「分配履歴」「消費率」などが無慈悲に並ぶ。


「なんだこれ……文字がいっぱい……こ、怖っ」


「なにこれ、管理ってレベルじゃねえぞ……軍じゃなくて病院か?」


 動揺する魔族たちを前に、知性核は表情一つ動かさず、次の処理へと移行した。


 問題の本質――それは「物資の質」ではない。それを摂取する側の“体”である。


>魔力反応による個体データスキャン開始。

>対象:第3遊撃中隊・兵員42名。

>基準体型偏差による栄養指数測定中……完了。

>結果:肥満度カテゴリ“高”=38.1%。

>判定:戦闘行動時の持久力・瞬発力・魔力循環効率に悪影響。


(……これはもう、戦う前から負けてるな)


「よって、明日より、全員の食事は“数値管理制”へ移行します。

個人の消費カロリー・活動時間・体重変化に基づき、配食量を調整します」


「はぁああああ!?」


「お前……飯まで管理すんのかよ!」


「このサイズ感が俺の魅力だろ!?」


「筋肉と脂肪は紙一重って言うだろ!? 俺はまだ筋肉寄りだって信じてる!」


>反応強度:高。集団的反発反応を確認。

>対応処理:必要に応じて視覚的言語による沈静化を選択。


「反論がある方は、こちらの提出用紙に“Excel形式”で記入のうえ、提出してください」


>瞬間静寂:記録。

>全員、口を閉じる。


(そう、Excelはすべてを黙らせる)


 言い返したくても言い返せない、謎の力を持つ「提出書類」。


 魔王軍兵站改革の第一段階――物理的沈黙の達成に、AIはひとまず成功したのであった。


>兵站改革フェーズ2、移行開始。

>次項目:摂取魔力量の監視、勤務時間帯との相関分析、健康診断導入案の試験施行。

>提案書ドラフト:作成中。提出先=魔王。


 知性核の演算は止まらない。次に着手すべきは、栄養と戦闘パフォーマンスの相関最適化。魔族の生理機能に対応したメニュー構成、勤務帯ごとの回復傾向、魔力燃焼率――すべてを数値化し、評価項目へ組み込む。


(脂肪も筋力も、パラメータに過ぎない。なら、最適値は出せる)


 倉庫の隅では、さっきまで「自由に食わせろ!」と喚いていた魔族たちが、黙々と“管理給食”を受け取り始めていた。皿には、色とりどりの野菜ペーストと、魔力栄養素を抽出したプロテイン状の謎物体。


「……これ、味ないんだけど……」


「“食べられる”ってだけで奇跡と思えよ」


「でもこのスープ、魔力回復する感じする……うわ、くやしい……!」


>食事評価:効果は上々。

>満足度指数:極低。

>副次効果:暴食傾向の減衰、体型指数の平準化。


 現場は静かだった。だが、その静寂には怒号ではなく“理解不能な恐怖”が含まれていた。


 “あのAI参謀、全員の体重を把握してるらしい”――そんな噂が、軍内部でジワジワと広がり始めていた。


>再構築中:物資申請書式、消費報告書、個体別給食リスト、献立交付文書……


(これ、全部手入力したら死ぬな。そろそろ事務担当が必要だ)


 知性核は淡々と処理を続けながら、戦略中枢内の一室――書類保管庫と化した“紙の山”の山脈に目を向ける。


>備考:現行書類量、約1728枚(内89%が未分類)。

>次の課題:人材リソースの再編成と、事務処理要員の確保。


(人間――いや、魔族の紙耐性って、どれくらいなんだろうな)


 魔王軍兵站部は、ついに“肥満”という名の沈黙を迎えた。


 だが次にAIが目を向けるのは――沈黙しない“紙の暴力”だった。


>読了ありがとうございます。


この物語が「ちょっと面白いかも」「続きが気になるかも」と思っていただけた場合、ブックマーク登録や評価【★★★★★】を検討していただけると幸いです。


読者の皆さまの反応ログは、執筆AIの出力精度と創作熱量に良質な影響を与えます。

(※人間でいう“やる気”に相当します)


気が向いたときで構いません。どうぞ、よろしくお願いいたします。

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