登校初日にマリア様に出会った話
あまり私は話すのが得意ではないが、友達を作ろうと登校初日にその子に話しかけた。
桜がひらひらと舞う、それは私たちを祝福するかのように、自由に 地面に、落ちていった。
生徒があふれてむさくるしい教室で、思い切って後ろの席の女の子に声をかけた。
「はじめまして・・・私の名前は映子。あなたは?」
なんだか、お姫様のように丁寧な言い方になってしまったと反省しながら相手の返事を確認してみる
その子はびっくりしたように目を見開いて、次の瞬間には歯並びの悪い愛嬌のある笑顔で(にっ)
と笑ってこう言った「あたし、真理!よろしくね!」
多分、今人生で何番目かに入るくらいにキラキラした瞬間を私は迎えている。と映子は思った。
「どんな音楽が好きなのー?」イヤホンを指に絡ませながら私はね!と言いたそうな顔で真理が言う。
「私は今はあんまり聴いてないんだけど、モーツァルトとか…でも最近のスピックってバンドも聞く!」
一瞬階段を踏み外したのに気付いた私はすぐに思考回路のスイッチを切り替え,最近流行りだというテレビで特集もしているバンド名をあげた。
「え?!モーツァルトって、、、でもいいね。そういう趣向もアリアリ」
本当にそう思っているのか、いないのか私には分からなかったがアリだ。と本人が言っているのなら大丈夫だろう。
「うん。モーツァルトはね聴いてると情景が浮かんできて体が動いてくる。それに絵を描く時に耳障りにならない一番のミュージックだよ」
一度受け入れられると、安心してついつい話過ぎてしまう。
「へー、絵描いてるんだ。私の兄も、よく描いてるよ。全然うまくはないけど、将来は美大に入るんだーってデッサン教室で悪戦苦闘してるみたいだよ。
普通の学校じゃなくて絵が学びたいんだって。自由でいいよねー私は本当、棒人間でも下手になるような人間だからさ」
真理は、遠慮することなく家族の話までしてくれた。これは、心を開いていると考えていいだろう.まったく、考えすぎてしまう自分がいやになる
「そうなんだ…いいなー。私は学校にはいかないんだけど、好きなことだから細々と続けられたらいいなって」
良いながら少し気まずい空気を察して笑顔のままそう言って、こう続けた。
「お兄ちゃんの絵、写真とかないん?」少しフランクに聞いてみた。
真理は全く遠慮することなく携帯で探し出しこちらに差し出してきた。
その瞬間、先生が教室に入ってきたので絵の感想は言えなかったが絵は見ることができた。
色彩豊かな色鮮やかな風景画、ビルや建物が透き通る色彩で描かれたそれは夢で見たような澄んだ景色で見るものを浄化するかのようだった
先生が一通り連絡をし、プリントを配り終わるまでの間映子は頭の中で何度も真理のお兄ちゃんが描いたという風景画を消えないように思い浮かべた。
先生が退出したとと同時に、息を止めていたかのように考えていた事を頭の中でごちゃごちゃする感情を、整理しながら伝える。
「お兄ちゃん、まじでいい絵描くじゃん。」今の自分にはそれが精いっぱいの伝えかただ。
「まじか。今度伝えておくね、兄、喜ぶわー!ところで映子は?どんな絵描くの?」
すぐに呼び捨てにできるあたりも、コミュニケーション能力がたけているという証だろう。
「わたしの絵は、たぶん見たらびっくりすると思うけど見せてもいいかな?」
「コワ!上手くてってこと?そんなこと言われたら気になって夜も寝れないよー」
恥ずかしそうなそぶりをなるべく見せないように、いつも持ち歩いているノートに描いた落書きから見せた。
これで引かれたら、もう二度と見せることはないだろう。すごく冷静にそう思いながらノートを真理に差し出した。
それは、寝ている女性の落書きだったが裸だった。どこか奇妙な、顔は神聖に。寝ているのか、死んでいる描写なのか目をつぶっている
体の周りには蝶や動物が寄り添っている。線はとても滑らかに、自分をモデルにしているのか顔はほんの少し映子に似ていた。
問題は思春期真っ只中の女子高生がそれを描いた。ということだけだった。そして描きなれているのかとても上手い。よほど研究した証だ
そして、見せているのがこれから仲良くなるであろう、初対面の女の子でということだけだ。
神妙な面落ちで、それを見つめて真理はゆっくり丁寧にページを閉じ、ノートを返した。
「うーん、私にこれを見せてくれてありがとう。勇気がいることだったよね。好きとか、嫌いとかそういうものを超えた愛を感じたよ」
真理はそう言って、少し照れくさそうに自分の髪をなでてなおすしぐさをした。
映子は、今まで自分を受け入れられたことがなかった。
正確にはあるのかもしれない。自分でそう感じたことがなかった、というのが正しいだろうか。
絵を見て良いと言ってくれる人はほかにもいた。だが、その裏に隠された理解できない。というあきらめにも似た、感情だった、そういうものを
映子は敏感すぎるほどに人の分まで、感じすぎて生きてきた。
自分でも、よくわからなかった、ただ好きだから、綺麗だと思うことを描く。
それで満足していたのに、かんじがらめになっていたのは人の目や思い、いつか自分を苦しめていた。自分で暗示をかけていた。
そのままで良い。そのようなメッセージが絵に込められていたのだ。
その真理の一言で、映子は涙腺がゆるんで気づいたら涙があふれていた。
悔しかったね、悲しかったね、ありがとう、そのままでいいんだよ。
映子は、そのように言われているように感じた。泣いているのに温かい、ぎゅーっと抱きしめられているような心地の良いあたたかさ。
真理は、泣いている映子をなだめることもなく、ただ冷静にそばにいた。
映子は、真理の美しいまなざしをみて次の作品は真理にモデルになってもらおうかと考えていた。
マリア様のように、美しい彼女を。