第92話 アリーゼのお仕事
早いもので四つ子は10歳になった。
サナはもうすぐ9歳だね。
そして妹のジャニスは7歳。
もう一度、簡単におさらいね。
四つ子の長女リコアリーゼ。
契約精霊はキューピーハニー。
二女ラナエミール。
契約精霊はチーカマ・パイパイ。
三女サラアーミア。
契約精霊は浦島魔子。
四女アルサラーラ。
契約精霊は桜ミコ。
ルルナの娘サナ。
契約精霊は巴御前。
二女ジャニス。
契約精霊は藤原香子(紫式部)。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。」
「でもお姉様、私、聖女なんて呼ばれるのは
初めてだから・・・」
この数年で精霊教の信徒は爆発的に増えた。
特に目覚ましいのはハイラム聖教国だね。
ジンムーラ大陸南東部のほぼ全域を統治下に
置いたんだ。
指導者として采配を振るってきたのは、
サーシアの聖騎士バイアス・ロンドガリア。
この度、その功績により王の称号を授与する
事になったんだ。
アゴネスがモモに承認されて王になった様に
ハニーがバイアスの王位を承認する事に
なった。
その戴冠式の為にアリーゼとエミールが
ハイラムへ行くんだ。
「何も難しい事は無いわよ。
ニコニコして手を振っていれば良いの。」
「楽勝だよぉ!エミール!」
「貴女はお気楽ね、パイパイ。」
アリーゼは前世で大聖女代理として、
まったく仕事をしないサーシアに代わり、
教会の仕事をこなして来た。
公式行事は慣れたものだよ。
エミールは内気な性格をしていてね。
自分に自信が持てないんだ。
やっぱり駄目なんじゃないか?とか
どうせ無理に決まってる・・・とかね。
とにかく消極的で、自分から進んで
何かをやろうとはしないんだ。
サーシアは娘に甘々で、特にエミールには
激甘なんだ。
侍女を5人も付けているくらい。
他の子達の侍女は2人なのにね。
『嫌なら無理にしなくても良いのよ。
お母様がなんとでもしてあげますからね。』
なんて調子だから、もっぱらアリーゼが
手を引き背中を押しているんだよ。
「お母様は甘やかし過ぎるのです!
何時まで経っても自立出来ませんわ!」
『ア、アリーゼ・・・
そんなにキツく言わなくても・・・
エミールが可哀そうよ・・・
ま、まだ子供なのだから・・・』
「私と同い年ですよ!四つ子なんですから!」
『あ、姉と妹は違うと言うか・・・』
「アーミアもサラーラも聖女として活動して
いますのよ?
あちこちの集会に出たり、式典で演説したり。
サナもジャニスも精霊塾で講師をしてますわ。
引き籠っているのはエミールだけですわよ。」
『あ、あの子達は前世の経験があるから、
でもエミールは初めてなのよ・・・私が・・
私がちゃんと産んであげなかったから・・・』
いつでもこんな調子なんだよ。
(駄目だ・・・お母様の側に置いておいたら
ダメ人間になってしまう。)
そこでアリーゼのお仕事に同行させる事に
したんだよね。
場数をこなせば、その内に慣れてくるだろう。
やれば出来る子なんだから。
「では行って参ります・・・お母様・・・」
『気を付けてね!
無理をしてはいけませんわよ!』
「横で見ているだけですわよ!」
『だからよ!退屈で寝落ちしないかしら?
心配ですわ~』
「大観衆の前で寝落ちするのなんて
お母様だけですわ!」
『あぁ~心配ですわぁ~~~』
「あ、あの・・・お母様・・・私・・・
頑張りますわ・・・」
『まぁ!エミール!偉いわね!成長したわ!』
「まだ何もしてませんわよ!」
***
ハイラム聖教国大聖堂前広場を埋め尽くす
喜びと興奮に上気した群衆。
いやぁ~暑苦しい~~~
この日の為に作られた舞台の上で戴冠式が
執り行われる。
今は余興のお芝居が演じられているよ。
バイアスのこれまでの業績を劇にしたやつね。
これが終われば王位の授与式。
ハニーが具象化した王冠をアリーゼが授ける。
エミールは横に居て見てるだけだね。
特に何かをするのでは無い。
「お、お姉様・・・あ、あの・・・」
「ん?どうしたの?」
「その・・・お手洗いに・・・」
「まぁ!もうすぐ劇が終わりますわ。
我慢できませんの?」
「げ・・・限界・・・」
「もっと早く言いなさいな!仕方が無いわね、
急いで行って来なさい!」
「は、はい・・・」
過度に緊張すると膀胱が収縮してね、
おしっこが近くなるの。
これは少しでも体を軽くして早く逃げられる
様にする為の反応なのよ。
野生の名残りだね。
尿~~~意ドンっ!って事ね!
***
大~行~列~~~
この世界には既にトイレが在るの。
遺跡の下水施設を修復して再利用したのよ。
大災厄で文明が滅びたと言っても、それは
高度な知識や大規模な魔法科学が失われた
って事でね。
公衆衛生の概念とかは、ちゃんと残ってるの。
製鉄の技術とかも有るんだけどね、
生産量が少ないし品質もあんまり
良くないのよねぇ。
遺跡から発掘した方が早いし、
品質も比較にならないほど高いの。
そんな事よりも今はトイレだよっ!
どーするよぉ~?
どこも満員でズラ~~~っと並んでるよぉ~
「空けるように命じましょうか?」
エミール付きの侍女頭が指示を待っている。
聖女の権限を持ってすれば割り込むくらいは
簡単だよね。
「だ、駄目よ!そんな事は出来ませんわ!」
幼くして死んだとはいえ元日本人だ。
順番を守る習慣は染みついているのだよ。
「どうするぅ?我慢できる?」
「む、無理ぃ~ねぇトイレ具象化出来る?」
「それは無理ぃ~私には小道具ぐらいしか。」
人型精霊は物質の具象化が出来るんだけど
人型にも階級があってね。
パイパイは序列15位だからねぇ~
手で持てる範囲の物じゃないと無理だね。
「おマルなら出せるよ?」
「お・・・おマル・・・」
「どうする?」
「つまり・・・その・・・」
「うん、野ションってやつ?」
「あの・・・実は・・・」
「あぁ!大きい方ね!」
「しぃ~~~声が大きいわよぉ・・・」
ゲリっちゃったのよぉ~♪
らら♪らんらん♪
ゲリっちゃったのよぉ~♪
らら♪らんらん♪
「じゃぁ腰かけタイプのやつにするね。
大とションをカーネルサンダース!」
「や、やめて~笑うと漏れる~~~」
「大聖堂の裏に林が在りますから、
そちらで如何でしょうか?
我らで人が来ぬ様に見張りますゆえ。」
侍女頭が気を利かせて進言する。
もうそれしか無いよ?
腹を括りなよ!
いや、今括ったら出ちゃうかな?
「う、うん、じゃぁそーしよーかな・・・」
「早くしないと式典に遅れるよ?」
「だ、駄目・・・走ったら出ちゃう・・・」
そっとね・・・振動は厳禁だよ~
ニトロブリセリンだよ~
脂汗を掻きながらようやく裏手まで来た。
雑草の中に分け入り人目に付かないように。
誰も来ない様に侍女達が見張る。
「こ、この辺かなぁ~」
もう限界!
ギリギリなんとか間に合った・・・
「はぁ~~~助かった~~~」
ガサガサッ!がさっ!
え?
「うわっ!」
「え?」
「何してんだ?お前。こんなとこで。」
「ひっ!ひぃぃぃ・・・」
裏側から来た~~~!
想定外~~~!
「ぎゃあぁぁぁ~~~~~~~~!」




