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第十七話 聖女たちの決断


「ということは……ティリア様、貴方は、封印を解いたと……」

 シノルはティリアにそう問いかけた。ティリアは数秒目を伏せ、そしてしっかりとシノルを見据えて、頷いた。

 神。天界にいるとされるそれの声を聴けるのは聖女だけだ。もともと普通の人間より神に近しいのに、更に近くなって、人間から遠ざかってしまったのか。

「なぜ……」

 シリカの思考はそのまま口から漏れ出た。フィリアは主祭壇から離れ、シリカの前まで歩いてきた。シリカの手を、彼女はそっと取り、握った。シノルもシリカも、フィリアを見つめる。

「シャーロット様にもそう問われました。なぜ貴方たちはそれほど力を求めるの、と。詳しくはあの場では明言しなかったから。彼女にわたくしたちはこう答えました。わたくしたちの願いは、この世界の永遠の平和だ、と。でも、それには続きがある。そして、私たちの村を、愛する村を、守ること」

 シリカの目から、涙がこぼれた。シノルの頬にも、涙が伝っていた。フィリアが話している間にシノルの前まで歩いてきていたティリアは、色々な感情がないまぜになって涙を流すシノルを、そっと抱きしめた。

「この村は一見平和なように見えて、実は争いごとがかなり起こりやすい傾向にあることを私は知りました。昔、教会もかなりの権限を持つはずが、村長を名乗る者に政権を乗っ取られてしまっていた。もともとこの村には聖女がいたけれど、その聖女はどこかへいなくなってしまったから。その原因は教会にあるのだと、糾弾されていましたね。そこに私たちが駆けつけて、助けた……」

 思い出を辿るように、ティリアが語る。そう、それこそがティリアとフィリアをこの村に縛り付けてしまった原因。聖女たちとシノルたちの縁を結んだ出来事であると同時に、聖女たちをこの村に留める呪いとなったの出来事。

「ティリア聖女とフィリア聖女の助けがなければ、俺たちの村は内部崩壊を起こしていたでしょう。それを救ったのはお二方です。でも……」

 叫ぶように言葉を紡いでしたシリカが、耐えきれなくなって崩れ落ちた。言葉を紡げないくらいに泣いた。自分たちがこの世分かった少女たちを守れなかったという事実と、聖女にそんなことを強いた自分たちに怒りをこえて悔しさが溢れてしまう。シノルは自分を抱きしめてくれるティリアの髪を見下ろし、シリカの言葉を引き継ぐ。

「人ならざる者にならなくともお二方は我々の村を守れていたではないですか……少しくらい脅威が増えても、人であることを捨てなくても……」

 ティリアが強くシノルのことを抱きしめ、フィリアはしゃがみ込んでシリカの隣に回り、彼女の背をさする。

 本当はシノルにもシリカにもわかっているのだ。聖女たちの決断を否定してはならないと。彼女たちも考えた末に決行したのだと。でも、理性がそう言っていても感情が納得しないのだ。ずっと一緒に、すごく間近に見て来たから。

 ティリアがそっと、シノルから離れた。その顔に浮かんでいるのは、決意の表情。決して揺らがぬ信念のもとで、彼女たちが決断を下したことが分かった。

「いえ。わたくしたちは覚醒しなければなりません。今年は一六七九年。来年はおそらく厄年です。不幸が舞い込む可能性が大いにございます」

「そのわけは?」

 シノルは間髪入れずに問い返した。フィリアはシリカの背をさする手を止めぬままに、シノルを見上げ、説明を始める。

「八八〇年。双子の聖女が覚醒し、そのせいで戦争が起きました。その戦争の名は、聖戦。その時、世界は一度滅び、世界中が荒野になったそうです。そして、つい最近、八〇年にも小規模な紛争が起きていたこともわかりました。八〇〇年に一度に来る、厄年。それが来年なのです」

 シリカが嗚咽を飲み込んで、フィリアを見る。

「来年に……厄災が来る?」

 ティリアはそんなシリカを見下ろして頷き、シノルに視線を戻す。

「はい。それを防ぐこともかねて私たちは決意しました。でも、この決意が間違っていれば、皆には多大な迷惑をかけることになります」

 ティリアは背伸びをして、シノルの頬にキスをした。シノルはびくっと体を震わせる。一歩、また一歩と後退していくティリアの瞳には、うっすらと涙が滲んでいる。

 フィリアは立ち上がって、ティリアの隣に並ぶ。彼女の表情も、今にも泣きだしそうに見えた。

 二人の背を、一筋の日光が照らす。神々しい光に包まれ、彼女たちは真の聖女に見えた。

「「大好きです、シリカ、シノル。そして、お願いします。わたくしたちを、この村に置いておいてくださりませんか。わたくしたちは、ずっとこの村にいたいのです!」」

 二人が声をそろえてそう叫んだ。小さな、しかし、心を揺さぶる叫びだった。人じゃなくなった。神に近くなった。でも、それでも、この二人はこの村にいたいのだ。この村の者と過ごしたいのだ。この村を、愛しているのだ。シノルの胸にこみあげてきたものがあった。それを、迷うことなく開放する。

「「……もちろんです‼」」

 シリカと声が重なった。彼らの声が、何も言わずにそろったと言う事は。その気持ちは、村人の総至りえる物だということ。

 聖女は、双子は、村の者に愛されているのだ。皆を愛しているからこそ、彼女たちは愛を受け取っているのだ。彼女たちのこの村の滞在を願う者は、全員だ。

「フィリア様、ティリア様。皆に、伝えてください。事情は話さなくてよいです。貴方たちがどうなったのか、これから、どうしたいのかを」

 シノルはそう乞うた。フィリアとティリアは迷うことなく頷いた。


———屋内なのに、心地よいそよ風が吹いたような気がした。


 ティリアとフィリアの目じりにうっすらと涙がにじみ、シリカとシノルはいまだ収まらぬ涙を頬に伝わせる。四人は自然と集まって、皆で抱きしめあった。絶対にこの村を守る。そう決めた。


 四人は、確かに聞いたのだ。


———ありがとう、そして、未来を、頼みます。


聖女たちはシノルやシリカを含む村人たちが大好き。シノルやシリカを含む村人たちは聖女たちが大好き。皆もう離れられないけど。それは、とても幸せなことだから。みんな幸せになれますように!


追伸 まだちょっと続きます!

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