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第13話 覚醒前、死地にて笑う

 □棍棒巨人の集落近辺


「――助けに来た」


 それだけ言って、シンは剣を構える。

 メイクの【バフ・アジリティ】によって、AGIが2倍になっている状態だ。


 殺到するのは火球、氷柱、雷、風の刃。

 足場はうねっているが、今のシンにとっては()()()()


 ――強者への挑戦、弱者の救済。


 やりたいことが明確となったシンに迷いはなく。

 迷いのなさがシンのパフォーマンスを引き上げる。


 ――膂力りょりょくで劣るなら。

 ――攻撃を全て()()()()()()()


 小難しいことは考えず、シンプルな思考の元にシンは剣を振るう。


「――フッ!」


 息を吐きつつ振るわれた剣。


 優男の言葉通り、自信をもって挑むだけだとシンは己に言い聞かせる。


 その自信に根拠などなくてもいいのだと、迷いを振り切れた今なら思える。


 シンは火球・氷柱・雷・風斬撃の軌道を剣で逸らす。


 全てを受け流すことはできず、魔法のいくつかは身体を掠める。

 しかし、シンのHPはさほど減っていない。


 G3制覇を果たしている緑オールバック達ですら、全て防ぐのは不可能だと悟った魔法をシンは1人で受け切っている。


 それは尋常な剣技ではない。

 シンとインフィニット・バラエティ・スライムのレベル差を考えれば、およそ人間に許された芸当を超えている。


『GAAAァァアアア!』


「――ッ!?」


 しかし油断はできない。

 魔法を捌く合間――インフィニット・バラエティ・スライムが肉薄し、剣を振るってくる。

 敵手の剣技も高次元。


 しかしシンは不敵な笑みを浮かべて、その剣に応える。


 シンは敵手の剣をも捌けると確信しているのだ。


 単純なSTR勝負では勝てないため、インフィニット・バラエティ・スライムの力を受け流すことを念頭に。

 剣の耐久値すらも減らさないつもりで――シンは完璧な防衛を見せる。 



「――ほらほらぁ! あんた達もボーッとしてないで迎撃しな~!」


 そこに遅れてやってきたメイクが乱れた金髪を直しながら声をあげた。


「あ……!」


 呆けていた緑オールバック達もその声で我に返ったらしい。


「お前らは……」


 緑オールバックが呆然とした様子で声をあげる。


 その声でシンも悟る。


(なるほど。俺が助けたのは彼らだったのか)


 シンは襲われてるプレイヤーを助けたいと思って、戦場に飛び込んだだけだ。

 そのため、自身の助けたプレイヤーが誰かまでは分かっていなかった。


 しかし、今の声で助けたプレイヤー達が誰なのか、シンも分かった。


 その上で、シンから頼みたいことがあった。


「力を貸してほしい」


 その間にもインフィニット・バラエティ・スライムを相手取り、シンは魔法を捌き続ける。


 インフィニット・バラエティ・スライムの手数は豊富。


 本来ならば防衛のための手が足りないはずなのに、なぜか防御が間に合う。 

 シンを襲う不思議な感覚――今なら何でもできてしまいそうな高揚感。


 その高揚した感情が声音に乗り、緑オールバック達の心を揺さぶる。


 ブイモンでは威圧感や殺気の他にも、高揚感や悲壮感さえ伝わる時があるのだ。


「でも……俺達……お前らをPKしたんだぞ? 自分たちがEBMを狩りたいからって」


 緑オールバックは尚も渋るらしい。


 しかしMMOにおいてレアな敵を巡って争うなど当然で――

 むしろ、それが醍醐味なわけで――


 ただ、そんなことを言っても納得してくれそうにないならと、シンは更に提案する。


「後でメイク……俺の相方に謝るなら、さっきのことは許すよ」


 メイクが許すかどうかは別だが……。


 とはいえ、シンはPKされたことを本当に気にしていない。


 問題はシンを貶めるような発言をして、メイクを傷つけたことだ。


「だから力を貸してよ。PvPも悪くないけどレイド戦も悪くないでしょ?」


 攻撃を捌き続けて、何とか余裕ぶって口にする。


 対してシンの背後で笑いが起こった――と同時に、シンに殺到する魔法の数が一気に減る。


「ははっ……!」


 シンが笑いつつも見れば、左右に大剣を持った緑オールバックと大盾を持った巨漢が立っていた。


 彼らはシン1人に殺到していた魔法の何割かを受け持ってくれている。


「レイドって言っても7人しかいないけどな……! よっし、俺らの力で良ければ貸すぜ!」


「とはいっても魔法防ぐくらいしかできそうにないけどな! 敵本体は俺らじゃ捌けなさそうだし。EBM本体の相手は頼んだぜ」


 2人に頼まれてシンは「もちろん!」と答えた。


「【バフ・ストレングス】【バフ・バイタリティ】! 僕らも支援しますよー!」

「【パーフェクト・ヒール】! 僕も同じく!」

「【アイス・ブレッシング】~! 面白くなって来たなぁ!」


 支援スキルによりシンのSTRとVITにバフがかかり、HPが回復系スキル【パーフェクト・ヒール】により全回復する。

 氷壁によってシンへ殺到する魔法の数がさらに減り、戦いやすいフィールドが整っていく。


 シンの眼前には、黒い翼を生やしたインフィニット・バラエティ・スライム。

 豊富な手数と完璧に近い剣捌きを並行してくる強者。


 足場は悪く、本来の剣捌きを発揮しにくいコンディション。

 それにも関わらずシンは負ける気がしなかった。


 緑オールバック達と並び立って戦うことで、シンの心に芽吹いた自信が確立される感覚。


 ――迷いを晴らし、皆と肩を並べて戦うことで、より鮮烈にシンの才能が開花していく。


 ふと、シンは優男の言ったことを思い出す。


『――心技体って言葉があるくらいだからね。自信を持つだけでシンくんの動きはもっと良くなるんじゃないかなって思ってさ!』


 自信がこれほどまでにパフォーマンスを向上させるとは、シンにとっても予想外だった。


 後で優男にお礼を言わなければと思いつつ、シンは敵の攻撃を凌いでいく。



 ――それにしても楽しいなぁ。


 シンは敗戦濃厚ともいえる無謀な戦いの中で、場違いとも言える感想を抱いた。


 しかし、強者と戦いたかった彼の心境を考えれば当然というもの。


 今まで格上のモンスター相手に戦うことはあったが、それは勝算がある戦いばかりだった。


 なにせシンの相方はメイクだ。

 モンスター討伐はいつも合理的で勝算が高いものばかり。

 それは何も間違ってはいないが、シンの欲求とはまた少し違うものだった。


 インフィニット・バラエティ・スライムの攻撃に剣を合わせながら、シンは思わず笑みを零す。


『食わせろぉぉォォOOOおぉぉぉ……?』


 そこでシンの笑みを見たインフィニット・バラエティ・スライムが叫ぶのを辞めた。

 そして攻撃を中断することなく、問う。


『なんで……笑う?』


 EBMであるインフィニット・バラエティ・スライムに言って伝わるかは分からない。

 それでも嘘をついたところでどうしようもない。


 シンは今の気持ちをまっすぐに伝える。


「自分の気持ちに素直になれたから……かな。君は何が楽しい?」


『…………』


 インフィニット・バラエティ・スライムは問いを受けて黙る。


 心なしか剣捌きが稚拙ちせつになった。

 思考に意識を持っていかれているからだろう。


 しかし、シンは不意を突かない。

 不意を突いたところで大したダメージを与えられないことは分かっているからだ。


 数瞬の後、インフィニット・バラエティ・スライムは呟き始める。


『美味しいものを……食べるのが……楽しい。そうだ……お前が一番……強そうで美味しそう……!』


 そうして口から黒いジェルを垂らすインフィニット・バラエティ・スライム。


 シンの直感が警鐘を鳴らす。

 インフィニット・バラエティ・スライムが更に力を放出してくることを。


 ――どうやら第2ラウンド開始らしい。


『食わせろぉぉおおおおOOOOO!!!』


 インフィニット・バラエティ・スライムの剣速がさらに上がる。


 同時に戦場を取り巻いていた魔法が再展開。


 その様相は先ほどまでと少し違う。

 速度に優れた雷と、攻撃を予見しにくい風斬撃に絞ったらしい。


「――メイク! この状況を打破できる?」


 シンは切羽詰まった状況で考え事ができるタイプではない。

 ゆえに打開策はメイクに任せる。


 元からシンが実働部隊で、メイクが頭脳担当なのだ。


 それにメイクなら、きっと何とかしてくれるとシンは信じているから。


「今、打ったよ~! 打開策ってやつをさっ!」


 対してメイクから声が返る。


 今回もシンに言われる前に行動を起こしてくれていたらしい。



 メイクの声が響いてすぐ、シン達の頭上で爆発音がした。


 その爆発音にシンは聞き馴染みがある。


【ファイア・コントロール】による火球が爆ぜた時の音だ。

 それはメイクの炎操作スキルによるもの。


 そしてインフィニット・バラエティ・スライム以外の全員が理解する。

 メイクが空中へ、この局面を打開するための火球を打ったのだと。


 ――あとはメイクと即席の仲間たちを信じて剣を振るうだけ。


 シンの集中が更に深みへと入りこんでいく。


 徐々に敵手の剣と、自らに迫りくる魔法にしか意識が向かなくなっていく。


 不敵な笑みを浮かべながら、シンは悪魔めいた人型と剣を打ちつけ合う。

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