第十六話 聖女の秘密
「シャーロット様とお会いしたのは、言わずもがなあの時です。一か月前ですね。シャーロット様は勿論、クリスマスのことについて話して終わりになさるつもりでした。しかし、わたくしには気になることがあったのです。共同墓地。知っていますでしょう?」
シノルは頷く。あそこは誰も入れない。シノルやシリカでさえも入れないのだ。
「わたくしは、そこの存在をずっと謎に思っていたのです。なぜ村人は入れないのか。何がそこにあるのか。わたくしはそれを問いました。シャーロット様は、まだ十五、わたくしたちと同じくらいの年齢です。大聖女の務めを果たすにはまだ幼すぎました。普通は、大聖女様は成人し、本格的な教育を受けてから、二十三くらいに大聖女様に代替わりします。ですが、シャーロット様のお母様は最低限の知識を託した後にお亡くなりになってしまいました。お体が弱かったからです。今は教育と並行しながら務めを果たしています。つまりは教育不足です。だからシャーロット様は、共同墓地のことを話してはいけないことを知らなかった」
シノルは右手を挙げ、フィリアの言葉を遮った。
「つまり、その共同墓地には、深い秘密が隠されており、本来は大聖女様はそこのことをはぐらかす必要がある、と?」
要点をまとめてそれを確認するように尋ねる。そのことにより、シリカの頭も少しずつ働き始めた。フィリアが頷いて、ティリアに視線を向ける。ティリアも頷いた。
「シャーロット様が共同墓地について話しだしたとき、すぐ近くにいた補佐の聖女が慌てて止めようとしました。しかし、私たちは聞いてしまったのです。その共同墓地が隠されているのは、この村が堅い結界に覆われているのは、共同墓地の進入禁止地域には、大聖女様のお墓があるからだ、と」
「「大聖女様のお墓⁉」」
シリカの頭が急覚醒した。シノルも叫ぶように繰り返した。この何にもない閉塞的な村に、まさかそのような大切な物があろうとは、思いもしなかったのだ。ティリアはこくりと頷く。その顔に動揺はない。そういう反応が返ってくることは予想済みだったようだ。
「そうです。そこまで話してしまうと、補佐の聖女には止められなくなりました。彼女は私たちに信頼できる者以外には話さぬように告げました。シャーロット様は事の重大さに気づかれたようでしたが、すぐに切り替えられました」
そこでティリアは一度言葉を切ってうつむき、深く深呼吸をした。フィリアがそっとティリアの手を握る。ティリアもぎゅっと握り返し、シノルとシリカを再び見た。フィリアも二人をじっと見つめる。
「わたくしは問いました。もしそれが、ほかの街に漏れたら? その共同墓地が狙われたら? その際は、この村はどうなるのか、と。シャーロット様はこう仰りました。恐らく、襲われてしまうでしょう、と」
シノルはぐっと喉が詰まったような衝撃にさらされた。もしこの穏やかな生活の空間が壊されたら、住民たちは生活していけない。外の世界に全く触れてこなかった自分たちは、外に出て生活する術を身に着けていないのだ。
「シャーロット様は補佐の方のお話を聞き、顔を真っ青にしてわたくしたちに謝罪をされました。自分が勝手に話したせいで、貴方たちの村の危険性が増した、と。わたくしは謝罪をなさるのを止めるよう願い、そして、どうすれば強い力を持ち、ほかの街の者たちを止め、この村をまもることができるのかと尋ねました」
フィリアが息を吸って、吐いた。ティリアが手をほどいて、フィリアの肩に手を置く。
シリカは立ち上がった。シノルはそっとシリカから少し離れ、そして、聖女たちに近づく。シリカもそのあとに続くように主祭壇に向かった。二人の聖女が浮かべていた表情は、寂しげな微笑み。シノルは立ち止まり、手をぎゅっと握りしめた。聖女たちにその重責を背負わせたのは、自分たちだ。聖女たちがこの村にとどまったのは、自分たちが引き留めたのもあるのだから。
「シャーロット様は仰りました。封印を解け、と。聖女には、封印が課されているそうです。本来聖女が持っているのは、大聖女と同じくらい強い力。しかし、大聖女以外の者がその力をふるえば、世界の均衡は崩れてしまう。だから、神々は聖女の力を封印している、と」
フィリアが話すことのスケールの大きさに、シノルはめまいがするような感覚に襲われた。聖女は神と通ずることができる、聖なる力を持つ特別な人。だから、特別な力を持っていることも、それに神々が干渉することも、論理的には理解できるのだ。しかし、ティリアもフィリアもごく普通の人間のように暮らしていて、そのことをこの目で見て認識できたことは無かったようにも思える。
「このことは、補佐の聖女が正しいと証言しました。このことは文献にも書かれている、と。そして、彼女はこうも言いました。この封印を解けば、大聖女のように人ならざる者に……神に近くなり、普通の人間として過ごすことは難しくなる可能性がある、と。私たちは、その方法を問いました」
方法を問いました。つまり、それは……シノルの心の中で、パズルのピースがどんどんと繋がっていく。
隠された村の秘密。それは、聖女が村を訪れたことと無意識下でつながっていたのかもしれません。そして、聖女たちが村をこよなく愛し、村を救うためにした決断。だから、聖女たちは……




