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第17話 楽しい時間もいつかは終わる

 □棍棒巨人の集落近辺


 ――つん。


 ――つんつん。


 頬をつつかれている感覚。

 シンはゆっくりとまぶたを開けた。


「ん……?」


 目の前には、目元を覆うような白い仮面をつけたプレイヤー。

 仮面のプレイヤーは短めの銀髪に、大きめの胸を有している。

 見たところ女性であることが伺える。


 仮面女子はシンが目を覚ましたのに気づき、ビクリと肩を震わせた。

 そしてシンの頬をつついていた指を引っ込め、分かりやすくモジモジし始める。


 (うーん。いまいち状況が…………)


 シンは鮮明とは言えない思考を何とか平常へ戻そうと試みる。


(なんで仮面をつけた人が俺を膝枕してるんだ――)


 そこでシンは思い出す。

 自分が意識を失う前に何があったのかを。


「メイク!」


「……っ!」


 シンが勢いよく起き上がったためだろう。

 仮面女子は驚き、喉を詰まらせた。


「ごめ――」


 咄嗟に仮面女子に謝ろうとしたシンだったが、その言葉が途中で止まる。


「これは……」


 シンの眼前には地獄絵図が広がっていた。


 ガルーダのような姿になったインフィニット・バラエティ・スライムが端からプレイヤーを貪り喰い――

 続々とプレイヤーが到着することで、インフィニット・バラエティ・スライムの餌食が増え続けている。


(でも、なんで……)


 ここでシンは1つ疑問に思った。

 それはインフィニット・バラエティ・スライムが瀕死のシンを食わなかった理由だ。


 シンは戦闘中、インフィニット・バラエティ・スライムの言葉を聞いた。


 ――美味しいものを……食べるのが……楽しい。そうだ……お前が一番……強そうで美味しそう……!


 インフィニット・バラエティ・スライムの言葉は真実だっただろう。

 強い者ほど美味く、戦場で最も美味いだろうと感じた相手はシンだった。


 今も殺した相手を端から食っており、シンだけ見逃されることはないはず。


 単にインフィニット・バラエティ・スライムの標的が変わっただけという線もあるが――


「よかった! 目が覚めたんですね! 僕はあの……女の人に頼まれてシンさんの回復をしてました!」


 そう告げるのは緑オールバックの仲間である金髪青年。

 『女の人』と聞いて、シンはすぐさまメイクのことだと気づく。


「メイクはどこに?」


 メイクのことだ。

 絶対に死んでいない。

 今も戦っているのだと、シンは確信している。


 対して、シンを回復してくれていた金髪青年は答えた。


「それが……この戦場ですから。僕も分からなくて……」


 そこでシンは冷静にメニュー画面を開いた。


 シンはメイクとパーティを組んでいる。

 つまりパーティ欄からメイクの残りHPを確認すればメイクの安否が分かるのだ。


 そうしてメイクのHPを確認すると――


「まだ生きてる……さすがメイク」


 幸い、メイクのHPは残存。

 まだ死んでいない。


 とはいえ、シンから見える位置にもいない。

 無理をしているだろうことはすぐに分かった。


「すぐ行く……って、まずい……!」


 メイクを助けようと動き出そうとするが……シンには肝心の剣がない。


(そうだ、敵に折られて――)


 今すぐにでもメイクを助けに行きたいというのに、武器がないのでは話にならない。


 ――つんつん。


 そこでシンは肩をつつかれた。


 見れば、先ほどシンの頬をつついて起こしてくれた仮面女子が立っている。

 その仮面女子は無言で剣を差し出していた。


「貸してくれるの?」


 こくり、と頷く仮面女子。


 差し出された剣を鞘から引き抜けば、その刀身は黒。

 直感だが、シンはその剣を強そうだと感じた。


 インフィニット・バラエティ・スライムから感じる殺気や威圧感とはまた違う。

 ともかく、頼もしいと思える剣だと。


「ありがとう!」


 仮面女子から剣を受け取って、走り出す。

 後で必ず返さねばと思いつつ。


「さてと……」


 戦場には暴風をまとい、怪鳥と化したインフィニット・バラエティ・スライム。

 今は風操作スキル【ウィンド・ブレッシング】一種に絞って行使しているらしい。


 インフィニット・バラエティ・スライム自体が強くなったのか――

 それともスキルを一種に絞ったからか――

 暴風の影響が先ほどまでと桁違いだとシンは唇を噛む。


 暴風の直撃を受ければ、宙に巻き上げられて落下死するか、あらぬ方へ飛ばされて激突死するだろう。


 ゆえにシンは風の流れを感じつつ、暴風の直撃をいなしながら戦場を駆ける。


 ほとんど見えない風斬撃を避けつつ走り、シンは数秒でインフィニット・バラエティ・スライムの元へ辿り着いた。


 メイクの死だけは許容できないという想いが、シンの五感を研ぎ澄ませ、足を速めさせたのだ。


 シンが辿り着いた激戦地。

 そこにはアイテムを駆使して戦線を保つメイクの姿があった。


「【クイック・リトリーブ】……ハァハァ……っ!」


 インフィニット・バラエティ・スライムはG2制覇を成したばかりのルーキーが敵う相手ではない。

 本来ならルーキーでは足止めにもならない。


 ――しかし、それはシンやメイクではないルーキーの場合だ。


 メイクはインフィニット・バラエティ・スライムの行動を先読みして動いている。


 シンがインフィニット・バラエティ・スライムと戦っている間に、敵手の動きの癖を記憶していたのだ。


 加えて、インフィニット・バラエティ・スライムの剣捌きが完璧に近かったのも、メイクにとっては僥倖ぎょうこうだった。

 完璧に近いということは、常に最善の一手しか打ってこないということ。


 インフィニット・バラエティ・スライムにメイクを欺くだけの知能があれば話は別だったが……。

 生憎と、インフィニット・バラエティ・スライムは欺く力を大して養わずに強くなれた。


 真っ向から捕食を実行してくるだけなら、メイクにも時間稼ぎをすることは可能だったのだ。


 それに戦場にはメイク以外にも腕利きなのだろうプレイヤーが数十名ほど立っている。

 メイク一人に攻撃が殺到していないことも幸運といえた。


「くそ……っ!」


 しかし限界が来たのか、ボロボロになったメイクが態勢を崩す。


 その隙を逃さずインフィニット・バラエティ・スライムがメイクを急襲するが、それを許すまいとシンの剣が振るわれる。


 刀身を黒に染める剣はインフィニット・バラエティ・スライムの肩口を斬り払った。


(この剣……やっぱり強い)


 シンは一振りで直感する。

 この剣の凄まじい強さを。

 この剣ならばインフィニット・バラエティ・スライムにダメージを与えられると。


 しかし喜んでばかりもいられないらしい。


 ダメージを受けたインフィニット・バラエティ・スライムの形相が変わる。

 そして瞬時に標的がシンへと切り替わる。


『来たなぁァァァああああAAAAA!』


「まあね、第3ラウンド開始だッ!」


 シンの声とともに戦場は更にヒートアップ。


 立っていることすら困難な暴風の中で、シンとインフィニット・バラエティ・スライムが高速で戦闘を行う。


『KYURAAAAA! あははァァあAAAあああッッッ!!!』


「くッ……!」


 シンは先ほど同様、インフィニット・バラエティ・スライムの攻撃をいなす。

 そして、すぐ背後で膝をつくメイクに暴風吹き荒れる中、声をかけた。


「メイク! 支援頼むよ!」


「シン……!」


 声音からメイクが涙ぐんでいるのが伝わる。


 シンの復活を誰より信じていたからこそ、彼女の胸はいっぱいだった。


「【バフ・アジリティ】!」


 涙ぐみながらメイクはスキルを詠唱。

 それと同時に、周囲のプレイヤー達も続々とスキルを詠唱し始める。


「【バフ・ヒットポイント(スリー)】!」

「【バフ・ストレングスⅢ】!」

「【バフ・バイタリティⅢ】!」


 シンに施されたのは単なる支援系スキルではなく、支援系上位スキル。

 シンのHP・STR・VITが軒並み8倍に強化される。


 それにより、シンの身体に今まで感じたことのない力が宿った。


 その力を余すところなく剣に乗せる。


 仮面女子にもらった剣は不思議と手に馴染み、インフィニット・バラエティ・スライムの操る風斬撃を弾いていく。


 災害と見まがうような決死の戦場。


 しかし今、聞こえてくるのは地を揺らすほどの声援だった。


 静寂と死の気配が漂っていたG3エリアは依然として死地である。


 しかし、静寂と死の気配は声援によって塗り替えられていく。


「今あいつに勝てるのは、お前くらいしかいねえよ!」

「そうだぜ! 絶対勝てよな!」

「EBM報酬は惜しいけどな! お前にならくれてやる!」


 声援をくれたプレイヤーたちは皆、シンの戦いを見てくれていた人なのだろう。

 声援はステータスを上昇させないが、何よりの力になるとシンは感じた。


「もちろん……! 絶対に勝つッ!」


 彼らに大声で応え、黒き怪鳥と化した敵手を見やる。


 暴風ではシンを殺せないと考えたインフィニット・バラエティ・スライムは突進を敢行。

 対するシンは怪鳥の爪に剣を合わせる。


『KYUUURAAAAAA!!!』


「あああああああッ!」


 剣と爪がぶつかり、衝撃が大地と大気を揺さぶる。


 シンは敵手の動きの癖を掴んでおり、攻撃に伴う衝撃を逃がすことにも成功している。

 それでも、この衝撃は想定外だった。


 自身が気絶している間にどれだけのプレイヤーを取り込んだのかと、シンは戦慄する。


 ――――――————

 MN(モンスターネーム):インフィニット・バラエティ・スライム

 等級:G4

 ID:50805551

 討伐カウント:6


 レベル:533(SSP:0)

 HP:1000(+3万1000)

 MP:1330(+4万1230)

 STR:1000(+3万1000)

 VIT:1000(+3万1000)

 DEX:0

 AGI:1000(+3万1000)


 スキル:【自動HP回復Ⅱ】【自動MP回復Ⅱ】【状態異常耐性Ⅱ】

【物理ダメージ耐性】【魔法ダメージ耐性】


【エンハンス・ヒットポイントⅢ】【エンハンス・マジックポイントⅢ】

【エンハンス・ストレングスⅢ】【エンハンス・バイタリティⅢ】

【エンハンス・アジリティⅢ】


【ファイア・ブレッシング】【サンダー・ブレッシング】

【アイス・ブレッシング】【ウィンド・ブレッシング】【ソイル・ブレッシング】

 ――――――――――


()内の補正値が跳ね上がっているのは【エンハンス】―—強化系上位スキルによるものだ。


 例えば【エンハンス・ヒットポイント(ツー)】はHPを4倍に。

【エンハンス・ヒットポイントⅢ】ならばHPが8倍になる。


 加えてG4にランクを上げたこともあって、全ステータスに4倍の補正がかかっている。


 G4になっても成長を止めないインフィニット・バラエティ・スライム。


 しかしシンには負けるイメージが湧かなかった。

 この戦場にはインフィニット・バラエティ・スライムを討たんとする多くの仲間がいるのだから。


 シンの剣と、敵手の爪が再度交錯し、両者ともに笑う。


 シンは多くのプレイヤー達と共に、本気で戦えるのが嬉しくて――

 インフィニット・バラエティ・スライムはやっとシンを食える時が来たのだと喜んで――


 早く倒さなければならないと分かっていても、シンは願わずにいられなかった。

 この楽しい時間が少しでも長く続けばいいと。






 ――スキル取得条件を達成。


 ――スキル取得者のIDおよびプレイヤーネームを参照。


 ――プレイヤーID:12189698

 ――プレイヤーネーム:シン


 ――AW(エーダブリュー)本部へスキル付与の許可を申請。




 ――開発責任者エマ・イングラムがスキル付与申請を承諾。


 ――スキル付与フェーズへ移行。


 ――ID:12189698にオリジナル・スキル【真の覚醒者】を付与します。

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