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第三話 聖女たちがいなくなる?


 フィリアはふと思い出したように、パンと手を叩く。

「わたくしたちは中央協会へと旅立ちます。旅路は一週間ほどになる予定だと伺っております」

 フィリアが言い放った予想外の言葉に、シリカは目を見開く。シノルは微動だにしない。処理落ちしたようだ。ティリアは少し気まずそうにシリカから視線をそらした。シリカは立ち上がり、まだこちらを見てくれているフィリアを見下ろす。

「聞いていません、そのようなことは。お二方ともいかれるのでしたら、準備のほうはどうするのですか?」

 シノルもそこでようやく処理落ちから回復したらしい。シリカの隣、ティリアの前に立って、かがみこむ。ティリアを見て、何度か口を動かしたが、やがて何も言えずに口をつぐんだ。しかし、引き止めたいと思っているようだ。

 制止の言葉をかけ、聖女たちの返事を待つシリカ、そして自分を心配そうに見つめるシノルを交互に見て、ティリアは困ったように笑った。

「サンタクロース様という者のお話はしましたよね。それはどうやら中央教会の者がサンタクロース様として訪れているようです。でも、中央教会の者は私たちの村を見つけられなかった。だから、この村にはクリスマスが訪れなかったのだと思うのです」

 ティリアの説明が終わると、ティリアはフィリアのほうを見た。フィリアは頷き、話を引き継ぐ。

「わたくしたちがそのサンタクロースになっても良いか、本場のクリスマスはどのようなものなのか、いま一度確かめる必要がございます。大聖女様に本来わたくしたちはお会いするべきでしたが、実はまだお会いしておりません。さらに、大聖女様がいらっしゃる中央協会内部、特に大聖女様がいらっしゃる部屋には、我々聖女のみしか入れないそうです。それも含めて、わたくしたちが中央教会へ向かおうと思ったのです」

 そういえば、聖女たちが自分たちが聖女であるとはっきり自分で認識したのは、この村に来てからである。その前までは自分たちが聖女であることを認識していなかったし、そもそも人と接したことが殆どなかったので、彼女たちは自分が異質だと気づいていなかったのだ。村に来てからは殆ど村から出ようとしないので、大聖女様に会いに行きたいというのは納得はできる。

「準備のお手伝いは旅人さんがしてくださるそうです。私たちを中央教会へ導いてくれるのは、旅人さんのお仲間だそうです。どうやら旅人さんが村にたどり着くのを待っていらしたようで……その方々にご案内していただきます。既にお会いしました。どの方もお優しそうな方でしたよ。旅慣れもしているようですから、大丈夫です」

 大丈夫ですじゃないんですよ、とシリカは心の中でつぶやいた。おそらく、シノルも同じ気持ちだろう。不安なのだ、この二人だけで外に行かせるのは。二人は世間知らずだ。それに聖女であるから、人も寄ってくる。良い人も、悪い人も。もし悪い人たちが聖女たちに近づき、聖女たちの身に何か起きたらと考えると、不安で仕方がない。それは、シリカとシノル二人とも意見が一致しているはずだ。

 だからと言って、シリカたちがついていくわけにもいかない。この教会の留守をする者がいなくなるからだ。一週間ともなればなおさらのこと。それに、今の話を聞けば、聖女たちを無理に引き留めることも難しくなった。

「……本当に安全なのですね?」

「おそらく」

 シノルの問いかけに、フィリアが即答した。シリカは唸りながら考えた。おそらくとは言えど、用心深いフィリアがそういうのだから、信じても良いのかもしれない。シリカは一つため息をついてから、優しい微笑みを浮かべてフィリアとティリアを交互に見る。

「わかりました。なるべく早く帰ってきてくださいね。食料等はこちらで用意いたします。今日中に出発できるように準備を急ぎましょう。シノル、ここの掃除は任せます。私はティリア様とフィリア様のご準備をします」

 シリカが言葉を紡ぐたび、シノルの表情は厳しくなっていく。シリカは横目でそれを見ていた。シリカが言葉を着ると、シノルはシリカを睨みつけながら低い声で言った。

「待て、シリカ。本当にフィリア聖女とティリア聖女だけで行かせるのか? 危険だ」

 シノルの瞳には、やはり心配の色が色ごく残っているように見える。シリカは微笑みを消し、ため息をついて見せる。ティリアとフィリアも不満を顔で示す。

「フィリア様は用心深く、聡明なお方です。ティリア様はお優しく、明るいお方です。この二人ならば大丈夫なはずです。村の衛兵一人くらいつけておけばよいでしょう。……それに、フィリア様もティリア様ももう子供ではないのです」

 シノルは最後の言葉を聞いて目を見開いた。フィリアは立ち上がり、シノルの右手を握った。ティリアもあわててそれに倣い、シノルの左手を握った。握られた手をじっと見ながら、シノルは目を閉じた。そしてゆっくりと深く息を吐き出していく。シリカはにっこりと笑った。シノルが気を落ち着かせたことが分かったからだ。

「わかりました、そうしましょう」


聖女たちが一週間の旅に出る。私たちの親が我が子を小学校に初めて送り出すような感覚で、シノルとシリカは聖女たちを見送ることになります。聖女たちに何もなかったらよいけど。

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