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第15話 敗北を告げる悪魔の剣

 □棍棒巨人の集落近辺


『ぁぁああああAAAAAAAA!!!』


「ッッッ!!!」


 シンがインフィニット・バラエティ・スライムと戦い始めてから、どれほど経っただろう。


 高AGIによる体感時間の伸長。

 人生初と言っていいほどの極限の集中状態。


 その2つが掛け合わさり、シンの中で時間の感覚が曖昧なものになっていく。


 自らの集中が深まるにつれて、常以上の挙動を可能にしていく身体感覚。


 シンを襲うのは鳥肌が立つほど凄まじい高揚感と万能感だ。


 完璧な剣捌きと上位魔法を展開するインフィニット・バラエティ・スライムを前に、シンの頭に敗北のイメージは微塵も浮かばない。


 ――そんな時、戦闘音で埋め尽くしていた森に聞こえてくる声があった。


「こりゃあ派手にやってんなぁ!」

「救援ってことだが、本当に狩ってもいいのか?」

「っしゃあ! やったるぜ!」


 〈ニート〉への救援要請によってか、はたまた激しい戦闘音によってか。

 プレイヤーが救援に駆け付けてくれたのだ。


 EBMの希少性を考えれば、今後も討伐に挑戦しようとするプレイヤーがこの地へ殺到してくるはず。


 プレイヤー数が増えれば、当然EBM打倒の可能性は上がる。

 シンとしても攻撃を受け流してきた甲斐があったというものだ。


 戦場に駆け付けたプレイヤーが続々と攻撃をしていく。


 シンが攻撃をいなす間に、敵手に少なくないだろうダメージが入っていく。


『うああぁァああアアアアAAAAAA……!』


 インフィニット・バラエティ・スライムは呻き――


「止めだッ!」

「叩きこむッ!」

「貰ったァ!」


 救援に来てくれたプレイヤー達が決着と言わんばかりに武器を振るう。


 ――結果を言えば、その武器がインフィニット・バラエティ・スライムに届くことはなかった。


 彼らがいずれも一瞬で死んだからだ。

 彼らの背後から現れた巨大な黒いスライムに飲みこまれて――


「――ッ!」


 どうやら敵手は二手に分裂していたらしい。


 シン達が相手取っていなかった分裂体は別の場所で食事を続けていたのだ。


 丸々と太った分裂体は、シンの相手取っていた人型の本体に取り込まれていく。


『ぉぉおおOOOOOOOOO!!!』


 分裂体を取り込んだインフィニット・バラエティ・スライムの力が飛躍的に高まる。


 インフィニット・バラエティ・スライムの放つオーラとでも言うのか。

 絶対強者にしか放てない威圧感がシン達を襲う。


 ――そしてシンは悟る。


 インフィニット・バラエティ・スライムの力が、自身の技巧では受け流せないレベルにまで高まってしまったことを。


「それでも……退かない……ッ!」


 敵手の攻撃を幾度となく受け流してきた剣にひびが入る。


 ――負ける。

 ――数瞬の後、確実に。


 諦めた訳ではない。

 勝ちを追い求める中で、冷静さを保ったままの頭がシンに敗北を告げるのだ。


 受け流しきれなかった力の奔流を受けてシンの身体がグラつく。

 ここまで大きな隙を、敵手は決して見逃さない。


『あはハハあァァァぁあああAAAAA!』


 やっと隙を作ったシンに対し、インフィニット・バラエティ・スライムは口から黒いジェルをまき散らして笑う。


 その笑みは恐怖を伝えてくるが、下卑げびたものではない。


 飢えに苦しんだ者がやっと食事にありつける時のような狂気じみた笑み。


 ――狩られる恐怖。食われる恐怖。

 ――これが弱肉強食というやつらしい。


 シンの目に映る光景がスローになる。

 高AGIゆえに引き延ばされた体感時間が理由じゃない。


 体感したことはなかったが、おそらくは走馬灯のようなものだとシンは思った。


 スローになった世界で響くのは、快活で勇気を与えてくれるメイクの声。



 ――ウチらがやってるのは学校の課題じゃないんだよ~? 正解も不正解もない楽しんでなんぼのゲーム! それも日本一人気のね!


 ――選んだ道を正解にすればいいってこと! シンが一緒ならウチはどんな冒険だって楽しめるんだからさっ!



 (ああ、そうだった)


 冷えた頭が敗北を告げてこようとも、自ら負けを認めるわけにはいかない。

 シンは心を奮い立たせて、剣を握る腕に力を込める。


 (メイクに言ったじゃないか、絶対勝とうって――)


 命尽きるまで、その戦意を滾らせる。

 訪れるであろう敗北の運命さえ、捻じ曲げるのだとシンは吠える。


「ッぁぁぁあああああああッ!!!」


 崩れた体勢を無理やりに直して、剣を振るい――


 ――敵手の剣がシンの剣を砕き、そのままシンの肩から腰にかけてを切り裂いた。


「ぁ……」


 両断とはいかぬまでも傷は深く、衝撃で吹き飛ばされる。

 いとも簡単に、ほこりのように軽く。


 シンには緑オールバックの仲間が施してくれたVITを2倍化する【バフ・バイタリティ】がかかっている。

 とはいえ、身体が両断されていないのは奇跡と言ってよかった。


 吹き飛ばされた先で、シンは救援に来てくれたのだろうプレイヤーに受け止められる。

 かすむ視界には駆け寄ってくるメイクの姿と、シンを追撃しようとするインフィニット・バラエティ・スライムの姿。


 しかし、インフィニット・バラエティ・スライムは続々と現れるプレイヤー達によって瞬く間に進路を防がれている。


 そのため、シンが集中して見ているのはメイクだった。

 涙を流す彼女から目を離せない。


 (まったく……今日だけでメイクを泣かすのは……2回目か)


 意識がなくなっていく感覚も2度目。


「お願い……! 誰かシンを治してっ! 死なせないでっ……!」


 メイクの懇願。


 対して――


「出血多量だよ! 僕のMPが切れれば【パーフェクト・ヒール】が使えなくて、スリップ・ダメージであっという間に死んじゃう!」


 そう言ったのは緑オールバックの仲間である金髪青年だった。


 なお、回復系スキル【パーフェクト・ヒール】は、100MPを消費して対象のHPを全回復させるスキルだ。

 回復量は多いが、如何せんMPの出費も大きい。


 対して今のシンは『出血』よりも深刻な『出血多量』に陥っている。

 出血量に伴い、秒間で総HPの1~10%を失う深刻な状態異常。


 多量の出血に伴い、シンは意識を保つこともままならない。


(まだ……負けたくな――)


 意志とは裏腹に、シンの意識は闇へ落ちていく。


 シンは救援に来てくれたのだろう何者かの腕の中で、静かに意識を手放した。

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