間章② 願い
その日の夜のこと。ティリアとフィリアは、教会に置いた一つの鏡の前に立っていた。その鏡に映るのは二人の顔ではなく、緑色の髪に茶色の瞳を持つ少女。
「お久しぶりです、シャーロット様」
フィリアのあいさつに、シャーロットと呼ばれた少女はこくりと頷いて見せる。彼女は少しうれしそうなほほえみを浮かべている。夜遅くとはいえ、誰かと話せるのが嬉しいのだろう。
「ええ、お久しぶりね、フィリア、ティリア。会ったのは一か月ほど前かしら?」
シャーロットが小さく首をかしげて尋ねると、ティリアが頷く。シャーロットもそれに頷き返すと、しばらく虚空を睨んでいた。数十秒そうしていたが、やがてティリアたちのほうに視線を戻し、微笑みを深める。ティリアとフィリアは背筋を伸ばした。
「どうやら、貴方たちは無事、成し遂げたようね」
フィリアとティリアは一度視線を下げ、鏡の下で手を絡ませた。それをぎゅっと握る。彼女たちの身体が淡く発光するのを見て、シャーロットはさらに頷いた。
「今日は何か見せたの?」
「はい。移動術と、浮遊術を」
「そう。それは皆驚いたでしょうね」
「そうですね。皆動転していたようでした」
くすくす、と三人の少女の笑い声が静かだった教会の空気を震わせる。
しばらく笑った後、シャーロットが真剣な面持ちに戻る。フィリアとティリアも手をほどき、表情を引き締めた。シャーロットは少し心配げな光を瞳に宿す。
「もう後戻りはできないわ。既にあなたたちは、〝人ではない〟のだから……私は選択肢がほかになかったけれど、貴方たちはほかに選択肢があったはず。ねえ、教えて。なぜそうなることを望んだの?」
フィリアとティリアは問いかけられた瞬間、同時に表情を消した。いや、感情を消し去った、というべきだろうか。シャーロットはそれを見てこくりと息を飲み込む。フィリアは静かにシャーロットを見つめながら話し出す。
「わたくしたちの願いは強大で、わがままなものでした。そしてそれは、あの時のわたくしたちではなすことができなかったものです。今のわたくしたちだからこそ、それを成すことができるようになりました」
シャーロットは何かもの言いたそうに眉を下げる。少し苦しそうなその表情を、二人は意にも介さないで、無表情のままにシャーロットを見つめる。シャーロットはそれを見てさらにもどかしげな表情になる。そして、身を乗り出して尋ねた。
「ねえ、あなたたちの願いを私はまだ聞いていないの。教えて、なぜそれほどにも力を求めるの」
ティリアが静かにシャーロットを見つめる。
「世界の永遠の平和。それが、私たちの望みです」
シャーロットはそれを聞き終え、ゆっくりと目を見開き、そしてゆっくりと目を伏せた。すっと彼女の指が動き、何かの模様を空中に刻む。そして、淡く発光して実体化したその模様をシャーロットはそっと手に取り、優しく握る。
「フィリア。ティリア。その願いは確かに強大であり、そして的確な願いであります。私も、可能な限りのお手伝いを約束します」
シャーロットがその物体を鏡に押し付ける。すると、それはフィリアたちの鏡から出てきた。空間転移術である。フィリアはそれを受け取った。ティリアもその物体に触れる。
すると、彼女たちの中にそれは溶けて消えた。彼女たちの顔に、自然と微笑みが浮かんだ。
「貴方たちに神々のご加護がありますように」
そういい、シャーロットは通信を切る。フィリアとティリアは、静寂の中に落とし込まれた。二人はそっと地面に座り込み、お互いのことを抱きしめた。
大聖女シャーロットは、自分の行いに公開を抱いている様子。彼女は聖女たちに協力すると約束しました。聖女たちの願いとは、いったい、何なのでしょうか。




